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白薔薇姫  作者: Blood orange
2/9

抉られた傷

例え、両親が別れていようと子供が二十歳になるまで子供は親との面会日が設けられる。

この週末は母親との面会日。

すでに母親はローズブッシュの名で社交界に戻って来た。

母親よりも女としての幸せを選んだ彼女に世間は様々な噂をかき立てたが、それを全て自分の新たな仕事であるデザインの広告として利用している母には、同じ女としてさすがとしか言いようがない。

家の前に停車したBMWに乗り込んだ花は、心配そうな顔をして見送りに来たドルートスに笑顔で手を振ると久々の女二人という時間を楽しんだ。


「花、どう?学校は楽しい?」

「うん。楽しいよ。いつもジュリアと一緒にいるの。ジュリアってお母様は憶えてるわよね?」

「シシリーの?」

「そう!!」

「あなたとジュリアは本当にキンダーの頃からの大親友だものね。懐かしいわ…。今日は彼女も一緒なの?」

「うん。なんかね、今度のシニアのパーティに着ていくドレスをどこで買おうかって迷ってて…」

「あら。ママのお店にしてくれればいいのに…」

「だって、お母様のお店は高校生が学校のシニアパーティに着ていけるようなドレスを売ってるわけじゃないでしょ?」

「わかってる。でもそれだけあなたは私の自慢の娘なのよ。で?」

セントラルパークを抜けた時に車を止めた母親は至極真面目な顔で花の顔を見ている。

「相手は誰なの?」

「し、心配してるの?」

「当たり前でしょ」

その言葉を聞いた花は顔を一瞬歪めた。彼女の中ではまだあの日の母とエドワードの姿が記憶に焼き付いて、忘れたくても忘れられない。

また自分の彼を母に取られるんじゃないんだろうかと思ってしまう。

「で?」

「え?何?」

「相手は誰なの?」

「カルロスよ。カルロス=カイザール」

渋々と答えた名前に母親は唇を真っ青にさせた。

カイザールなんて名前はここには五万といるのに、何でそん表情をするのかしら?

「お母様?」

「…さい…」

「え?」

「あの男は止めなさい」

母が運転する車に乗っていた花は黙りを決め込んだ。

「花。ママはね、あなたの事を考えて言ってるの。彼とは別れなさい」

「……」

「花!聞いてるの!? あの子の親はお父様の会社にとってもライバル社なのよ」

カルロスの事をまた悪く言っている。

花は母から見えないように小さくため息を吐くとジュリアとの待ち合わせ場所であるセントラルパークのW59ストリートで車から降りると待ち合わせのコロンブスサークルまで走って行った。

「もう!お母様の顔なんてみたくない! 一人にして!」

花が飛び出した後、母親は急いで車を縦列駐車させるとそこで花が戻って来るのを待った。

「花!!」

ジュリアとの待ち合わせ場所に行くと「後一人来るから待って」と言われ、二人して待っていた。

「おかしいわね。時間にはいつも厳しい子なのに」

ジュリアの言葉に疑問を持ちながらも二人は互いの恋花に花を咲かせ始めた。

「ごめん。遅れて」

「カルロス?」

どうしてカルロスがここに?

ジュリアの顔を見ると彼女は邪魔者は消えるよ〜と笑いながら地下鉄の駅の中へと消えて行った。

どうやら、今日の買物はジュリアが仕組んだことだったんだ。

「ジュリアったら」

赤くなった花はカルロスに抱きついた。

(え?)

いつもカルロスが付けてるコロンとは違う香り…。

肩に着いているのはお母様の使っている香水に似てるけど、違うよね?


まるで今さっき銃を使ったような…。

硝煙の臭い。

違うよね。

信じていいよね?

この頃のNYでは道を歩いていてかつあげに遭ったりするのは、当たり前の時代。

「カルロス、どうしたの? 何か煙草なのかな? 変な臭いがするけど…?」

煙草なんかじゃない…頭では解っていても声が震えて来るのが解る。

「な、何でもない…」

どうして目を反らすの?

恋人同士でセントラルパークの中を腕を組んで歩き、その後は五番街でショッピングをして楽しい時間を過ごした。

カルロスの顔が花に近づいて来ると、花はすっと顔を背ける。

「花?」

「ごめんなさい。両親にカルロスとのことを認めてもらってからでもいい?」

花の言葉にカルロスは悲しそうに頷いた。

カルロスと別れた花が母の車に戻ろうとするとそこには異様なまでの人だかりが。

一抹の不安を胸に抱えた花は恐る恐る声をかけながら「すみません通して下さい」と人ごみをかき分けて、一歩一歩車の方へと近づいて行く。

「お母様?」

そこには一時間前に喧嘩別れした母親の車があった。

ハンドルに突っ伏している母親の姿が窓から見える。

「お母様?」

両手いっぱいにブランド物の袋を下げた花は周りの人達の声を聞いてその場に立ち尽くした。



ー銃で撃たれたんだってさ。

ー何だってこんな所に高級車を停めたんだ?

ーここはクィーン地区ほどじゃないが、なんだって…

ー犯人は結構若い男だって言ってたぞ。

ー高校生くらいだって。

「お母様?」

これはウソでも芝居でもないんだと花に言い聞かせているように警察の赤と青のランプが光っていた。

泣き叫びながら花が母親の所に行くと警察に止められた。

「いやぁぁぁぁ!!!」

この日、母親との面会日だと知っていたのは、ジュリアしかいなかった。

でもジュリアは先に地下鉄で家に帰って行ってしまった。

一体誰が…。

花は母親の亡がらに縋り付くと彼女の体からでて来た不思議な臭いに愕然とした。

「ウソでしょ?」

花の供述からカルロスが逮捕され、彼の衣服から硝煙反応が出てくるとカルロスは娘とも付き合っていたが、あの女ともつきあっていたと言い出した。

「娘とは別れろと言われてカァッとなった」

母はカルロスに殺された。

また恋人からも母親からも裏切られていた花は自暴自棄に陥ると、花は泥酔したり合成ドラッグを服用するようになった。

そんな花を親友のジュリアが彼女を引き摺るように連れて行ったのがドラッグカウンセリング施設。

そこで花は二ヶ月間外界から隔離された生活を送った。

その間彼女は高校を休学。

花にとってそこで過ごした二か月は彼女の未来を左右する機転だった。


彼女は施設で自分がどれだけ恵まれた環境にいたのかを痛感し、その後花は施設団体やカウンセリング施設、孤児院、DV保護施設に力を注ぐようになった。

初めは金持ちのドラ娘の道楽だと世間は彼女の行動を非難していたが、花はその非難さえも味方につけて自分が支援する団体を宣伝して行った。

マッケントッシュの名を使わない代わりに、彼女が考えたのは『ローズ』と言う名前。それは自分の母親の旧姓ローズブッシュの名をもじったもの。

万人に愛される花言葉を秘めて彼女は『ローズの紋章』をデザインするとそれを彼女自ら身につけた。

ジュリアと二人で立ち上げた会社はどんどん成長してく。


「花、今日は雑誌の取材だけど大丈夫?」

「うん。大丈夫よ」

行ってきますと手を振ると取材の場所となっている自分の家ーマッケントッシュ邸のテラスへと赴いた。

「花、君がいつもつけてる、その指輪なんだが…それも君がデザインしたの?」

「はい。これは私が最初にデザインした物なの。だからこれは非売品なの。ごめんなさい」

雑誌やTVのインタビューで花がつけていたローズの指輪を見て、欲しいと言う声が聞けた時に彼女は「これは非売品なの…」と告げれば、世間はもっとそれを欲しがった。

自分が広告塔になることで、花はローズの紋章を入れたグッズを売り出した。

その利益の半分以上が施設団体に行くようになっている。

偽善だと言う者もいたが、花は「だから何?」とツンとすまして返す。

そんな花にはパートナーと呼ばれる男性が何人もいた。

社交界のパーティに出る度に花のパートナーは毎回違う。

それを大衆紙は面白おかしくかき立てた。

花はそれを否定も肯定もしないかわりに、パートナーからの支援を受け取る。

相手は花を使って名前を売りたい。

互いに納得した利用の仕方だ。

その中には彼女の仕事のパートナーとなったコンスタンチンもいた。


 

サマースクールを経て、ようやく高校を卒業した花は、先に卒業していた親友のジュリアと二人でヨーロッパに旅行に来ている。

ローマにつくとお上りさん気分でスペイン広場で買物をし、映画と同じようにジェラードを食べた。

運転免許は持っていない二人はタクシーでローマ市内を回り、真実の口の前で写真を撮ると二人して手を入れた。最後はサンタンジェロ城に行き観光して回った。

この日はノミの市が開かれていて、二人は楽しそうに見て回っていた。

男が花にぶつかると、彼女のハンドバッグを奪って駆けて行った。

「え!? あの中にパスポートも入っているのに!!」

そう叫んだ花は急いで男の後を付けて行く。

「誰か!!スリよ!スリ!」

踵の高いヒールなんて履くんじゃなかった。

花は自分の服装に舌うちしながらも、走ってく。

目の前で自分のバッグを奪った男が足を縺れさせると、ド派手にこけた。

足をひっかけて、男からバッグを奪ってくれた人が微笑みながら花の方に歩み寄って来る。

「これ、君の?」

「は、はい…」

柔らかいウェーブをした明るい金髪に明るいエメラルド色の碧眼。

王子様?

まるで子供の頃に読んだお気に入りの絵本の中の王子様がそこに立っていた。

夢じゃないわよね…。触っていいのかしら?

ボォーッとしてバッグを受け取ると花を追いかけて来たジュリアが走って来た。

「花!大丈夫なの?」

「う、うん…今さっきこの人にバッグを取り返してもらって…あれ?いない…」

「どうしたの?」

「さっきまでいたの。王子様みたいな人が」

「花…時差ぼけだよきっと」

そうなのかな…。

この日の夕方はコンスタンチンがオーナーを勤めるサッカーチームのパーティがあり、二人はそれに招かれた。

「コンスタンチン、お久しぶり」

地元イタリア製のブランド物に身を包んだ三十路の男性が花の声に振り向いた。

「やあ、花。それに可愛らしいお嬢さんも一緒なのか」

「初めまして、ジュリアン=ラリエットです。いつも婚約者のザカエルがお世話になっています」

お嬢さんと呼ばれ、頬を染めたジュリアン。

「ああ、君がザカエルの赤い薔薇なのか」

赤い薔薇と言われ桃色に染まった頬を首まで茹蛸のようにさらに真っ赤に染めるジュリアン。

そんなジュリアンに助け舟とばかりに婚約者のザカエルが側に現れると「彼女をそんなに弄らないで下さい。それは僕の役目なんですから」そうウィンクしてジュリアンを連れ去って行った。

「コンスタンチン…」

花がエドワードの事を言おうとしているのがわかったコンスタンチンは花の唇に人差し指を付ける。

「それ以上はナッシングだよ。それよりも今日のパーティーを楽しんで行ってくれ」

奥の方で大きな声が上がる。

花は驚いたように目を丸くするとコンスタンチンから君にも紹介してあげようと言われ、ほぼ強引に腰を引き寄せられ、お祭り騒ぎの声がする方へと足を向ける。

赤毛や栗毛、黒髪、茶髪と言った色々な色の中でも一際目だつ金髪の存在。

「失礼するよ。君達レディーを紹介しよう。彼女は花=ローズブッシュ嬢だ。こちらはカイヤン、マルコ、ウィル、 ティモシィー、そして司令塔のレオン=シャルレ。さあみんなレディにご挨拶を」

彼らは一同花の前に跪くと胸に手を当てて頭を垂れた。

花はそれを見てただオロオロとするばかり。

そんな花の手に次々と男達が口づけをする。

最後に花の手をとったレオンを見た時に花は小さく声を上げた。

「あなたは…私の鞄をスリから守ってくれた人ですね」

「ああ…観光客にはいつもああ言うヤツが付きまとうんでね。君も今度からスリには気をつけた方が良い」

その日の内に二人は打ち解けた。

話題の豊富なレオンにいつしか花の頑な心も綻ぶように表情に笑みが浮かんで来る。

「君達は今高校生?」

「「卒業したばかりよ」」

ザカエルと一緒に花の隣に来たジュリアンとハモる。

「私は花の会社を手伝いしながら看護学校を卒業したいわ。二年間だけど集中して勉強するし。それが終わったら彼と結婚する事になっているの。花は大学はこっちにするんだっけ?」

「うん…イタリアかフランスの大学にって思ってるの。アメリカはもう良いから。それにローズブランドをこっちでも広げてみようって思ってね」

「さすがは我が社の広告塔様は違うわ」

「私って、つくづく男運がないのかしらね…。二度も男を母親に寝取られるなんて」

花の婚約者と恋人が母親と通じていた事を聞いて知っているジュリアは顔を曇らせた。



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