とある青年の後悔1
別視点の話です。
あと二〜三話この青年の話です。
もし、一つだけ願えるなら。
……君の幸せを祈りたい。
俺は君を助けられなかった。
……苦しみ、嘆く君を。
親愛なる親友へ。
俺は何時の日も味方だよ。
例え、君が別人の姿をしていても。
君が俺を覚えていなくとも。
何時の日も、来世でも。
君の味方だから。
君を助けられなかったこと。
君がこの世界にいたこと。
絶対に忘れないから。
本当、後悔ばかりだよ。
ごめんな、親友。
「パパ? どーしたのぉ?」
「大丈夫だよ」
俺は笑顔を繕った。
そして愛娘の髪に触れて……。
愛娘の名を呼んだ。
「雪未」
今夜は月がとても綺麗だ。
……俺は何よりもこんな日が嫌い。
よりによって、君がこの世界にいなくなった日に、こんなに酷似した状態になるなんて最悪だ。
「パパ? 泣いてるの?」
……愛娘に心配させるなんて、まだまだ俺も子供だな……。だけど、ごめんな。
今日だけは……。
今日だけは見逃してくれないか。
「生きてるだけで良かったのに」
「パパ?」
心配そうに俺を呼ぶ愛娘。
だけど、俺は想いが溢れ出して、言葉を紡ぐことを止められない。言葉が次々と音となる。
「狂ってても良かった!」
「病んでても良かった!」
「お前は俺の親友で……」
「俺はお前の為なら、奴と戦うことを躊躇わないのに! どうして?」
「どうして、死んだんだよ!」
「……生きててくれよ……」
どうしよう? 涙が止まらない。
……愛娘の前だと言うのに。
「パパは、ここがいたいの?」
俺の涙が移ったのか、愛娘は泣いていて。
そして、心臓に手を当てていた。
そこは大体の人が、人の「ココロ」があると表現する場所で。俺はまた泣きたくなった。
「そうだよ、雪未。
お父さんはね、大切な人を目の前で奪われたんだ。復讐、出来るならしたかった。
でもね、それよりも……。
……お父さんの、初めての親友を守れなかった自分が憎くて憎くてたまらなかった。
……でも、親友は優しいから。
お父さんが死ねば怒ると思った。
真っ当に生きて、生ききって、親友の元にいくことが親友の望みだと思うから。
たった一人の女性を愛して。
愛しい愛娘と側にいて、そんな日常を生きることにしたんだよ、お父さんは。
でも、どうしてもダメだね。
この日だけは……」
……愛しさよりも後悔が勝ってしまう。
親友を守れなかった後悔。
そして、親友の変化に僅かに気づくのを遅れてしまったことに対する後悔。
飛び立つ君の手をしっかりと握り締められなかったことに対する絶望、そして後悔。
……指に触れられたのにさ。
それは一瞬で。俺の手は空回りして、君をこの世界に止めることが出来なかった。
だから、せめて幸せでいてと願う。
長い間、会えなくていいから。
「パパ、いつか会えるよ!
雪未にはわかるの、パパはいつかしんゆうさんに会えるってこと」
満面の笑みで愛娘は言った。
……どういうことだ?
いつか俺は、あいつに会えるって。
「雪未が会わせてあげる。
パパはかみさまに、しんゆうさんの幸せを願っているんでしょ? なら、雪未は……。
パパの幸せをねがうことにする!
パパが幸せなら、雪未も幸せだから。だから、パパが悲しいなら雪未も悲しい。
だからね、雪未はパパがしんゆうさんに会えるように、たっくさんかみさまに願うよ」
愛娘は、その小さな手で。
俺の髪に触れた。
愛娘のその言葉に、ありがとうって言いたかったけど、涙が邪魔して言えなかった。
いつか話そう。
……愛娘に、俺と親友の昔話を。