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飛び込み大キック立ち強パンチ  作者: 安井智樹
第1章 リ・トライ
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第7話「合流」


 ゲームセンターを後にした穣は、合流すべくアキラに電話する。数コールの呼び出し後、電話が繋がった。


「あ、もしもしアキラ? こっちは無事脱出したよ。そっちはどう?」


「おう、追ってきたヤンキー撒いて、今は隣駅のコンビニにいるわ」


「隣駅まで行ったの!? お疲れ様。じゃあすぐそっち向かうね」


「いや、まだ追って来たヤンキーがその辺にいるかもしんねーから、合流場所は他にしようぜ」


「了解。じゃあアキラん家の最寄り駅のカフェで合流にしよっか。あそこなら走って30分ちょっとで着くし」


「電車乗れよ……」


「やだよ、定期ないし」


「はいはい、分かった分かった。じゃあ30分後にいつものカフェで合流な」


「うん、また後でね」


 穣は電話を切ると、その場で屈伸し、肘を逆手で押し上げて準備運動をする。


「カフェまで6、7kmってとこかな。アキラ待たせちゃうのも悪いし、ちょっと本気で走るか!」


 気合を入れた穣が走り出す。先ほどまで殺傷沙汰の喧嘩をしていたとは思えない程、明朗快活であった。




 30分後、約束のカフェに到着した穣はアキラの姿を探す。店内を見渡すと、アキラは店の奥にいた。が、携帯電話を弄るのに夢中で店に入った穣に気づかない。やれやれ、といった様子で穣は片手を挙げながらアキラへ話しかけた。


「アキラ、お待たせ」


「おー、ってか早いな!」


「ちょっと本気出した。あ、アイスコーヒーください。ミルクとガムシロなしで」


「そか。そんだけ元気なら、ほっぺた以外は怪我なさそうだな。ま、大丈夫だろうとは思ってたけど」


 穣は注文を通すとアキラの横のカウンター席に陣取り、背もたれを前に回して、抱えながら椅子に座った。それを見たアキラは苦笑いする。以前、ヒカルがスカートのまま現在の穣の体勢を真似した際に、下着が丸見え(パンモロ)になる事件があったからである。

 若干食い込み気味のそれ(パンツ)を目撃したアキラが、ヒカルのグーパンチでK.Oされるという結末を迎えたこの事件は、3人の間でなかったことにされてた。


「いやいや、大分危なかったよ。奥の手を使わざるを得なかったし」


「奥の手? そんなもんあったっけ」


「うん。虚無手(きょむて)


「虚無手? 虚無手って、夜叉丸(やしゃまる)の?」


「そうだよ。その虚無手」


虚無手(きょむて)

 夜叉丸のコマンド入力技の1つで、ポケットから小石を取り出し、親指で弾く技。威力は低いが、夜叉丸、唯一の飛び道具であるため牽制に重宝する技である。小P・大Pで速度の調整が可能。

 コマンドは【←溜め→P(パンチ)

 台詞は【ほらよっ!】

 

「うん、ジョーが何を言っているかよく分からん」


「あはは。石じゃなくて投げたのは100円だま…………あああぁぁぁぁ!」


 穣が突然声を荒げ、虚をつかれたアキラは目を白黒させた。


「な、なんだ!? どうした!?」


「虚無手で……100円玉投げつけて……回収し忘れた……」


 頭を抱えながら、この世の終わりのような顔をしている穣。その様子がひどく滑稽に見えたアキラは、ほくそ笑んだ。


「ざまぁー!」


「くそぉぉぉ……オレの500円がぁ……」


 放っておくと立ち直るまで時間がかかりそうだったので、アキラは話の先を促した。


「それで、虚無手で100円玉投げつけて、その後はどうしたん?」


「え? あ、うん。顔を庇ったから、庇った手を掴んで引き寄せて……レバーが丸見えだぜっ! ってね」


「うわ、えぐっ」


 アキラは自分の肝臓付近を撫でながら、顔を顰めた。穣の自主練に付き合った際に食らったパンチを思い出したのだろう。

 レバーが丸見えだぜっ! とは、足立翼(あだちたすく)のコマンド入力技、ボンボンパンチ発生時の台詞だ。


【ボンボンパンチ】

 翼のコマンド入力技。ダッキングから相手のレバー目掛けて強烈な一撃を放つ。ダッキング中は上半身無敵。対空に使えないこともない。攻撃HIT時、追加コマンド入力で上段回し蹴りの追撃が可能で、強制ダウンを奪える。追撃をしなかった場合、最速で立ち弱パンチに繋げることも可能だが、タイミングはシビア。

 コマンドは【↓→P(パンチ)

 攻撃HIT時【→K(キック)】で追撃。

 台詞は【レバーが丸見えだぜっ!】

 追撃台詞は【おまけだっ!】


「レバーぶっ叩いて悶絶しているところで撤退か?」


「大体そんな感じ。サイレンの音してたから、リュウジ――オールバックのリーダーっぽかった人は捕まったと思うよ」


「残って警察に引き渡せば良かったじゃねーか。――って、ゲンさん来るとは限らねーか」


「そそ。ゲンさん以外だと、あーだこーだ面倒臭いから逃げてきちゃった」


「だな。くー、本物の赤龍の(ヘッド)だったら大手柄だったのにな! いやー勿体無い」


「そうだね。次があったら、ナイフ持ってて刺す気があるイカれたヤンキーを叩きのめして警察に引き渡すとこまでよろしく」


「調子乗ってましたホントすいません」


「アキラ先生の次回作にご期待ください」


「まだ終わってないからな!? ってか、その終了の仕方は人生のゴールに成りかねないからな!?」


 アキラの軽口に冗談を返す穣。顔を見合わせると、2人とも口を大きく開けて笑い始めた。ゲームセンターで絡まれることは多々あれども、今日ほど危険だったことは今までなかった。お互いが無事なことを確認でき、馴染みのカフェで一息つけたことで安堵したのであろう。非日常空間から開放された瞬間であった。


「何はともあれ、無事で良かったな。穣の汗が引いたら帰るか」


「もうRGKの対戦するって気分じゃないもんね。大人しく帰ろっか。……あれ、なんか忘れてるような気がする」


「虚無手で使った500円のことか?」


「あああぁぁぁぁぁ……オレの500円……」


 先ほどの意趣返しと言わんばかりにアキラが穣をからかう。けらけらと笑うアキラと、目線を落とし落ち込んだ穣が対照的であった。

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