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飛び込み大キック立ち強パンチ  作者: 安井智樹
第1章 リ・トライ
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第5話「乱闘」


「やっぱこうなんのか! ほんとジョーといると退屈しねーよな!」


 悪態をつきながら、アキラは小気味よくヤンキー達の攻撃を避ける。古武道こそやってないものの、穣の自主練に散々付き合わされていたアキラは殴られない方法をよく知っていた。


「なにそれ、オレが諸悪の根源みたいな言い方はやめてもらえるかな!? ――おっと!」


 穣はというと、アキラの悪態に応じながらヤンキー達の攻撃を捌いていた。

 攻撃を避けるだけのアキラに対して、穣は攻撃を捌く度に相手の体制を崩して転ばす。

 パンチを躱せばその手を取り、手前に強く引いて転ばせ。キックは身体に当たった瞬間にガードの逆手で勢いを逆らわずに流した後に軸足を払い、転ばせ。徹底して複数人から同時に襲われないようにしていた。

 これは、師範代が穣に教えた1対多の喧嘩の立ち回りを、穣なりにアレンジした結果であった。


(まず逃げろ。出来ないなら囲まれるな、背後を取られるな。攻撃は同時にさせるな。空振りさせろ、か。使うことはない知識だと思ってたんだけど、意外と役にやってるんだよね)


「死にさらせぇ!」


 そんなことを考えながら、穣はリュウジのパンチを躱し、袖を掴みながらくるりと回転すると、がら空きになった懐に入り込み、払い腰を決める。頭を床に打ち付けないよう、引手を引いておくことは忘れない。


「かはっ」


引手を引かれてるとはいえ、背中を強打したリュウジは肺から息を吐き出させられる。しばらくまともに動くことは出来ないだろう。


「うらぁ!」


 間髪入れずに別のヤンキーが耳まで手を引き、穣を殴ろうとしてきた。お手本のようなテレフォンパンチを穣はダッキングで躱し、踏み込んでいる前足を刈り取って転ばす。殴りかかったヤンキーは大きく体勢を崩し、肩から床に激突した。


「ぐぅ!」


 相当強く打ったのであろう、肩を押さえて蹲るヤンキー。このヤンキーもリュウジ同様、しばらく動くことは出来なさそうだ。


「ふぅ。アキラ、こっちはひとまずOK! そっちは大丈夫?」


 穣が振り返ると、2人のヤンキーを手玉に取っているアキラの姿があった。


「ぜっ……ぜっ……。なんで当たらねぇんだよ!」


 アキラを襲っていたヤンキー達は、肩で息をしている。空振りをし続けたため、2人とも目に見えて疲労している。身構えてはいるものの、体力回復を兼ねてアキラの様子を伺っている。


「んな見え見えのパンチ、当たるかってんだよ。ジョーの突きに比べたらスローモーションだぜ」


 対照的にアキラにはまだ余裕が垣間見える。付き合わされていた穣の自主練で、嫌というほど穣の突きと蹴りを間近で見ていたことが功を奏しているようだ。


「こっちも一段落だな。お2人ともお疲れちゃんみたいだぜ」


 アキラの軽口に睨みを利かせるヤンキー達だが、本当に疲労困憊なのだろう、それ以上のことはしてこない。


「みたいだね。出来ればこの辺で手打ちにしたいんだけど」


「てめぇ……。なんか格闘技やってやがんな」


 背後から声が聞こえ、穣が振り返るとリュウジが起き上がっていた。


「さーてね。リュウジさんがやってると思うならやってるんじゃないかな」


 穣はリュウジの疑問にどちらとも取れない言い回しで返す。古武術の流派を特定されると高校名がバレる可能性があるため、回答する気はなかった。


「オレが格闘技やっててもやってなくても、リュウジさん達がオレを殴れないのには関係ないですしね。それよりまだやります? さっき店員がこっち見て電話してましたから、そろそろ警察が来ると思うんですけど。ギャラリーも出来てますし、もうやめませんか?」


 穣の言葉にリュウジが辺りを見渡すと、いつの間にか遠巻きに喧嘩を見物している人だかりが出来ていた。中には携帯を構え、ムービー撮影している輩もいる。


「うっわー、喧嘩とか生で見たの初めてだわ」


「おい、撮るなよ。絡まれたらどうするんだよ」


「大丈夫だって、こっちのことなんか気にしちゃいないって」


 ギャラリーからのそんな声を拾ったリュウジは激昂した。


「マサカズぅ、カズキぃ! コソコソ隠し撮りしてる奴がいんぞ! ボコって携帯ぶっ壊せ!」


 リュウジの声に、アキラを襲っていたヤンキー達が反応した。


「はっ……はっ……。了解っす!」


「ぜっ……ぜっ……。マジか! ぶっ殺す!」


 息切れしながら返事をした2人は携帯を構えていたギャラリーを見つけると走り出した。疲労は抜けきっていないだろうに、その動きは機敏だ。


「いや、ちょ、こわっ! 無理無理!」


 ムービー撮影をしていたギャラリーは泡を食ったようにゲームセンターの出口を目指して逃げ出した。置いていかれた友人であろうギャラリーも慌てて後を追いかける。


「待ってよ!置いてかないでよ!」


「待てやこら!」


「逃げてんじゃねぇ! 殺すぞテメェ!」


 走り去る4人を見ながら、穣はリュウジに話しかけた。


「撮られるとまずいことでもあるんですか?」


「テメェには関係ねぇよ、ツーブロック。……いや、関係あるかぁ。俺らは赤龍なんだよ。誰にも舐められるわけにはいかねぇし、歯向かったヤツには地獄を見せなきゃいけねぇ。だからよぉ」


 顎を上げ、ニタリと笑いながら。右手につけていたメリケンサックを外し、左手に付け替えるとリュウジは続ける。


「テメェは絶対に許さねぇ。その面、2度と人前歩けねぇように切り刻んでやんよぉ。丁度お友達も捕まったみてぇだしなぁ」


「え?」


 リュウジは顎をクイッとアキラの方へ向ける。穣が視線をそちらへ向けると、リュウジは素早くポケットから何かを取り出し、それを穣に向かって突き出した。

 キィンという甲高い金属音の後、穣は右頬に強い痛みを感じた。反射的に後ろに飛び退き頬を拭うと、拭った手の甲には赤い液体がべっとりとついていた。


「さぁて、こいつも今までみたいに避けられるかぁ?」


 顎を上げ、ニタリと笑ったままの体勢で。リュウジは右手にバタフライナイフを握っていた。


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