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飛び込み大キック立ち強パンチ  作者: 安井智樹
第1章 リ・トライ
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第9話「待ち人」


 ガラガラ病院に着いた穣は息を整えながら辺りを注意深く観察した。

 院内は暗く、中の様子を窺い知ることは出来ない。耳を澄ませてみても、虫の音以外の音は全く聞こえなかった。


(院内で息を潜めてるのかな……。しかし、なんだってこんなとこに逃げ込んだんだろう)


 穣の疑問も最もである。いくら追われているといっても、他に隠れられそうな場所は幾らでもあったはずだ。見つかってない状態で潜むのには適しているが、追われている状態では立ち入る人間がいないという、廃病院のメリットが生かせない。


(意表をついて……。いや、それでもここに隠れるのはヘンだ)


 なぜアキラが廃病院に逃げ込んだのか、そのことを考えながら、病院の外周を探索する。


「これは……。アキラの原付だ」


 廃病院の裏門に差し掛かった時、穣はアキラの原付バイクを見つけた。生い茂った草むらに突っ込んでおり、ナンバープレートと後輪だけしか見えていない。


「そっか、原付で移動中に襲われたのか。止まるに止まれなくて、ここまで逃げてきて隠れたんだ」


 納得がいった穣は、壊れた裏門から廃病院の敷地へ入り込む。街灯がないため、月明かりだけが頼りだ。目を凝らし地面を見ると、複数人の足跡が廃病院へ向かっていることが分かった。足跡を辿ると、病院の裏口へ出た。調べてみると鍵が壊されており、ここから院内へ入れそうだ。音を立てないように、慎重にドアを開け、穣は院内へと侵入した。






 院内は静寂に包まれており、五月蠅かった虫の音も聞こえない。月明かりが入っている部屋に移動し、机の陰に隠れると穣は携帯を取り出し、アキラへメールを打つ。


「院内到着 どこにいる?」


 返信を待つ間に、携帯を無音着信モードに変更する。これほど静かだと、バイブ音ですらかなり響いて聞こえてしまう。院内にはアキラを追ってきた赤龍も居る可能性が高いため、穣は神経を尖らせていた。


「地下 201」


 アキラからの端的な返信。それを確認した穣は、顎に手を当てながら考えるポーズをとり、廃病院の地図を思い出す。


(地下2階か……。正面玄関の階段から地下に行けたはず)


 慎重に、足音を立てないように正面玄関へ。既に暗順応しているため、足元ははっきりと見えている。正面玄関到着後、穣はこの先をどうやって進むか思案する。地下に向かう階段はすぐに見つかったものの、少し進めば月明かりが届かない。数m先は漆黒の暗闇だ。


(携帯のカメラライトを使えば明かりは確保出来るけど、赤龍が隠れていた場合、背後からいきなり襲われるかもしれない。さて、どうしようかな)


 穣が出した結論は、カメラライトをフルパワーで使い探索しながら進むことだった。真っ暗闇に光源がある以上、どう隠したって隠せない。だったら最初から隠れていそうなところを調べながら進めばいい。


 だが、穣の心配は杞憂に終わった。地下2階への階段を降りると、目の前が201号室だったのだ。道中の襲撃を回避出来たことに穣はほぅ、とため息をつき、安堵する。


「良かったぁ……。ん、まだ気を抜いたら駄目だ」


 穣はドアが設置してある壁に張り付き、裏拳のようにコンコン、と扉をノックする。すると、中から何かを叩く音が聞こえた。中に誰かいるのは間違いない。穣は、ゆっくりとドアノブを回し、部屋の中に入った。


「アキラ、大丈夫?」


 暗闇に語りかけながら部屋の奥へと進む。おかしい。――少なくとも5人はこの部屋の中にいる。

 足音や気配を探り、そう確信した穣は周囲へカメラライトを当てようとした。





 ――瞬間、目の前が真っ白になった。






 穣は咄嗟に携帯を放って目を瞑り、左手を頭にあて右手は腰に当て握り拳を作った。腰は少し沈め、足のバネを溜める。しかし、穣のこの選択は悪手だった。

 背後から足音が聞こえたかと思うと、直後にドアの閉まる音と、鍵の閉まる音が聞こえた。


(……閉じ込められた)


 ゆっくりと目を開け、周囲を見渡す。

 目の前には、黒光りするオールバックの男。穣を取り囲むように8人。皆揃って赤いジャケットを羽織っている。そして、全員が全員、凶器(エモノ)を持っている。メリケンサックにバタフライナイフ、鉄パイプ、木刀、特殊警棒にスタンガン、ジッポに催涙スプレー、スリングショット。そして――。


「はは……。うそでしょ」


 全長1mはあろうかという、日本刀。


 余りの非現実的な光景に、我が目を疑う穣。固まる穣に、オールバック男――リュウジが声をかけた。


「よぉ、ジョーくん。お久しぶり。ちょっとこれから祭りするんだけどよぉ。参加してかねーかぁ?」


「全力でお断りします」


 ほぼ条件反射の回答。


「はっはっは! そんなノリ悪いこと言うなよぉ。ジョーくんの為の祭りなんだぜ、これは」


 リュウジが笑う。周りのヤンキー達も笑う。


「名付けて、血祭り、だぁ。楽しんでいってくれよなぁ?」


 リュウジは告げた。忘れようにも忘れられない、あの嘲笑を顔に張り付けて。


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