第4話「ヤンキー」
オールバック男達と対戦を開始してからおよそ1時間。画面右上には20連勝中の文字が見える。穣達は途中から操作を代わったりしながら対戦を楽しんでいた。21回目の対戦では夜叉丸の「風断」をHITさせての勝利。ハイタッチするほど穣もアキラもテンションがあがり、はしゃいでいた。
「…………クソがっ!」
突然オールバック男が怒声を上げ対戦台を蹴り上げると、怒り心頭に発する面持ちで穣達の元へにじり寄ってきた。殴りかかるように右手を伸ばし、対戦台に座っている穣の胸ぐらを掴もうとする。
「調子こいてんじゃねぇぞコラァ!」
咄嗟のことに、穣は手首を取り捻りながら勢いを下に流すと、そのまま逆関節を極めてしまった。
「いででででで!」
「あ、つい。すいません」
謝りながら手首を離すと、穣は椅子から立ち上がり、オールバック男に話しかけた。
「いきなり殴りかからないで下さいよ、びっくりするじゃないですか」
「このヤロウ……。舐めやがって!」
極められた肘が痛むのか、少し涙目になりながらも凄んでみせるオールバック男。
「リュウジさん! 大丈夫っすか!?」
「オウコラツーブロック、誰に手出したか分かってんのかぁ?」
「殺すぞテメェ!」
思い思いの言葉を叫びつつ、3人組が駆け寄ってきた。
「大丈夫だ、何でもねぇよ。……2、3発殴るだけで勘弁してやるつもりだったが、気が変わった」
リュウジと呼ばれたオールバック男はポケットからメリケンサックを取り出し、右手につける。
「俺ら赤龍に楯突いたんだ、覚悟は出来てんだろうなぁ?」
リュウジは3人組に目配せをする。3人組はにやけながら穣とアキラを取り囲むように移動した。
「ええっと、展開が早すぎてついていけないんだけど……。これって絡まれてる?」
「絡まれてるな」
取り囲まれ退路を断たれた穣とアキラは、死角を補うように自然と背中合わせになった。背中越しに穣がアキラに話しかける。
「ですよねー。アキラ、赤龍って何?」
「おう。最近になって有名になったヤンキーチームらしい。万引き、傷害、強姦まで何でも御座れ。しかも加減を知らないから警察だけじゃなくて本職のヤの方々からも熱い視線を送られてるイカれた奴らだってよ」
穣の疑問にアキラが答えた。
「うわぁ……ドン引き。しかも、それチームとしてはもうほぼ詰んでるじゃん。ゲーセンに居て大丈夫なの?」
「大丈夫だからここに居るんじゃねーの? ってか、本人達が目の前にいるんだから直接聞けよ」
2人の声色からは焦燥感が全く感じられない。まるで学校の休憩時間で雑談してるかのような軽い口調。
「えーっと、リュウジさん? でしたっけ。オレらに何か用事ですか? あ、後ゲーセンなんかに居て大丈夫ですか?」
穣はリュウジを見下ろしながら尋ねる。
――とびきりの笑顔で。
「……てめぇら、なんでそんなに落ち着いてやがる」
先ほどまで、ぱっと見で分かるほどの青筋を立てていたリュウジであったが、落ち着き払っている穣とアキラを見て少し冷静さを取り戻していた。
「ん? 慌てる理由がないからですよ。殴られたら警察に突き出せばいいだけですし」
「だな。赤龍をしょっぴけたらゲンさん喜ぶぞー。ま、本当に赤龍だったら、だけどな」
「そうだね、本物だったらね。そういえば前に絡んできた人達はなんてチーム騙ってたんだっけ」
「あー、あれか。黒虎な。あの後、騙ってたのがバレて本物にボコられたらしい」
「へー。あ、なんでチーム名が海老の名前なんだろう。前から疑問だったんだよね」
「おいバカやめろ、海老じゃなくて黒い虎でブラックタイガーだ! 本物の人達に聞かれたらオレらがボコられるわ!」
穣とアキラが落ち着いて雑談に興じている理由。それはこの場を制圧する自信があること。少年課の刑事であるゲンと懇意であること。そして目の前の4人が赤龍を騙っている可能性が高いことであった。
「はっ! マッポが来るまでてめぇらが無事なわけねぇだろうが!」
「黒虎ごときと一緒にするんじゃねぇ!」
「殺すぞテメェ!」
3人組が声を荒げ飛び掛かろうとするのを、リュウジが制止する。
「本当に赤龍なのか、かぁ。――パンピーにここまで舐められたのは初めてだわ」
大きく息を吸い込み、深く吐き出すと穣を見据えたリュウジが再度口を開く。
「俺ぁ、赤龍の頭やってるリュウジってもんだぁ。よろしくな、ツーブロック。俺は優しいから、てめぇのくだらねぇ質問に答えてやるよ。ゲーセンに居て大丈夫か? 問題ねぇ。マッポやヤクザにビビるようなやつぁ、赤龍にはいねぇ。後はてめぇらに対する用事だっけか。なぁに簡単なことだぁ」
リュウジは抑揚なく淡々と回答する。そして、一瞬間をあけると地を這うようなドスの効いた声で告げた。
「死ぬまで殴らせろ。……おい、お前ら。殺れ」
告げ終えるとほぼ同時に、赤龍の4人は堰を切ったかのように穣とアキラに襲いかかってきた。