3.ネコ彼女、ぱんつを求む
大学に行く前の朝方。今日も今日とて無表情なイハが妙なことを言い出しました。
「すみません、イハ。もう一度言ってもらえますか?」
「だーりん、ぱんつをください」
「……どうやら僕の耳かイハの頭がおかしくなったような言葉が聞こえるのですが」
「だーりん、耳鼻科行くの? 行くならその前にぱんつください」
聞き間違えではないようで。
「イハ。何ですか、ぱんつって?」
「とうとうだーりんが、ぱんつもわからない状態に……」
「いえ、そうではなくてですね。ぱんつをどうするのかと」
「だーりん、いい? ぱんつは履くもの。被っても楽しいけれど、基本的には被るものじゃないの」
段々頭痛がひどくなって来ました。
「ですから、僕のぱんつをイハがどうしようっていうんですか? 履けないでしょう? 被れないでしょう?」
「愛があれば履くことくらいはできるの」
「おいそこの変態、そんなことに愛を無駄遣いするな阿呆」
話が脱線し過ぎです。
「私の洗濯物を干すのに使うの」
「イハの洗濯物? ……ああ、なるほど。そういうことですか」
女性服だけを干すと、その部屋の住人が女性だけだと思われて、変質者や空き巣に狙われやすくなると聞いたことがあります。
「わかりました、ちょっと待っていてください」
部屋に戻って、ごそごそごそ。
「はい、どうぞ。三枚あれば足りますよね?」
タンスから出したぱんつを三着、イハに渡す。
「くんくん……」
「おいそこの弩変態、なんで真っ先に臭いをかいだ」
「このぱんつは出来損ないだ、食べられないの」
「食うな阿呆」
「だーりん、違うの。新品のぱんつは新品のぱんつでしかないの」
「えーと、使い古していないと用をなさないということですか? どうしてです?」
「……だーりん、ひょっとしてエスパー?」
「おいそこの阿呆、わかりにくく言ってる自覚あったのかよ。最初から分かりやすく言えよ」
こほん、イハと一緒に居ると怒りやすくなって困ります。
「だーりんも知っているくらい男性用ぱんつで守る方法は有名なの。だから、近頃の訓練された変質者はぱんつの使用度を見分けられるくらい高度に進化した」
「イヤな進化しましたね……」
「人は環境に順応する生き物」
イハの表情が薄いこともあってなんだか真面目なことを語っているように感じられて、内容はぱんつ。朝っぱらからぱんつ。しかも男性用。なんですかこの無意味なものは。
「わかりました、ある程度履き古したものを持って来ます」
「ん。ぜひ、お願い」
もう一度戻って、ごそごそごそ。
それにしても、女性は大変ですね。僕ももう少し気を回しておくべきでした。
「だーりん、まだ?」
「ああ、はい。お待たせしました、どうぞ」
「くんくん……」
「おいこら、だから、かぐんじゃねえってんだよ超弩級変態」
「今のは、冗談」
冗談と言いながら実行しないでください。
「よいしょ」
かぽ
「……イハさん、何をしているのですか?」
「被った」
「なんで被った」
「私、言ったの。『ぱんつは被っても楽しい』」
「あれは本気だったんですか」