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白薔薇姫  作者: Blood orange
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あなたに会えて良かった

花はフランスから帰って来た翌日、約束通りに黒原拳との見合いをした。

見合いとは言っても、すでに婚姻が決まった相手だ。

「あ、あの…花さん…」

「黒原さん…いえ、私も黒原になるのですから拳さんで良いですわよね。一言だけあなたに言っておきます。私は法律上でのあなたの妻にはなりますが、心まではあなたに渡す事は出来ません」

「花!!」

「お父様。こう言う事ははっきりと言っておかなければならないのでは? 彼も知っているのでしょう? 私がまだレオンを愛していると言う事を。それでも私を望んでいると言われるのならば、結婚しましょう」

自分の人生を決める結婚だと言うのに、花はまるで商談でもするかのように淡々とした表情で物を言って来る。

黒原もここで花との婚姻を破談にするようなバカな男ではない。

彼とて、父の会社の社長の地位が欲しい。

この結婚は互いの利害が一致した、所謂取引。

「花!黒原君!」

「お父様。私達はビジネスの話をしているんです。私は等価交換をしているだけですわ」

感情のこもっていない花の目で父親と自分の夫となる黒原拳を見つめてる。

「いいでしょう。花。あなたは妻として私の子供を産んでもらいます。それまでは恋人と会うなり、好きにして下さって結構です。ただし、子供が産まれた後は…わかっていますよね?」

食い入るように自分を見つめて来る拳に花は手を差し出し、握手をすることでこの婚姻が本人の意思であると言う事を確定させた。



二人の結婚には世間がお祝いムードとなる。

今まで色々な男性と浮き名を流して来た恋多き女、花=マッケントッシュがようやく一人の若き富豪との結婚を決めたとマスコミは騒ぎ出した。

元恋人のレオンの所にまで行って、彼にこの結婚についてのコメントを貰いに行った大衆紙の記者もいた。

レオンは眉一つ動かさず、「彼女の結婚を心から祝福します」のコメントを寄越した。


傍目には黒原の会社は上手く軌道に乗っているかのように見えたが、花の目にはそれは泡沫の黒字にしか見えない。

彼女はついにレオンの所へと脚を運ぶようになった。

それにあわせてパパラッチが彼女を追い回す。

その度に花が身につけていた黒原の製品が飛ぶように売れて行った。



父の決めた相手と結婚し子供も産まれた。

名前は瞳と名付けた。

これは私が付けたわけじゃない。

夫が…拳が子供を見た時に青みがかった灰色の大きな双眸を見て決めた。

いくら夫と結婚していても、花はレオンと会っていた。

それは夫も承知してくれた。

兄なのだから。


相も変わらずカイザーが夫の会社に潜入している。

この事を夫に告げたとしても彼には一体誰がカイザーの人間かなんて…。

例えわかったとしても、すぐに処分する事など出来ないだろう。

夫が動けないのなら、私がやるしかない。

このローズを背負う人間として。

まず始めにデザイナー仲間、そしてジュリアの夫の友人達、宝石商、彼らは一度カイザーに潰されたサイラス一族。

レオン…あなたは一体何をしたいの?

その日から、花は度々レオンと会うようになった。

彼は現役のプロ選手だが、すでに投資家として成功していた。

「レオン。あなたの目的は何なの?」

「さあ?」

「お父様を苦しめる事はもう十分やったでしょ? 勝海が産まれたことであなたは今もこれからも…」

「花…」

「触らないで! あなたは一体何をしたいの? 私から他に何が欲しいの? 教えてよ…レオン…」

優しい彼の手をとると自分の頬に宛てがった。

「花…君に…側にいて欲しいんだ」

ポツリと出た彼の言葉。

それに私は涙で答えた。

子供が出来たら夫は妻として母としていてくれと言っていたが、私はこの人をもう二度と離したくはない。


黒原の屋敷を出て、フランスに渡った。

花はNYのローズ邸へと連れて行った。

執事のドルートスに花を任せると、彼女は花を最後に抱きしめて去って行った。

フランスへ渡った花がレオンと再び暮らし始めた。

その後、二人は小さな教会で式を挙げると甘い時間を過ごした。

レオンが帰って来るはずの時間に、家にやって来たのは見知らぬ男達。

花は彼らに取り押さえられると背中にスタンガンを突き付けられた。

いきなり電撃をくらった花は目を白黒させながら、次第にぼやけて来る視界を睨んだ。視界の端にいたのは白衣を着た老人がニヤニヤと笑っていた。

「レオン…」

薄れ行く意識の中で花が助けを求めたのは、最愛の男。

レオン=シャルレ。


花は目を覚ますと自分が病院にいる事を知った。

そこは窓がなく扉さえも部屋を出るにしても二重扉がついている。

膝をかかえた花はレオン…と呟くと溢れ出そうになる涙を拭った。


《目が覚めたかね。黒原 花さん、いや今はもうシャルレでしたか》


暗い天井に設置してあるスピーカーから聞こえて来る。


《博士、それはこれから…》

《ああ…》


博士?

あの独特な話し方、蛇みたいに息が漏れる言い方…。

あれは、私の記憶違いでなければあの男は、陣とか言う医学博士だ。

何でその彼がここに?


《シュタインが教えてくれなかったら、ーーーーの血は蘇れなかったのかもしれんな。君はこの研究所で一生暮らすんだ》


娘を捨ててまで愛しい人と手に手をとったしっぺ返しがこれか…。


《君がレオンと一緒になってくれて助かったよ。彼も我々に協力してくれると言ってくれてね…》


スピーカー越しに聞こえる嫌みな笑い声に鳥肌が立つ。


《レオンも君に絆されたのか、転々と居住地を変えるものだから、君達を見つけるのに苦労したよ》


「だから黒原の経営が苦しくなるように仕向けたのね」

花がそれに気づいたのは些細なことからだ。

まだ黒原の社内にはそれに気がついた者などいない。今は小さな損失で終わっているかもしれないが、それが架空の会社だと知ったら…。しかもマネーロンダリングで自社の利益になるように見せかけて、税金対策として功名に作られた罠は何年か後に大きな信用を失うとともに、脱税企業の汚名を付けられる。例えそのマネーロンダリングされたお金が見せかけだけ入っていて、実質には一円も入っていない場合は、特に痛手になる。


《君にはすぐにわかったみたいだね》


「当たり前でしょ。イタリアでお会いしたんですもの。忘れるわけないじゃない。あの男…」


悔しそうに唇を噛み締める花にスピーカーからは失笑が聞こえる。


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