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白薔薇姫  作者: Blood orange
3/9

運命の輪が回る(前)

夏休みー

アメリカの学校では夏休みがやたら長い。

休みの間にカップル達が別れるのが定番だ。

父親は花の奔放な性生活には口を出さない。今何を言っても娘が言う事を聞かないのは目に見えている。そんな無駄な事をするよりも彼としては、いかに自分の会社を大きくするかと言う事を考えていた。

レオナードは自分の会社の名をもう少し呼びやすく親しみやすい名にしてはどうかと娘の花から言われ、彼はそれを思案中である。

娘の花が友人と立ち上げたローズ社。

社のロゴには、花がデザインした白薔薇に赤い十字が光っている。

花の奔放な性生活を知った教会団体や赤十字団体からは、神を冒涜するものだといった声も上がったが、花が福祉にも力を入れているためにそれ以上の騒ぎにはならなかった。

彼自身、自分の会社の事で忙しいらしく朝食を一緒に食べる以外はずっと仕事をしている。

「ドルートス。花はどうした?」

優雅に紅茶を飲んでいたレオナードは新聞を読みながら、いつもならやれどこに連れて行けだの、どこの別荘に行きたいだのと我が侭を言って来る花の声が聞こえない。

妻を亡くしてすでに二年。

一時は荒れていた花だったが、友人に恵まれている。

ジュリアがいなかったら、彼女はまだあの苦しみの沼の中で足掻いていただろう。

嫌がるあの子を連れて、カウンセリング施設に連れて行く所も親以上に花の事を愛してくれているのだろう。

ゆっくりとカップの中の紅茶を飲み干すとレオナードは「男親って言うのは寂しい物なのだな」そうポツリと呟いた。

あれから花は無事に高校生になったこともあってか、落ち着きをみせるようになり、この頃は慈善事業に力を入れている。

「花お嬢様はイタリアにご友人と行かれました」

「イタリア?」

「はい…」

眉を顰めたレオナードは「何もなければ良いのだが…」そう呟いた。

父親の感と言うのは当たるらしい。

この頃、花はジュリアと一緒にイタリアにいた。

ジュリアは元々イタリア出身と言う事もあり、彼女のシャトーで日柄のんびりと過ごしていた。

「花〜ランペドゥーサにいかない?」

「ランペッサー?」

「違う〜!ランペドゥーサ!」

本を読んでいた花はチップスをかじるといいわよと答えるとジュリアの家の車でランペドゥーサに向かった。

「ここから、船に乗るの」

ジュリアの言葉に、花は顔が真っ青になった。

「花? 大丈夫?」

「だ、大丈夫よ…」

「まさか海が怖いとか言わないよね?」

「……」

無言は肯定の意味。

小さくため息をついたジュリアは「わかったわ」と言うと花の腕をぐっと掴んた。

諦めてくれたのかも…とつい笑顔になった花は、次の瞬間顔を強ばらせた。

「ヘリで行くから」

「いや〜!!」

泣く泣くヘリで連れて行かれた花は、そこで衝撃的な出会いをする。



早くもこのランペドゥーサ島に着いて、三日目だ。

人口は五千人と言う小さな島は夏になると観光客で賑やかになる。

花は夏でも長袖長ズボン、帽子を着用している。

白い波が立つだけでも、花は身震いをしてしまう。

それほど彼女には海というのは怖いと言う印象しかない。以前、花達がニースにいた頃は、家族で一夏を優雅に過ごした。

あの頃はまだ海の怖さなんて知らずにいた花は、いつものように冒険と言う名の遊びで、近くに止めてあったボートに一人で乗りこむと時間が経つのも忘れて遊んでいた。そうするうちに、彼女は疲れていつの間にか眠っていた。気がついたら随分沖まで流されてしまった経験(こと)がある。

周りには建物も島も見えず、自分を今にも飲み込みそうな真っ黒な海原がひろがっていた。

『助けて!!』

『ママ〜!!』

『パパ〜!!』

『ローラー!!』

声が出るほど助けを呼んでも誰も気づいてくれない。

子供心にもしかしてこのまま死んでしまうんじゃないのかと言う恐怖に襲われた。

昼間は肌がじりじりと焦げ付くように熱かった太陽が雲に覆われたとたん、海からの冷たい風が花の小さな体に吹き付けた。今考えれば、あの辺りは相当な水深があった場所だったのだろう。子供だった花はいきなり気温が下がった事もあり、彼女の恐怖ゲージは振り切った。

あの時、近くの漁船の人達が助けてくれなかったら、今頃どうなっていたのかさえ解らない。

それ以来、花は海が怖くなったのだ。

その事をジュリアに話すとムリヤリ船には乗せないからと約束してくれた。


ジュリアはワイン会社の娘で、先祖には領主もいたとか。だが、彼女にとってそれはカビの生えたような昔のことだと笑いながら言って来る。

男前な性格のジュリアには花は何度も助けられている。


「花、もしかすると素敵な出会いがあるかもよ」

彼女の言葉に苦笑した花は恋なんてしないよとトラウマにまでなってしまったカルロスやエドワードとの事を思い出した。

母親とも自分とも付き合っていたあの男達。彼は父の会社に復讐するために私に近づいたと言って来た。エドワードだって復讐心はない物の、同じようなものだ。

それを知った花の悲しみは深かった。

「…もう恋なんていいよ…」

「花…」

綺麗な眉をハの字に下げるとジュリアは花を後ろからキツく抱きしめた。

「諦めないでよ…花」

「う…ん…」

「それにこのランペドゥーサには言い伝えがあるのよ」

「何それ。何処かの安っぽいツアコンみたいじゃない」

胡散臭いと片方の眉を吊り上げた花がちろりとジュリアを流し見る。

だって、NYの時だってそうだったし。

セントラルパークの橋の下で恋人とキスすると永遠に結ばれるとか。

まだやってなかったけど、私には無理だわ。

後はエンパイヤーステイトビルの時だってそうだったし。

もういつもガセネタばかり。

「まあまあ、今までのは水に流して、ね。今回のは地元だし本当だって」

「期待してないからね」

「花〜!!大好き!!愛してる〜!!」

ジュリアが花に抱きつくと花はすでに耳まで真っ赤に染めている。

「さあ、そうと決まれば、花の水着を買わなきゃ!行くわよ!ショッピングに!」

嫌がる花の腕を引っ張ってジュリアは繁華街へと向かって行った。

「私は水着は嫌よ〜!!」

花の声だけが響いていった。



結局水着はジュリアの一押しでビキニになった。

それを隠すために花は白いパレオを身に纏った。その上肩を焼かないようにパレオと同色の布を買って、イスラム女性のように髪を布で覆うとそのまま肩や腕を布で隠した。

それを見たジュリアがため息を吐いたのは言うまでもない。

「花〜!!あなたね〜何をやってるのよ!!恋を捜しに来てるんでしょうが!恋を!! 水着を着てらっしゃいよ」

「ジュリア!でも私はちゃんとビキニは着てるわよ!ほら」

チラリと布の下を見せれば確かに彼女が昼間に選んだビキニを着ている。渋々だが。

それなら…とジュリアも納得した。(ように見えた)



夕日が海に沈む時に運命の人と出会えるんだって。

あの時、ジュリアの言葉を聞いて、ふーんと思った。いつもの彼女の胡散臭い恋愛ネタだから、真剣に聞かなくても大丈夫だし。今までは真面目に聞いて本当にバカを見たからね…。

それに海ならどこも一緒でしょ。

あの恐ろしい黒い海と繋がっているんだから。

花は、ぶるりと体を震わせると自分を抱きしめた。

あの恐怖から自分はまだ立ち直れていないのか。何度もセラピーを受けた。カウンセリングも受けた。それでも海を見る度に幼い頃に起こったあの恐怖が蘇る。

ここも同じなんだろう。

花は鞄からスケッチブックを取り出すと新しいブローチやピアスのデザインを描き始めた。

だがいつものようにアイデアが浮かんで来るわけじゃない。さっきから何度も考えては描き、そしてすぐに消し、の繰り返しだ。

「こんなデザインじゃダメだわ」

そんな花の視界が突然漆黒に覆われた。

「!!」

「花、私よジュリア。これから連れて行きたい所があるから一緒に行きましょう。あ、でもこのアイマスクは取っちゃダメ。花を驚かせたいんだから!!」

ジュリアったら…。

もうすでに驚いていますってば。そう笑えばジュリアはもっと驚いて欲しいのよと笑って来る。

ジュリアに連れて来られた場所でアイマスクを外した花は目を大きく見開くと、ランペドゥーサの海を見て感嘆のため息を零した。

「え…これが…海?」

「どう?驚いたでしょ?」

「え、ええ!!驚いたどころじゃないわ!!」

花の目の前に広がるのは海と言うよりも、宝石のアクアマリンのように澄み切った透明感のある液体。

海に浮かぶ船さえも飛んでいるように見える。

普段なら海など怖がってしまう花も、この時ばかりは好奇心の方が強く出てしまい気がついたら海に入っていた。

「ジュリア!」

「ん?」

「愛してる!」

「何よ。花から言ってくれるなんてどうしたの?」

「ここに連れて来てくれてありがとう」

クスッと笑うジュリアに花は楽しそうに水しぶきを上げて遊んでいる。








ジュリアに向けてかけていた海水が眩しいイタリアの太陽に照らされ、宝石のようにキラキラとした雫になって落ちて来る。

子供の頃に戻ったみたいにはしゃいじゃった。

気がつけばもうすぐ夕方だ。

ジュリアは別荘からの迎えが来るかもしれないから、チェックして来ると言うと海水で濡れた衣服を片手で軽く絞った。

彼女の金色の髪が海水に濡れたところがくすんだ黒く見える。そんな神秘的な色を花は羨ましがった。

自分の黒髪は水に濡れても、乾かしても髪の色はまるで呪縛を受けたように真っ黒。それが嫌で何度も髪を染めたが、その度に髪は痛むばかり。今はもう諦めの境地に入って、髪を染める事すらしないから、黒髪のまま。


空が茜色に染まるとさっきまでアクアマリンのように澄み切っていた海も淡いオレンジ色に変わって行く。

お母様にも見せたかった…。

イタリアの太陽のように暖かく優しかった人。

二年かかってあの時の心の傷がやっと塞がった。

憎めるわけないじゃない…。あなたが大好きだったんだから…。

友達みたいで、親子で、そして姉妹みたいで…。

「綺麗だ…」

いきなり背後から声がした。

「誰?」

振り向いた花の頬には涙が流れ落ちた。

服がぺたりと肌に吸い付くようにくっついて気持ち悪い。

足下が歩き始めた幼児のように覚束ない。一体どれくらいの時間自分はこの海に浸かっていたのだろうか。

「儀式だったの?」

今まで太陽の方に目を向けていたせいか、声のする方を見ても黒い大きな点がじゃまをして顔さえも見えない。

目を細めた花の耳に水音が聞こえて来る。

どうやら相手の人間も海に入って来たらしい。

「儀式だったの?」

「え?」

「だって、その白い服は儀式に着る服に似てるから、てっきりこのランペドゥーサだけに残っている神へ祈りを捧げているのかって思ってさ…。もしそれだったら、悪いし。で、儀式だったの?」

その目は真剣だ。

花はそれがおかしくてプッと吹き出した。ツボにはまった花は笑いが止まらず、お腹を押さえて笑い出す。

一通り笑い終えると花は涙を指で拭った。

「ごめんなさい。儀式じゃないの…でも儀式に近いのかもね…まあ、要するに懺悔よ」

初めてあった人なのに、花は二年前に母を失った事件を話始めた。

「君は自分を許せなかったんだね」

その人の言葉は花の真意をついていた。

花はこれまでずっと母と婚約者、そして恋人の裏切りを許せなかった。

人を憎み、罪を許さないのは精神も肉体も蝕むほど体力、気力を使い果たす。これはジュリアの婚約者であるザカエルに言われた言葉だ。

この二

年間の間花は摂食障害を何度も繰り返して来た。もちろんカウンセリングも受けた。その度にカウンセラーからは何も得る事はなかった。

彼らは口々に同じ事を言うー全ての答えは自分で導き出さなきゃならないと。

花の恋人だと騒がれた男達も、一応にカウンセラーと同じ事を言って来た。

彼らは花にとっては恋人ではなく、ただの友達だ。それを大衆紙が恋人だの不倫だのと騒いでいただけ。

いつも彼らの家族とも一緒にいたのだから、どうして不倫なのだろう?

訳解らない。

すっかり日が暮れてしまった空には宝石箱をひっくり返したような星空が広がっていた。それは花が立っている波打ち際まで。

「綺麗…。昼間は空の上を飛んでいるような気分だったけど、夜は輝く星座達に囲まれているみたいな不思議な気分…。どこから空なのか海なのか解らないくらい綺麗…」

気がついたら、花は名前も知らない人と二人で何時間も夜空を眺めていた。 




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