3章:強制転移
「セラ」と名乗る異世界の少女の登場
彼女の目的とは?
「あなた様をお迎えにあがりました」
ー俺は理解に苦しんでいた。理由は2つある。突如として現れ、「お迎えにあがりました」なんて言われたらどう思う?
次に「セラ」と名乗る女性だ。彼女は"人ではない"。正確には"この世界の住人"ではない。一目見ただけではかなりの美人に見えるだろう。だが、俺たち人間にはないピンと長い耳を持っていた。そのためかどうかは分からないが俺はセラと言う名の女性に対して銃口を向けたままだ。
「それを下ろしてください。私は争いに来たのであはありません」
セラは自分が武器の類いを持っていないことを和也に伝えた。和也も彼女が自分に対しての敵意がないことは分かっていた。さっきの今まで気づかなかったのだ本当に敵意があると言うのなら自分自身はとっくに冷たい地面で明日を見れずにいたはずだ。それは理解している。理解してるのだが、銃を下すことはできなかった
「何を言ってる?俺を迎えにきた・・・だと・・・?」
先ほどまで死の境を彷徨うか否かの戦闘を繰り広げていた自分にはいきなり「迎えに来た」と言われても当然理解できるはずもなかった
「はい、先ほども申しました通りです。私はあなたをお迎えにあがりました」
和也はセラの目に敵意がないことを確認するのに数分の時間を必要としたがその数分の時間で自らの沸騰している頭を冷やすことができた。和也は銃を下ろすとセラの話を聞くことにした。セラもそれを確認して言葉を続けた
「私はこの世界の言葉で言う「異世界」の国「イベルタ王国」という国より参りました」
ー異世界?俺はSF小説の主人公か? 頭の中の混乱がを始めた。
「私の世界では戦乱が訪れています。血で血を洗う、汚く恐ろしいものです」
「戦乱」という言葉に顔を曇らせる。和也にはその気持ちは分かった。各地の戦場に派遣され、その悲惨さを身を持って体験してきたからだ
「私たちの国は兵を保有していません。そのため、敵国に侵攻された場合は"降伏"をせざるを得ないのです。現在私たちの国は隣国の手によって他国の侵略を水際で防いでいると言っても過言ではありません」
和也の頭の中でおおよその整理がつき始めていた。簡単に略すと「自分たちの世界は戦乱の真っ只中で、自分の国は戦力を保有しておらず、隣国の軍事力によって自分たちの国が守られている」というのが正しいだろう。しかし、それだけでは自分が必要とされる理由が不明だった。その理由を考えている内にセラの話はどんどん進む
「我が国の王女は未来を見通す目を持っています。その目には「あなたが写っていた」のです。国のためにその武器を取り、戦うあなたの姿を・・・」
「なっ・・・!」
あまりの展開に驚きを隠せずにいた。今、和也は史実の世界の登場人物の如く登場人物として語れたと言っても過言ではない。自分がRPGの主人公、もしくはそれに匹敵する立場に成っているのだ。だが、和也はそんなおとぎ話のような空想は既に捨てている。それどころかさっき自分がマルチネス大尉と共に殺した者の仲間ではないかという感情が沸き起こり、再び銃を構えてしまった
「質問する。貴様は奴の仲間か?返答次第では撃つ」
彼にはゲレロとラドス、そして上官のマルチネス大尉を失った。その元凶に関係があるというなら許すわけにはいかない。だが、そんな頭に血が上った和也を優しくセラは正すように話し始める
「あなたが殺したのは我々の大陸でも近年勢力を増している過激派宗教の組織の一員です。彼女自体に私のような時空を超える能力は持っていません。しかし、組織の一員に能力を行使できるものがいて、その者の手引きでこの世界に来た可能性が高いでしょう。目的はあなたの抹殺により、王女が見た未来の改変です」
とんだ妄言と言いたいが、実際に自分は狙われた立場である、不思議と他人には単なる馬鹿げた話にも聞こえるかもしれないが和也にとっては疑問を持たずに納得することができた。そうでもなければそこに倒れている過激派宗教の一員と教えられて者に襲撃に遭うことなどなかった。自然と和也は銃をホルスターに戻した。
「君の発言を受け入れた所で俺になにをしろという?」
セラは和也に大陸のおおまかな現状、彼女の国と王女、襲撃者の正体を説明した。和也も理解することができたが、それを知った所で和也に一体何をして欲しいのかが分からない
「それは分かりません。王女が観れるのはあくまで断片的なものに過ぎないからです。あなたが必要であることは分かっていますが具体的に何をどうすればいいまでは分からないのです」
ーつまりは俺が必要という以外はノープランの旅か・・・
「つまり、俺が向こうに行って自分の意思で行動する必要があるというのか?未来視で見た断片的なものとやらを頼りにパズルでもやるのか?冗談じゃない」
おいそれと言われて行く者はいない。和也は狙撃手だ。英雄の類と呼ばれる者に比べ、最前線に立って戦う立場じゃない。遠く敵の攻撃範囲から狙撃する汚く醜いポジションだ。彼女はおそらく無理も承知で言っているのは間違いないが、一歩も引きそうにないのもまた事実。何かしらの強制的な手段に投じてくる可能性は否定できずにいた
「そう言うことは分かっていました。仕方ありません。強行手段を取らせていただきます」
セラの右手が不可思議に光り始めた。それを見た和也は銃を引き抜こうとするが、手が動かない。気づけば彼の両手足は光り輝く鎖に拘束されていた。そして、セラを含めた周囲の空間が歪み始めた。おそらくこれから連れて行かれるのだろう
「嘘・・・だろ?いつの間に・・・!」
身体の自由を奪われた和也に抵抗する手段は残されていない。最早受け入れるしか手段は残されていなかった。だが、遠くから人が聞こえる。ー彼女の名を呼ぶ声か?いや、これは俺を呼ぶ声だ!
「准尉!大丈夫ですか!」
レプソルが救助に来た仲間を数名連れて戻ってきた。だが、徐々に周囲の空間が見えなくなり始めている。ーまずい、このままじゃ・・・
「撃て!」
レプソルの合図と共に総員が発砲を始めた。だが、和也はすぐに止めようと入った。咄嗟の冷静な判断を失った隊員達は流れ弾が和也に当たることを考えずに撃ち始めたからだ
「馬鹿野郎!そういつは・・・」
だが、言いかけた所で周囲がいきなり眩しい光に包まれ、目が開けられなくなった。そして、レプソル達が見たのはその場から和也達が消え、血の血痕と硝煙の匂いと死んだ者達の死体だけであった
「き・・・消えた・・・?」
その場に残された隊員達は何が起こったのか理解できていいないまま呆然と小銃を降ろして立ち尽くすしかできなかった。これではまるでエイリアンに攫われるSF映画を見ているかのような非現実的なことだった
ーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・・・!」
ハッと意識が浮かび上がり和也は周囲の景色を見渡した。周囲は先ほどとは周囲の明るさ以外何も変わった様子はなかった。ただ和也は瞬時に違和感を感じた
「見たこともない植物だ・・・」
よく注視すれば周囲にある植物は和也が見たこともないものが多い。ジャングルでのサバイバル訓練で新種を発見する可能性はたまにあるが、これはそのどれにも当てはまらなかった
「っということは本当に来てしまったのか・・・ここはどこだ?」
実感のないままセラのいう世界に連れてこられてしまったことにイマイチ実感とやらを感じることはできなかった。ーあいつはどこに行った?
セラならここがどこか分かるはずだ、ついでに元の世界に帰れるように説得しなければという思いから彼はセラを探す。だが、それは和也の思わぬ形で発見することになる
「おい!まさかお前!」
和也の背後に血を流して倒れているセラを見つけたからだ。おそらくあの時に発砲した銃弾が命中したのだろう。和也は急いで脈を図り、傷を探す。幸い意識は失っているが脈は安定しており、弾丸は心臓や頭にこそ外れてはいたが右肩に命中していた。
「出血は思ったよりは少ない・・・まずは弾の摘出だ」
銃弾は幸い彼女の華奢な体型のおかげか素人目からでも視認可能な位置にあった。摘出は彼は衛生下士官のラースに教わったことがあるが、実際に行うのはこれが初めてだった。
「クソ、どうすりゃいい。取り出すものが・・・」
だが、現実はそんなに優しくなかった。摘出の仕方は分かっていても取り出すための"モノ"がなかった。医療に関わるものはファーストエイドキットに入っているものに限られていたからだ。慌てふためく暇などない。一刻も早い摘出と止血をしなければ失血死につながる。和也は自分の装備をもう一度思い返してみた。代用に摘出に使える道具はないか?自分の所持物を思い返してみると「ハッ!」と心臓部分のポケットにしまってあった"お守り"を思い出した。
「そうだ!これなら・・・!」
マルチプライヤーのニードルノーズを代用すれば取り出せることを閃いた和也はすぐさま取り出して、ファーストエイドキットからゴム手袋と消毒液を取り出して準備をする。
「よし、動くなよ・・・」
取り出すのに若干の傷を開く必要があり、痛みに唸る様子もあったが気を失っているために起きることはなかったためにスムーズに行えた。本来そんな医療行為は資格的にも技術的にもできないのだが、ラースは戦地にて自分にもしものことがあった時のために秘密裏に教えてくれた。
ーラースに感謝しないとな・・・
「5.56mmか危ないところだった・・・」
もし、銃弾が数発か大きな口径の弾が命中していたのなら命に関わっていただろう。しかし命中したのは一発で急所には命中していないため命に関わるようなものでもなかった。和也の迅速な応急処置が大量出血を防ぎ、失血死は回避できた。摘出後ファーストエイドキットから止血帯と医療用カーゼを取り出し、それを傷口にあててきつく固定する
「出血の量は少ない。もう大丈夫だろう」
応急処置を終えたがまだ油断できない。しっかりと止血を完了し、セラが動ける状態にならなければ意味がない。意識を失っているセラの脈を測るとしっかりと脈打っているのが分かった。おそらくは大丈夫だろう。だが、医者でもない彼に確実性のある意思は持つことができなかった。ゴム手袋を捨て、血の付いた類のものはキチンと処理した後にセラを担いで燦燦と照る太陽から逃れるために木の木陰へと移動した
「呼吸は安定しているようだな。ハァ・・・一体どうしたらいいのやら」
考えてもため息しか出ない。そんな和也地震の心情とは裏腹に広がる空はとても眩しかった。それがなおさらため息を引き起こす原因にもなっていた。強制的な転移の張本人を叩き起こし、「元の世界へ戻せ!」なんて言うのも簡単だが、怪我人にそう乱暴に言う訳にもいかなかった。いや、"そういう気"すら起きなかったと言うのが正しいのかもしれない。
「考えても仕方ない。今ある装備を点検と今後を考えるか・・・」
生き物の囀りが響く中で和也は自分自身の装備品のチェックと武器の点検を始めた。いつ敵に遭遇するのか分からない未知の地で生きるために--------------
ーーーーー3章:強制転移(完)ーーーーー
前回の投稿からかなり経過しての投稿でしたが、無事に書き上げて投稿することが出来ました。この話からセリフと説明・視点の間を空けてみることにしました。
個人的には見やすいようにとのことなのですが、何かご意見等がありましたら是非教えてください。今後にできる限り反映させていただきたいと思います。
※誤字脱字・表現に問題があった場合、指摘を受けましたらできる限り早急な修正をいたします。随時皆様からのご意見・ご感想をお待ちいたしております