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飛び込み大キック立ち強パンチ  作者: 安井智樹
第1章 リ・トライ
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第2話「分岐点」


 キーンコーンカーンコーン


「ああ、もう時間か。今日はこれまで。来週から中間テストとなるので、復習を怠らんようにな」


 6時限目の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。教壇の教師は手についたチョークの粉を払うと教室を出て行った。仰ぎながら軽く伸びをしている穣にクラスメイトが話しかけてくる。


「ジョー! 助けてくれ!」


「アキラかな? あ、やっぱりアキラだった」


 穣が視線を落とすと、顔先で両手を合わせて片目を瞑ったアキラがいた。咥えられるほど伸びた髪を左サイドに逃がし、ヘアピンで止めているのが印象的だ。彫りが深い顔立ち加え細目のため、制服を着ていなければ全く高校生に見えない。ヘアピンをつけているのは、年相応に見られたいアキラの儚い抵抗である。


「ノートのコピーは1教科につき昼飯1回だね」


「ぐっ。もう少し負けてくれ……。今月は財布がピンチなんだ」


「むしろ財布がピンチじゃない月はあるの? じゃあいつも通りのルールでいこうか」


「恩に着るぜ友よ! RGKの10本勝負で勝った本数だけタダってことでいいんだな?」


「うん、それでいいよ」


 テスト毎の恒例行事となっているノート貸しに、これまた恒例となっているルールを提案する。穣は基本的にテスト勉強をしない。これはサボっている訳ではなく、授業内容を授業中に理解しきっているためだ。

 ノートは授業内容の要点やポイントをメモするために使っている。

 このメモがヤマを張るのに非常に便利であるため、テスト前になると穣のノートは大人気であった。

 ノート貸しのお蔭で、今では昼食費はほぼタダとなっている。


「よし、じゃあノートのコピー取り終わったら対戦しに行くか!」


「あれ、勉強しなくていいの?」


「お前のノートがあれば土日でなんとかなるからな」


「そう?じゃあ荷物持ってくるから先に行ってて。いつものゲーセンでいいんだよね?」


「りょーかい。いつものゲーセンでオッケー」


 アキラと約束を交わしたところで、後ろから声を掛けられた。


「よっ、ジョー。どっこいくのー?」


「ん? ああ、ヒカルか」


 振り返ると見知った小柄な女子が腕を後ろに組みながら前のめりになり。

 くりっとした大きな目で下から穣の顔を見上げていた。ハーフアップにした後ろ髪が空中でゆらゆらと遊んでいる。


「「――あざとい」」


 穣とアキラはほぼ同時に感想を口にする。


「なんでよ! 週刊誌だとこういうポーズ多いじゃない!」


「お前が笑顔でグラビアポーズすると勘違いする奴が多いんだよ……」


 過去に苦い経験があるアキラが呆れながら答える。同様の経験をしている穣もしみじみと頷いてみせる。


「え、なになに? 惚れた?惚れちゃった?」


「「それはない」」


 2人して即答である。


「もー、ノリ悪いなぁ」


 頬を膨らませながら怒るフリをするヒカル。放っておくと要らぬ妬みを買いかねないため、穣は話を切り戻した。


「で、ヒカル。どうしたの? なにか用事?」


「あ、うん。来週から中間テストでしょ。暇だったら勉強手伝って欲しいなー。なーんて」


「ヒカルの? ……必要あるの?」


 穣も成績上位者ではあるが、ヒカルは更にその上をいく。事実、穣はテスト順位でヒカルより上位だったことがない。


「ちょっち科学がマズイんですよ、ジョー先生」


「科学かぁ。確かに爆発関係は難しかったよね。『300kg削岩する際に必要な爆薬の量を求めよ』とか問題に出そう」


「あり得る。どうせまた曖昧な問題にして記述式で解答させるんでしょ」


「科学は得意分野だし、いいよ。今日はアキラとの約束があるから明日でもいい?」


「私は問題なし。――ん? アキラとやくそくぅ?」

 

 ヒカルは小首を傾げる。


「試験前の恒例行事」


「あ、恒例行事ね。アキラ、そろそろ50回越えちゃうんじゃないの?」


「さすがにそこまではいってないよ。あと22回だね」


 穣が正確な『残おごり回数』を告げると、横で座っていたアキラがうなだれた。


「20回は切ってると思ってたんだけどなぁ……」


「残念。現実はいつだって厳しいのです」


「ま、今日全勝すればいいだけの話! いつまでもダベってないで、さっさと行こうぜ!」


 気持ちを切り替えたアキラが勢いよく立ち上がる。穣も続けて椅子から立つと、ヒカルに声をかけた。


「1勝もあげないけどねー。じゃ、ヒカル。また明日ね。」


「ほーい。細かい時間とか場所は夜、メールするね」


 手を振りながら穣たちを見送り、その姿が見えなくなると。

 一瞬だけ笑顔を崩し、ヒカルは呟く。


「あざとい、ね。ちょっちミスっちゃたかなぁ」


 その呟きは誰の耳に入る訳でもなく、教室内の喧騒に紛れて消えていった。


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