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平穏的に過ごしてみよう!

気がついたら異世界、そんなのはあり得ないことだった。

赤ん坊をお腹から産む時、母親には痛みが伴うことだけれども。

引きずり出すように出される赤ん坊だって痛みだってあるんだよ。

少なくとも、僕は痛かった。

僕の場合の産声はあれだ、通訳すると「痛ぇええ!」と悲痛な叫びである。

何故、こんなにもあり得ないことが起きて冷静で居られるんだろうか?

僕にもわからない。


全然、周りの様子見えないし。

つまらないし、寝るかな。


やっぱり周りの様子は見れない。

あまり良く耳も聞こえない。

ぼんやりと、人らしきシルエットが見えるだけだ。誰だろうか?

つまらないし、また寝ることにする。赤ん坊の仕事は食う、寝るの二択だからな。


二ヶ月が経ち、耳が物凄く良いことがわかった。だが、右目だけ色彩しか認識が出来ない。

幸い、左目は正常のようだ。

まだ首もすわっていないし、言葉も理解していないため、余計にそれを伝えられない。

例え自我がしっかりしていてもだ。

前世のこと、ぼんやりとしか覚えていないが、自分がこういう世界じゃない何処かの違う人物として生きていたというのは間違いない。

誰かが気付いてくれるのを、今は待つしかないだろう。

だが、天性的な体質だし、治る可能性は限りなく低いだろう。

親が良い人であることを、祈ることしか僕には出来ない。


最近、悪夢を見るようになり、あれから二週間寝れていない。

睡眠不足だ。

赤ちゃん唯一の伝える手段、泣くことを繰り返すが、母親は気づいてはくれない。

彼女はどうやら、赤ん坊を産むのは僕が初めてじゃないらしい。

オムツ替えは手慣れていて、ミルクを飲ませるのも上手だ。

いつしか、気づいてくれるのではと期待して泣くことを繰り返す。

「どうして泣いているのかしら?

オムツ替えたし、ミルクも上げた。

最近、寝れてないからかしら。

それにしても、泣く回数が多すぎるし……。もしかしてお腹が痛いのかも知れないわ。

上の子もそう言うことがあったし、お医者様を呼んで見ましょうか」

結論は違うが、結果的には医者がくるから良かったよ……。


次の日、家に医者が来た。

シンプルなデザインの家具が多いが、屋敷の広さ的に貴族か富豪なんだろうなこの家。

服も布団も、シルクのような上質な生地のものが多いし。

使用人だっているみたいだし。

「よう、赤ん坊。腹が痛いみたいじゃないみたいだな、お前の様子を一ヶ月くらい前まで遡って聞いた。流石四人の子供を育てながら、五人目の子供であるお前を育てているだけあるな。お前の様子を産まれた時から書いている。

それを見て、俺はお前が腹痛だとは思わなかった。だから、大人しく検査を受けてくれよ」

赤ん坊に話しかける医者、本人から見るととても異様な光景だ。

だけど、悪い気はしない。

僕は手を伸ばし、何度か掴むのに失敗したものの、キュッと医者の中指を握りしめた。

この医者なら、この些細な失敗で、他の赤ん坊とは違う点に気づくと思ったから。

「あっ、ずるいわ! 春斗はるとさんってば、私達よりも早く手を握ってもらって!」

思った通りだった。

母親にそう言われ、怪訝そうな顔を浮かべている医者は淡々とした口調でこう言う。

「直ぐに王城の医務室に向かうぞ。

これはここで、対処出来ない」

僕を抱え、春斗と呼ばれた医者は颯爽とこの部屋から出て行く。

えっ⁉︎ えっ⁉︎ と戸惑いを感じる声を上げている母親の声が、姿は見えないが、後ろから聞こえてくる。それでも事情を話さない医者。

そんな医者の温もりに、僕は何故だか眠くなり、久しぶりに悪夢を見ない睡眠を取れた。


「……あう?」

次、起きたら質素な保健室のような場所で寝かされていた。

「今、医務室には感染病にかかった患者がいる。すまないが、騎士長。騎士団の医務室を貸して欲しいのだが、良いだろうか?」

自分の家よりも落ち着くなあ、と僕は二人の会話を聞きながら頭がぼーとして覚醒していない中、僕は

そう考えていた。

強面だが、優しい声で騎士長は、

「構わん。今だけ、大怪我をするような訓練は控えさせている。

宰相様の息子殿となれば、優先させるのも当然の務め。それに強面な私を見て、泣かない赤子は初めて見たからな。私個人的にも嬉しい」

やはり、強面だからと言って、子供が嫌いとは限らないのだ。

僕は騎士長に好印象を抱いたため、短いこの腕を精一杯伸ばしたが、彼の指もまた上手く掴めない。

右目は色彩しかわからないため、左目で距離を把握するしかない。

だが、そう言う練習をしていない僕にとっては上手く掴めないのは、しょうがないことだろう。

僕が積極的に動作を見せるため、騎士長も気づいたようだった。

「息子殿、目に異常でも?」

マメが出来た硬い手で、僕の頬を優しく撫でてくれる騎士長。

そんな騎士長に、医者は関心したような声でこう話す。

「恐らく、左目は正常だ。はっきりと俺を見ていたからな。

問題は右目のようだ。色彩だけ見えていないんだか、視力が右目だけ極端に低いんだが、どっちなのか調べようと思ってな」

彼は優秀な医者なんだな、と僕は関心しながら騎士長の手をペチペチと音を立てながら叩く。

そんな僕を見て、騎士長は強面ながらも整ったその顔を、口元だけだらしなく緩ませた。

「可愛らしいなぁ」

「だな、正直言ってかつてないほどに俺もメロメロだ」

でれっとさせる騎士長の表情で、本当に可愛らしいと思っているんだろうなと思うが、医者が無表情でメロメロだと言われても信憑性にかけると思う。だけど、声は優しげな声なのであながち嘘ではないのかな? とそう思った。


検査を終わり、結果を待っている間、騎士長に抱っこしてもらい、顔をペチペチと音を立てて触っていれば医務室のドアが開いた。

「やっほー、騎士長ー。お仕事の時間ですよー……って。あ、騎士長幸せそうっすね。そんな怖い顔して子供好きですもんね、だいたい泣かれてますけどぉ! 可愛っすね、どちらのお子さんで?」

好青年風で、まるでワンコのような性格をしている騎士が僕の頬を触りながらそう言ってきた。

「あーうー」

と、答えれやれば、

「あー可愛っすねぇ」

頬を緩ませてそう言ったため、赤ん坊は最強だなと思った。

嵐のような勢いで現れた彼に対して、騎士長は苦笑いをして、

「宰相様の息子殿だ。それにお前はいつも一言余計なんだ、全く」

怒らず、呆れるだけだった。

そんな騎士長が彼は大好きなのかにっこりと笑って、小柄な体型のせいか、しがみつくように騎士長に抱きつく。

「お前は全く……」

そう言いながらも、引き剥がすことをしらない騎士長は優しい。

それが例え、異様な光景に周りの人から見えたとしても。

「そう言いつつ、抱きつくことを許してくれる騎士長が大好きっす」

そう言った騎士は、騎士長に対してまるで尊敬する父親を見るような視線を向けていて。

騎士長ことを、この騎士はとても慕っていることが一目瞭然だった。

「しょうがない奴だな、お前は。息子殿、別れるのはとても惜しいが、そろそろ仕事場に戻らなければならないため、今日のところは失礼させて頂きます」

赤ん坊にも律儀な人だな、騎士長。

そう考えていれば、丁寧に医務室のついているベッドに寝かしつけられた後、騎士長はこの部屋から去って行った。

ふわあ……と欠伸をすれば、ぷにっと頬を指で、医者につっつかれた。

そう言えば母様は何処に行ったんだろうか? と、騎士長やら医者に構ってもらっていたため、全く寂しく感じなかった。

少し、申し訳ない。

「やっぱり、右目は色彩しか見えてないみたいだったぞー。

お前はそれを必死に訴えてたんだなあ、賢い奴め。そして可愛い奴め」

無表情でそう言う医者の指を、二三度空振りしながらも中指を握り締めれば、やっと無表情から優しげな微笑みを浮かべてくれた。


「珍しいな、春斗がうちの子供に対して微笑みを浮かべるとは」

扉も開いていないのに、突然さも当然のように現れた僕の父親。

常々、変な人だとは思っていたが、ここまで突拍子もない行動をしたことはなかったため、思わず驚きのあまり泣いた。

「可哀想に、泣かされて」

避難するような目で、父親を見つめている医者。そんな表情を見て、父親は慌てて僕へと駆け寄り、お得意の変顔をして見せる。

あまりに可笑しな顔をするため、毎回声を上げて笑ってしまうのだ。

「よし。機嫌を取り戻したぞ」

冷や汗を掻きながら、医者こと春斗さんにガッツポーズを見せるお父様に、はあ……と大きなため息をついてこう言った。

「俺はお前の嫁か? 違うだろう? 俺のご機嫌取りしてどうする」

春斗、冷たい! としくしくと泣く振りをするお父様に対して、

「勝手に泣いてろ。俺は、今この赤ん坊を相手にするのに忙しい」

と、そう突き放して、無表情のままベッドに横になっていた僕を抱えて頭を撫でてくれた。

「いつもならもっと優しいじゃん」

そう言って、マジ泣きしそうなお父様。それでも宰相か? とそう思ったが、まだ喋れないので内心で止めておいた。

マジ泣きしそうなお父様を見て、春斗さんはうんざりした表情をして、

「嫁に甘えて来いよ」

うざくてたまらないと言ったように、お父様をあしらいたがる春斗さん。

そんな春斗さんの様子に、

「えーやだあ。嫁さん、相手にしてくれないんだもーん!」

駄々をこねるようなことを言う。

お父様、息子の前なんだからさ。

もう少し、格好つけようよ……。

お父様の発言に僕はそう思った。

その発言に春斗さんも呆れているが、お父様に向ける視線はとても優しい。

「今日は勘弁してくれ。今日はこいつを優先しなければいけない」

と、宥めるようにそう言って、お父様の頭を撫でる。なんだかんだ文句を言っているようだが、春斗さんはお父様に甘いようだ。


「いつもはー、仕事を優先させる春斗が、俺を呼んだのは緊急事態があったからなんでしょー? 雪未ゆきみになんかあったから、雪未のことを優先させたんでしょ、何があったの」

口調自体は変わらないが、声色は真剣そのものだった。

たまに、おちょくりに来ては、三十分か一時間僕を相手にして帰るお父様が、春斗さんの様子で事態を察して見たことがない表情を浮かべていることに僕は驚いていた。

ちなみに雪未は僕の名前である。

女の子みたいな名前だが、なんか綺麗な名前なのでとても気に入っている。

「雪未くんの右目は色彩しか見えてない。幸い、左目は正常であるため、雪未くんは練習すれば上手くものを一回で掴むことが出来るようになるかもしれない。それに慣れるためには雪未くんはとても頑張らなければならない。

本だったり物だったらそれでも良い。だが、紅茶とか熱い飲み物が入っていたりすれば、火傷する可能性が両目正常に見ることが出来る人に比べたら高まるだろう」

淡々と、僕の目の状態を話す春斗さんの話を真剣な表情で、お父様は聞いていた。

お父様は怪訝そうな顔をすることもなく、ただ真剣な表情で。

そんな表情を確認して、春斗さんは安堵した表情を浮かべた。

そして、

「だが」

そうまた話を切り出す春斗さん。

そんな春斗さんに対して、頭の上に疑問系を浮かべるお父様。

そんなお父様を見て、可笑しいものを見たと言うように笑って、

「雪未くんに足らない視力、それを補うように、雪未くんの聴力は猫並みに発達している」

と、春斗さんはそう言った。

そして春斗さんは続けてこう言う。

「その聴力のせいで、聞かなくて良いことまで聞こえてしまい、苦しい思いを雪未くんはするかもしれない。雪未くんは宰相家の子供だ、ある程度の学力を学園に入る前につけなければいけない。人一倍勉強の仕方を工夫しないといけないし、人一倍勉強をしないといけない。彼には、上の子達と同じ学園に行って欲しいと思っているんだろう?

勉強くらい、俺が教えてやる。だから、下手な家庭教師を雇うんじゃねぇ。騎士長だって雪未くんを気に入ってるし、珍しくあの子も興味を持っていた。だから、一時的に騎士専属の医者に移動して、雪未くんの家庭教師をやる。マナーやら社交ダンスは教えられないが、大体のことは俺なら教えられるからな」

過保護なくらい、気にかけてくれているのがわかる春斗さんの言葉。

そんな言葉に、圧倒されてひたすらにうんうんと頷いているお父様。

そんな二人の様子を見て、僕は内心ではとても泣きたくなった。

何故だろうか、悲しくないはずなのに。むしろ嬉しいはずなのに。

とても泣きたくなったんだ。


僕は一歳になった。歩けるようになり、今までベッドの上に居させられた反動で広い屋敷内をひたすらに彷徨っている。

上手く距離感を把握出来ないから、怪我だらけになりながらも尚、ひたすらに彷徨い続けている僕は、必殺技「あーうー」を使って使用人をとっ捕まえては、一人勝手に相槌を打っては一人満足して颯爽と屋敷内を彷徨い始めると言う行動を何度も何度も繰り返す日々を過ごしていた。

そして、目の前に庭師を見つけ、必殺技「あーうー」を使う。

「あーうー」

ちなみに、あーうー以外は僕はまだ喋れることが出来ない。

我が家の使用人は優秀なため、何を求めているのか察して、にこやかに対応してくれる。

「あーうー!」

中でも上手なのが庭師、彼だ。

「そうなんですね、雪未様」

特に意味はないのに、相槌を絶妙に返してくれるので凄く嬉しい。

「あーうー?」

「そうですね〜、雪未様!」

そう言ってくれるのでとりあえずキャッキャと笑って見た。

そして、庭師が何も言っていないのにとりあえずうんうんと頷き始めてから一分が経った後、仕事を邪魔しないように颯爽と僕は去る。

それを喋れるようになるまで、繰り返してしまう僕なのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ちなみに使用人の反応1

雪未から絶妙の返事の返しと好評な庭師は、

「そうですね、満足気になさっている顔はとても可愛らしいです。

しかも、直ぐに満足して颯爽と去って行くので迷惑だなあとは思ったことはありません。

他の方よりは常識的な感じです。

他の方達も確かに、私達を同等と見てくれるのですが、かなり変わった感じの方なので」

お互いに好印象でした。









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