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僕に訪れた変化3

急な客人にはとても驚いたが、人の良さそうな子だったので良しとしよう。飛ばされてしまった眼帯をご丁寧につけてくれたくらい面倒見の良い子だから、仲良くなれそうだ。僕は色々と手間をかけると思うからね、兄貴気質で世話焼きぐらいじゃないと性格の相性が合わないと思うんだ。まあ、過保護で心配性過ぎてもこまるんだけどさ。

僕は点字に訳された書物を読みながら、ちらりと時折向かい合わせのような位置に座る静夜くんの様子を眺めてみる。七緒お兄様に言われるがまま、騎士舎の医務室に連れてきたは良いものの、今まで同級生となる年の男の子と話したことがないため、何を話したら良いのかわからないから何を話せば良いんだろう?

僕が出来ることと言えば社交ダンスやマナー、語学や点字、護身術程度の槍術と棒術、飛行魔法と音魔法くらいだし、この中で共通点になりそうなのはあまり多いとは言えないだろうしなあ。

さて、どうしようかな。どうしたら良いのかわからないし……。

何故、コミュニケーションに不慣れな僕を静夜くんと二人っきりにしたの!

僕は点字で書かれた書物の内容など頭に入らず、そんなことばかりを考えていた。

すると、静夜くんは急に僕に向けて、にこりと穏やかに微笑んだ。僕は思わず、点字で書かれた書物を落とし、焦っていると……。

静夜くんはこちらの方へと向かって来て、落とした書物をわざわざ拾ってくれた。そして何故か、それからは僕の隣の席へと座った。

そして、静夜くんは優しげな表情を浮かべてクスクスと笑っていた。

僕は何故笑われたのかわからず、笑われたことに戸惑っていると静夜くんは、

「別にいいよ、無理に話を見つけようとしてくれなくて。初日だからな、話慣れないのは当たり前のことだ。俺は夏休みの大半を雪未の家で過ごすつもりだから、最終的に仲良くなれれば良いんだ。焦る必要なんてないよ」

優しい声でそう言ってくれる。

八歳とは思えないくらいの包容力で、甘やかすようなことを言う静夜くんのその言葉に、同性から言われた言葉だが、どことなく照れてしまい、少しだけ顔に熱が集まったような気がした。

そんな僕の頰を静夜くんは撫でた。

僕に向けたその目は、とても穏やかで優しいものだった。初対面の僕に何故そんな視線を向けられるのか、僕にはわからなかった。

僕の右目は、色しか見えない。

それを知ると、大体の貴族達は同情するような目で僕を見てくる。

お父様は宰相であった言う立場だ。お母様もお母様であの人柄だから、同性から好かれ、実は屋敷にお客様はしょっちゅう来ているのだ。

貴族の大人達のほとんどは、同情してくる。その反応が正しいかと言うかのように。

でも、静夜くんは違うのだ。

ただ僕を受け入れてくれているような気がする、その穏やかで優しい視線がとても心地よく、とても安心させてくれるのだ。

だから、自然と笑みがこぼれる。

そんな僕に、静夜くんはうんうんと何度も頷いてこう言った。

「雪未は嫌いになんてなれないよ」

静夜くんのその言葉は、不思議と僕の心を安堵に包み込んでくれた。


僕は杖をつきながら、王城内を静夜くんと歩いていた。静夜くん曰く、僕と彼の地位の差は月とすっぽんくらいに違うらしい。

しかし、王城内の人間も、貴族も宰相家である翡翠の人間が地位など関係なく接していても気にもしない。それは何故かと言えば、代々翡翠家の血縁達はそんな者ばかりだったらしく、王族に注意されても腹黒い笑みで、

「そんな脅しごときで、我々を変えられると思えられては困ります」

その一言で圧倒して以降、翡翠家の血縁達に対して貴族達は何も言わなくなったとそう聞いた。今更、関わってきたところで七緒お兄様が言葉で負ける訳がないのだけれど。

なんて、考えていると杖がよろけて僕は転びそうになった。例え、杖があろうと、転ぶものは転ぶのだ。痛みが身体に走るのを覚悟するが、いつになっても身体に痛みを感じることはなかった。恐る恐る、ゆっくりと目を開いてみれば僕の腰を引き寄せ、苦笑しながら支える静夜くんの姿があった。

「なるほど、七緒さんが心配して僕を事前に任せようとする訳だ」

再び困ったように微笑みながら、静夜はそう言って、バランスを崩した僕を支えるために引き寄せていた手を離し、躊躇うことなく僕の手を握って、僕の歩調に合わせて歩き始めてくれる。

……これはモテるよね……。

本当に同級生なの、この人。背中にチャックがついていて、実は中身は紳士なおじ様がいるんじゃないの? 男子するような対応じゃないし。

「僕、男だよ?」

「何を今更、知ってるよ。男だろうが、いい子なら手を貸す。それが俺のモットーでね」

僕の発言に対して、さらりと肯定した後、爽やかに笑う静夜くん。

そんな静夜くんを見て思った。

……この人、人たらしだ。

そう思いながらも、人の好意を無下には出来ず、抵抗せずに自宅に帰ったのだった。

自宅に着けば、妙に静かで僕は嫌な予感がし、杖を構えて待機する。

そんな僕を、にっこりとした微笑みで見守る静夜くん。その状態がしばらく続いた後、遠くから騒がしい足音がこちらへと向かってくる。

姿が見え、凄い勢いで飛びつこうとするあいつのみぞおちを、的確に攻撃する。

あまりに何回も飛びつこうとしてくるから、みぞおちを的確に狙って攻撃するのだけ得意になってしまったではないか。

「可愛い顔して厳しいな」

そんな僕を見て、にこやかに笑いながら手を貸さない君もなかなか厳しいよ?

てか、僕可愛くないし。

そう考えながら地面に倒れて動かない男装趣味の長女、梨紅りくお姉様。ブラコンで日常の大半を男装して過ごす美少女。彼女の好きなタイプは……、

「あら? 雪未ちゃんにまた振られちゃったのね。懲りない子なんだから、貴方からの過剰なスキンシップは嫌っているのよ、しょうがない子ね」

梨紅お姉様の婚約者である、美人系統の美形“オネェ”、日暮乃亜ひぐらしのあ。梨紅お姉様は彼のために男装をしている。

梨紅お姉様は、馬鹿だ。

そして一途なんだ。

乃亜さんは試しただけなのにね?

……ほとんどの女子は、乃亜さんのオネェ口調で引いていた。だから、梨紅お姉様がそうか否かを見極めるために、乃亜さんは、

「私のために男になれる?」

そう聞いたのだ。その約束を律儀にも、梨紅お姉様は守り続けている。

乃亜さんに対する愛は本物で、梨紅お姉様は性別すらも変えようとしたくらいだ。

お父様は愉快そうしていたが、慌てて春斗さんが引き止めたようで男装をするだけで止まったようだ。さすがに慌てたわと乃亜さんは言っていたし。

乃亜さんは確かにオネェ口調だが、恋愛対象は異性である女性だ。

そして、婚約者である梨紅お姉様のこともちゃんと好きみたい。

少しお馬鹿で、一途すぎる梨紅お姉様は一応優秀な竜騎士で。

オネェ口調で天邪鬼な乃亜さんは、優秀な魔法使い。この二人は手段は違えど戦うことには長けているけど、自分のことになると一気に不器用な人になる。まあ、人の恋路に関わるとロクなことはないので、傍観するだけにとどめておくけど、梨紅お姉様は手加減を知らないから抱きつこうとされた時だけは、ついみぞおちを狙って攻撃をしてしまうことだけは見逃して。

梨紅お姉様に一回だけハグされた時、死にかけたから自分の身を守るためにも。

そう考えていると乃亜さんは、梨紅お姉様をお姫様抱っこして持ち上げて、にっこりと艶やかなえみを浮かべながらこう言った。

「いつもこの人がごめんなさいね、良く言っておくわ。まあ、私の言うことなんてこの人が聞いた試しはないけれど、一応ね?」

そう言った後、乃亜さんはまた会いましょ? とそう言って、何処かに向かって歩いて行ってしまったのだった。

そんな様子を見て、動揺しているかなと思ったけど、静夜くんは全くしてなかった。

僕はそんな様子に一安心して、

「男装していたあの人が翡翠梨紅。梨紅お姉様の婚約者の日暮乃亜さんだよ。特殊な関係に見えるけど、相思相愛だから安心して。乃亜さんはオネェ気味だけど恋愛対象は異性、つまりは女性だから。オネェ口調になったのは、乃亜さんの育てられた環境が特殊だったからで、梨紅お姉様のことをちゃんと好きでいてくれる良い人だよ。まあ、たまに天邪鬼なのが乃亜さんの悪いところなんだけどね。

梨紅お姉様はね、一途すぎる人だけど、まだ常識的な方だから動揺してないようで安心した。ちなみに七緒お兄様は若干腹黒くて、過保護で、甘やかせたがりな人だけどあの人もまだ常識人な方なんだよ。普段は優しすぎるくらい優しい人だけど、ふと思い出したようにお茶目な人になるくらいで翡翠家ではまだ、常識的な行動をしている方なんだよ。予め会っておいた方が後々気が楽だし、丁度二人とも夏休みで帰ってきているしね、会いに行ってみようか静夜くん」

そう言えば、大体は怪訝そうな顔をするものだけれど、明らかに楽しんでいるような表情をする静夜くんに支えられながら二人の中では、まだ常識を知っている兄の方に会いに行こうかと思う。こっちの兄は、対応の仕方を覚えるのは面倒くさいが、対応の仕方さえ覚えてしまえば精神的に疲れるだけで済むからね。


そんな兄は三男坊である。

翡翠綾芽ひすいあやめ、十六歳。可愛い系統の美形だと言うのに鳥の巣のような髪型で隠すと言う宝の持ち腐れをしている男子。

根暗で、内気。魔法の影響か、太陽の光にとても弱い。そんな彼の凄いところは……、小説家兼画家であること。しかも売れっ子だと言うのだから参ってしまうが、宰相の息子として公の場には出たことはあるが、小説家兼画家として性格の問題で人前には出たことがなく、編集者が出そうと試みたのだけれど大泣きしてしまった。

綾芽お兄様は泣き虫なのである。

極度のビビリでヘタレ。

だけど、実は綾芽お兄様が兄弟の中では特に異才を放つ人でもある。

「綾芽お兄様、お久しぶりです。今日から夏休みの間、この屋敷で過ごす静夜くんに綾芽お兄様を紹介しようと思ってきたんです」

そう言えば、絢芽お兄様は頬を赤らめながら独り言のように小声で、

「……うん、雪未ちゃん久しぶり。静夜くん絵のモデルにしたいくらい、顔が整っているよね。僕には顔がないから君らが羨ましいよ……」

綾芽お兄様はそう言った。

……僕には絢芽お兄様の顔が見える、勿論静夜くんもだろうけど。

春斗さんが魔法について説明した時、僕だけが代償魔法が使えるみたいな雰囲気で言っていたが、実は綾芽お兄様も使えることがわかった。

透視魔法、……別名千里眼。綾芽お兄様の場合も僕と同じく、既に代償を払った状態でこの世界に産まれている。その代償は……。

“自分の顔が顔無しに見え、自分の先のことは見えない”と言うこと。

綾芽お兄様は、だから自分には顔がないとそう言うのだ。

だけど、それをけして否定してはいけない。……一週間ぐらいずっと、綾芽お兄様は泣き続けることになるし、この人の愛情表現の仕方は色々と面倒くさいのである。自分には顔がないと言う表現をしてはいけないと、綾芽お兄様の身近な人ならば常識な知識なのだ。

だけど、顔があると綾芽お兄様の考えを否定しても、大泣きされない人物がいるんだけど今日は何故かその人の姿が見当たらない。

綾芽お兄様を一人にしておくと、一ヶ月くらいで栄養不足で倒れてしまう。元々身体が強い方ではない彼は直ぐに倒れてしまうからね。

面倒見の良いあの人は、放っといてはおけないのだろうと思う。

「綾芽お兄様、今日は瑞稀みずきさんはいらっしゃらないのですね。いつもなら、綾芽お兄様がいる時ならほとんどの確率で側にいらっしゃるのに、珍しいこともあるものですね。……珍しく、綾芽お兄様も絵を描く手が止まっているようですね、小説の方も話の続きを書けていないようですし、どうかしたのですか?」

そう聞けば、ぷるぷると肩を揺らして絢芽お兄様は泣き出してしまった。

……喧嘩でもしたんだろうか?

いや、あり得ないな。あの人が喧嘩ぐらいで綾芽お兄様の側から離れる訳がない。喧嘩しても実際、距離は離れていても側にいたし。

「瑞稀くんは……、会議なの。だから、側にいないのはしょうがないことなんだけど、瑞稀くんが僕の知らないところで死んでしまわないか心配なんだ、それが心配で心配で仕方ないの。

それに瑞稀くんを担当から外したら契約解除するって言っておいたから、担当から外れることはないんだろうけど……、僕瑞稀くんがいないと絵も描けないし、小説も書かないの! 瑞稀くんが側にいないと何かあったんじゃないかって不安にかられて、集中力が切れちゃう」

……一番チートキャラっぽいのに、若干ヤンデレっぽい思考回路を持ち合わせていて、しかも担当である瑞稀さんに対して、いないと精神的に不安定になるくらいに依存している。

綾芽お兄様は、ヤンデレ気質があるのは無自覚だから余計に厄介である。

まあ、綾芽お兄様が瑞稀さんに対して抱いているこの感情は、恋愛感情ではないことだけは兄弟から見れば明白なことではあるのだが。

そう考えていると背後から、

「お前は心配性すぎる。俺は多少のことでは死ぬことはないぞ」

そんな言葉を言う声が聞こえてきた。僕は後ろを振り返れば、体格が良すぎる訳ではないが、まるで傭兵のようにしっかりと鍛えられていて、しかも身長が高い男が部屋へと入ってくる。

茶髪の短髪で、まるで鷹のような鋭い目付きに青色の目、咲人さんのように強面だからわからないが、よく見ればとても良く整った顔つきをしたこの人こそ、絢咲瑞稀あやさきみずきさんの顔を見た瞬間、絢芽お兄様に纏われていたどんよりとした雰囲気が一瞬で明るくなり、瑞稀さんに抱きついた。

そんな綾芽お兄様を、苦笑しながら躊躇うことなく受け止めた。

綾芽お兄様には、静夜くんのことを紹介しておいたし、瑞稀さんにも伝わるだろうから二人の世界をお邪魔しないように部屋から出て、次男である雪時ゆきときお兄様の部屋へと向かうのだった。内心、行きたくないなぁ……とそう思いながら。


最後は次男坊、雪時お兄様だ。

十分くらいかけて雪時お兄様の部屋の前に来て、僕は思わずため息をついて、ノックもせずに彼の部屋を開ければ流石の静夜くんも驚いたのか、ゴクリッと唾を飲み込んだ音が聞こえてきた。

それもそうだろう。

男子の部屋とは思えないくらいの可愛らしい部屋なのだから。

僕は雪時お兄様が苦手だ。

だって、

「あれ! 珍しいな、雪未ちゃんが私の部屋に来るなんて! なーに、ついに女装する気になったの? それはそれで大歓迎よー」

にこにこと微笑みながらそう言う雪時お兄様に、僕は淡々とした口調でこう言う。

「女装をすることが好きなのは否定しないけど、さすがにロリータファッションを自分以外に着させようとするのはやめなよ。夏休みの間、泊まることになって静夜くんに紹介して回っているだけだから」

そう言えば雪時お兄様は、

「翡翠雪時ですー。こんな格好をしてますがぁ、立派な男子です。勿論、学園では学生服は男子の方を着ているのでご安心を! 好きなタイプは包容力があって優しい、可愛らしい服が似合う女の子。これでも一応、彼女持ちの十八歳でーす」

どっから出しているのかわからない、高い声で自己紹介をしてくれたため助かった。

いろいろ突っ込みどころがある人だが、被服関係や経営などの能力は高い人なのだ。

本棚を見ると、部屋の雰囲気とのギャップに驚くよ? 経済本と被服関係の本しかないんだもん。しかも、意外と読書家だしね。

なんて、そう考えていると、

「静夜くん、女装してみない?」

いつの間にか出したのか、化粧道具を手に持っている雪時お兄様。

……ほんと、油断出来ない。

そう考えながら、梨紅お姉様にしたようにみぞおちを的確に狙って、雪時お兄様の身動きを動けないようにした後、逃げるように部屋を後にした。

「あいつには、もう静夜くんを絶対に会わせたりなんかしない」

そう呟けば静夜くんは、

「可愛いな、雪未は」

穏やかにそう言っていたのだった。

その発言を聞いて、静夜くんは何を考えているかわからない人だなと思った。















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