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君と僕の一ヶ月2

僕はぎゅっと静夜くんが来ている服の袖を掴んだ、思わず人の多さに圧倒されてゴクリと息を飲んだ。当たり前だ、何せ今いる場所は王都なのだから。たくさん人がいても、なんのおかしくはない場所であり、僕は思わず馬車から降りたことをとても後悔した。

そんな僕の様子を見て笑う静夜くんは、周りの異性の三人に一人の確率で振り向かせていた。なんと言う、天然たらしなのだ。

僕なんて、女の子と間違えれたぞ。

なんと言う大きな違いなのだ。

そんな僕の内心など露知らず、

「雪未は箱入り娘ならぬ箱入り息子だな。しっかりとはぐれないように腕を掴んでいるんだぞ、雪未が誘拐されたら犯人を無事に牢屋に入れられるか危ういからな。雪未、けして離れないようにしてくれよ? 俺は手加減がとても苦手なんだ」

にっこりと笑っているが、僕からすれば殺気を物凄くまとってるように感じる。長年、殺気が混じり合う場所の近くにいたから、僕は殺気に対してとても敏感になったせいでね。

殺気に対して敏感にならなければ、僕はこの世界では生きていけない。


「分かっているよ、静夜くん。僕は君を犯罪者にするつもりはないからね。僕は、君と外に出ている時、出来るだけ君から離れないようにはするよ」


僕はにっこりと笑う。

……まあ、僕も戦えないことはないけどね。僕はあまり、戦闘には向かないだけで。

そう言葉にしないで心の中で呟いた後、僕は一度、カツンと杖を鳴らしてもう一度笑う。

杖を鳴らした音で、殺気に囚われていた瑞樹さんが我に返ったようで、その後苦笑した。

瑞樹さんは、強い。

そうでなければ、綾芽お兄様の直ぐ側にいられる訳がないからだ。だけど、瑞樹さんには戦闘経験がない。例え、強くても経験がなければ、彼と同じレベルで戦闘経験が豊富な敵が現れたとしたならば、僅かな差で敵が勝つことになるだろう。運が良ければ、勝てる場合もあるかもしれないが。

さて、殺気の浴びたことない人が、静夜くんレベルの殺気を浴びればトラウマものだ。杖の音をきっかけで冷や汗を掻きながらも、苦笑で済むなんて流石は綾芽お兄様の側に居続けられることだけある。


「瑞樹さん、凄いですねぇ」

「そうだねぇ」


綾芽お兄様と僕は感心する。

……まあ、僕らは冷や汗一つ掻いてはいないのだけれど。確かに、静夜くんの殺気は凄いものだが、王城に来ていた貴族令嬢の気合いの入れように比べれば怖くはない。彼女らは見た目は着飾り麗しいが、その装備は最強な戦闘服なのである。

……彼女らほど怖いものはない。

そう考えていれば、ガシッと腕を掴まれた。腕を掴んだのは、珍しく満面の笑みを浮かべた綾芽お兄様で。嫌な予感しかしなかった。


「……まずは、服屋に行こうか」


……やっぱりね。

翡翠家はブラコンな人が多いもの。

こうなるとは予想は出来てた。

それに、着せ替え人形になる覚悟も馬車を降りた瞬間から出来ていたもの。

……綾芽お兄様のため、今日だけは妥協して着せ替え人形になってあげましょう!


そして、三時間が経ち、食事処が混み始める時刻よりも少しピークが過ぎた頃。

僕は魂が抜けかけるほど疲れていた。

瑞樹さん、静夜くんは大量の荷物を持ちながら苦笑いをしていて、綾芽お兄様だけが何故か、満足げに満面の笑みを浮かべていた。

その大量の荷物、全てが僕の服。

その服、全て現金で綾芽お兄様が躊躇わず払っていたことも、僕が疲れている原因の一つだ。一番の原因は着せ替え人形にされていたことだが。

やはり翡翠家の使用人は優秀で、僕が一旦休憩しているところで荷物を取りに来て、僕が復活した頃には静夜くんや瑞樹さんの腕にはあの大量の荷物はなくなっていた。


「さて、次は本屋巡りだね」


案外、僕は買い物好きのようだ。

まだ、恐怖心がありながらも、新しい何かを見れることにとてもワクワクしている。

僕にはあまり物欲がない。

欲しいと思うのは本くらいで。

だけど、店を見て回るのは好きだ。

……こう言うのを前世では、ウインドーショッピングと言っていたような気がする。

綾芽お兄様の買い物の長さは瑞樹さんは慣れっこのようで、苦笑いを浮かべていた。

……瑞樹さん、内面も男前だね。

それに、静夜くんは疲れてないか気遣ってくれちゃうし、僕が異性だったら惚れてたわ。

……異性だったら、の話だけど。


ウインドーショッピングが好きとは言え、着せ替え人形にされるのはもう勘弁だ。

だけど、綾芽お兄様が今朝よりも、スッキリした顔をしているからまあいいかとは思う。

僕はそう心の中で考えながら、静夜くんに支えられつつ、杖を鳴らしながら本屋巡りへと向かうのだった。また、静夜くんや瑞樹さんの腕に大量の荷物を抱えることになる少し先の未来が想像出来、そのことをクスリと笑った。


社交場にあまり出ない僕。

だけど、王城に出入りしてるから、“翡翠雪未”だとは知られてる。だから、視線は四方八方から向けられているってわかる。自分に視線を向けられているって、痛いほど感じてる。

その視線が何故か怖い。

僕は、身近に感じる温もりを逃さまいと、ぎゅっと握りしめた。皆から離れなくて良いように。

僕は笑顔を浮かべて、恐怖心と言う感情を隠し続けたのだった。気づかないでと祈りながら。


僕はお小遣いを貰っていた。

……街に遊びにいくために。

だけど、綾芽お兄様は一銭も払わせてはくれなかったなあ……とそう考えながら、使い道のない毎月のお小遣いを貯めておく貯金箱にそのお小遣いを貯めといた。

僕は貯金箱を置いて、音を立ててベッドに飛び込んだ。そんな僕を包み込む儚げな月の光。今は曖昧となったものの、心にしこりを残すかのよいにじわじわと痛みつける心の痛み止めになってくれた。一時的だけど僕を癒してくれる。

そして、同時に記憶を鮮明にさせる時。


「何時になったら解放してくれるの、……雲雀ひばりさん。僕を壊さないで」


記憶は曖昧だ。

だけど、不思議と苦しい思い出ばかり僕は思い出されてしまう。楽しい思い出ばかり曖昧だ。

大切な親友の名前も、顔も。

……僕の記憶の中で靄がかかる。

自然と願ってしまうんだ。

……壊さないで、と。


結局は、僕は自分がこの世界に生まれたことを受け入れられてないんだと自分を嘲笑った。

僕は過去に囚われたまま、眠りにつく。












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