悪夢と試練
まだ自分自身の血統を恨むことを知らない純真無垢な器を持っていた
"ああ、またこの夢なのね・・・"
意識を失うか寝るかの度に繰り返す過去の悪夢とを見る度私の心は泥を塗られるがごとく塗りつぶされ心が痛んでいた
ーーーーー10年前ーーーーー
「汚らわしい魔女め!」
「呪われる!我々は呪われる!」
「あっちへ行け!俺たちに近づくな!」
皆の目が冷たい。排他的に自分達はまるで正しい意見を述べているかのように村人は酔っていた。まだ良かった。私を"ゴミ以下の目"で見ていた彼らの中には石などの物を投げてくる者さえいた。誰も咎めない。両親から授かった自慢の白い雪のような肌に辺り、血が流れようとも誰も気にしない。皆が大道芸人の演技を見て笑うかのように指をさして笑っていた。当時の私にはそれがなぜなのかは理解できなかった。だから傷口を押さえて泣くことしかできなかったのだ
「ねぇ、お父様、お母様。私は皆に何をしたの?」
泣きながらツライ現実を打ち明ける私を両親は暖かく抱いて何時も涙を浮かべて謝っていた
「ごめんな・・・お前が悪いんじゃない・・・お前は悪くない・・・」
その時の父の顔は今でも忘れない。忘れることはない
そうーーー最初で最期の"愛"というものであった・・・・
ーーーーー現在ーーーーー
「ハッ!?クゥッ・・・」
悪夢から目を覚まし、思わず跳ね起きた自分の体に走る痛み。
-・・・私は・・・
私が痛む傷跡を撫でながらまだ生きていることを確かめている最中に男が声をかけた
「おい、無理に触るなよ。傷口は塞がっちゃいないんだからな」
男は彼らの世界でいう"銃"という武器を手入れしていた。そうだ私は「カズヤ」という人を連れて来る際に彼らに仲間に攻撃を受けて負傷したんだ・・・
「あ・・・あの・・・」
私はお礼と経緯を兼ねて聞こうとしたがカズヤは「いいよ、礼なんて」と遠慮しがちに答えた
「あ・・・ありがとうございます。か・・・カズヤ様?」
「様って柄じゃない、それに俺は向こうで"死んだ身"だ」
向こうでは「森口 和也は名誉ある殉職」と扱われているだろう。幸いに恋人・身寄りのない自分にとっては残すものは何もない。
「それにこういうことを快く思わない勢力に命を狙われることを考えてここでは名前を変えるべきだろ?少なくとも俺がここで行動するならな」
自分自身まだ力を貸すと決めたわけではない。だが、こうまであっさりと常識を覆されてしまえばもはや疑うことは既に意味をなさない。ここで生きるために覚えなければならないことも多いだろう。自分の身を守るために血が流れないとも限らない。自分の持てる限りの装備でどこまでやれるのかは未知数だ
結局のところ自分の装備は自活するのに向いているものではなく、せめて「ボルトアクション式のライフルが欲しい」と悪態をつくところであった。だがそれ以前にこの世界における生態系や地形が全く分からないのはもっと痛い話であった。食べれる物・食べられない物、飲める水を確保しなければ干からびたミミズのように地面に横たわっているだろう
「ま、偽名は後で考えるとして・・・ここはどこだ?」
「ここの地理は全くと言って無知だ。右も左も分からん俺をエスコートぐらいしてくれるんだろ?」
そして次なる難題がこの世界における地理地形だ。未知の世界に足を踏み込んでいる今は全くと言っていいほど何も分からない。ここがどこで、どういう場所なのかは不明だ。女性にエスコートしてもらうなんてカッコ悪いかもしれないが、これは仕方ないことである。
「えっと・・・その・・・」
セラの反応と対応に困っているところから彼は察した「ああ、お先真っ暗だな」と。だが、起こっても仕方はなかった。無駄に労力を使いたくないからだ。だが、どうにかしてこのモヤモヤと溜まっている鬱憤を晴らす必要もあった。このようなサバイバル生活においてストレス解消の手段も見つけなければ身体に毒であるからだ。
「息つく暇もなくまた難題か・・・」
この広大な森の中で進む方向すら分からずにいるのは危険であった。アナログ腕時計の短針を登っている太陽に向けた。これは太陽とアナログ時計を使って方角を知るテクニックだ。短針を太陽に向けて長針とのちょうど中間が南になる。太陽は日の入後、徐々に南に向かって昇り、午後12時に南の方角に位置するからだ。
「待てよ。ここは北半球か?」
「"北半球"・・・いえ、分かりません。ですが日の位置から推測するに、まだお昼ごろだと思われます」
「どうも」
この方角の測り方は和也の世界でいう「北半球」での東から昇る太陽が南を通り、西に沈むということを利用したやり方だ。しかし、ここは異世界。北半球・南半球という言葉さえあるかどうかも分からない。つまり確実性に欠けてしまう
「立てるか?日が高いうちに移動しよう。何か場所の手がかりを探査ないと野垂死ぬ」
バックパックを背負い、ライフル肩にかけた。フル装備での長距離移動はブートキャンプ以上の苦痛かもしれない
「ええ、分かりました。気をつけていきましょう」
移動を始めた彼らだが、底知れぬ一抹の不安は尽きない。食料・水などを確保することと夜の気温の変化に注意しなければならない。今は温暖だが、砂漠のように昼間と夜の寒暖差が激しい恐れがある。未知の体験だからだ。けが人の具合にも注視しながら進まないといけない。本当に大変なことだ
「ほら、飲んでおけ」
自分の予備の水筒をセラにへと渡す。「えっ!?」と驚くセラに対して少し照れ臭そうに「水分はこまめに取らないと大変なことになるから」とありきたりなセリフを言うのであった。
ーーーーー2時間後ーーーーー
歩き始めてちょうど2時間ぐらいが経過し、未だ森の中であった。途中途中でセラの体力を伺いながらこまめに休憩を挟みながら移動していた。「そろそろ何か変化があってもいいんじゃないか・・・」とため息が出そうな時にセラが周囲を気にし始めた
「どうした、何かあったか?」
右手の人差し指がトリガーに伸びる。が、その行為は必要ないことがすぐに分かった
「水が流れる音が聞こえます。こっちです!」
「あ、おい!」
そっと周囲に耳を傾けると水が流れる音が聞こえる。静かな音だが聞こえるということは自分たちの近くなのだろう。いろいろと考えているうちにセラは先に行こうとしたため慌てて和也も追う。距離は思ったほど遠くなく、数十秒行った先に川があった
「これである程度の道標ができたな。流れに沿っていけば集落があるはずだ」
これまでの移動時間を考えるとここで休憩を挟むのが妥当なのだろうが、移動を始めた頃に比べて日が落ち始めている気がしていた。できるだけ日が高いうちに距離を稼いでおきたいからだ
「日が高いうちにできるだけ進もう。問題ないか?」
「ええ、大丈夫よ。行きましょう」
しばらく歩いていると木製の橋があるのが見えた。距離にすればざっと200mちょっとか。とりあえずそこで一息入れようかと考えていた時だった
「煙が見えます!」
セラが指差した方向には煙が上がっていた。誰かが火でも焚いているとすればそこに集落があるということだ。大体の場所を確認しようと目を凝らしていると橋の方から声が聞こえた
「女の子だ。こっちへ来ているな」
「ですが様子が変です」
「行ってみよう!」
和也たちも小走りでこちらへ駆け寄ってくる2人の少女のところにへと向かった。見た所姉妹だろうか。彼女たちの姿が近くになるにつれて様子が変だということが分かった
「おい!何があった!」
2人の少女の体は血を浴びていたのだ。怪我はしている様子はないが何かしらの返り血を浴びたのかひどく震えていた。姉らしき少女は震える手で和也に抱きつき泣きながら言った
「お願いです!助けてください!」
少女の目は不安と恐怖で溢れていた