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 濃い黒煙で何かはわからないが、二つの人の形をした何かがカプセルの上で動いている。もっと正確に言うと、人を背負った一人の形をした何かだ。

 「新次郎君! ロリ子ちゃん!」

 黒煙の奥から女の人の声が聞こえた。

 その声を聞いた瞬間、新次郎は絶望的な表情を一変させる。この声、そしてだんだんとはっきりしてくる黒煙の奥の人影で、新次郎は誰かをようやく判別することが出来た。

 そして、黒煙の奥から、麻穂を背負った黒髪の女性が現れた。

 「智野先生!」

 麻穂を背負って現れたのは、紛れも無く智野先生だった。

 智野先生は麻穂の容態を確認すると、新次郎に向かって親指でグッドサインを出す。知能神一族のお墨付きなら、心配は無いだろうと、新次郎の表情は絶望から希望へ変わる。

 「くっ! 貴様は知能神一族か!」

 動けないままロリ子の父親が智野先生に向かって言う。

 智野先生は麻穂を背負ったまま、鋭い眼力で父親を睨みつける。一瞬、あれだけ大きなロリ子の父親の身が小さく見えた気がした。

 「この子は私の大事な生徒よ! 貴方の任務の肥やしにはさせないわ!」

 「うぬぬぬぬ!」

 思い通りにことが進まず、悔しそうに唸るロリ子の父親。智野先生は鋭かった眼力を解き、ロリ子の父親の上に向かって叫んだ。

 「さぁ! 後は貴方の仕事よ!」

 「ぶちかませぇ! ロリ子!」

 二人が叫ぶと、ロリ子の父親は気づいたように自分の真上を見た。

 もはや防ぐ手立ては無かった。勢いを増して上からやってくるロリ子は、もう目と鼻の先にまで迫っていた。

 「これで……これでぇ!」

 キャンディハンマーを握る手がさらに強くなり、心の奥底から湧いてくる力を総動員させる。全ての力を、この一撃に込めるために。

 「馬鹿な! この私が! 狩猟神一族の族長の私が!」

 「これでぇぇぇ! 終わりですぅぅぅ!」

 強力な衝撃が、狩猟島全てを覆い尽くした。

 「ぐぎゃあああああああ!!!」

 断末魔とも呼べる叫び声が響き渡る。

 その断末魔を後ろに、ロリ子は空中で三回転し、綺麗に着地した。

 そしてロリ子が着地した瞬間、断末魔が止み、その巨体がまるで山が崩れるように倒れ、そのまま動かなくなった。

 「終わった……」

 静けさが場を包む。さっきまで戦っていた二人にとっては、不気味なほど静かに感じてしまう。

 その時、新次郎達の足元が大きく揺れ始めた。

 「うわわ!」

 「なな! なんですか!?」

 慌てた様子の二人。

 そんな二人に向かって、智野先生は入り口の扉を開けてから叫ぶ。

 「二人とも急いで! さっきの衝撃で狩猟島の建物が崩れるわ!」

 「えぇぇ!」

 突然の出来事、というかお約束に、ロリ子と新次郎はほとんど同時に驚く。

 そんな二人の後ろでは、部屋の中の機械が派手な音を立てて次々と爆発していっている。このまま行けば、本当に潰されてしまうかもしれない。

 「おいロリ子! 早く行くぞ!」

 「ちょ……ちょっと待つです!」

 新次郎がすぐさま走ろうとするが、ロリ子の方は走ろうとした瞬間に膝をついてしまった。

 「お前……まさか」

 新次郎は確信した。

 確かに、ダメージを負った状態であれだけ動けば、体も限界を迎えるだろう。さらに、そこまでロリ子を酷使したのは自分なのだと新次郎もある程度は自覚していた。

 新次郎は、何とか立ち上がろうとしているロリ子を見ながら小さくため息をつき、つかつかと大股でロリ子に歩み寄る。

 「……ほら」

 ぶっきらぼうに言いながら、新次郎は左手を差し出した。

 「……」

 ロリ子はその左手をジッと見てから、その手を握り、ゆっくりと立ち上がった。二人の意思は、手を握り合っただけで疎通できるほどになっていた。

 「よし、行くぞ」

 「はいなのです!」

 そして、二人は崩れ去っていく狩猟島の建物から脱出するために走っていった。

 途中、ロリ子は新次郎の手を強く握っていた。それは何故か、実際に戦ったロリ子の父親よりも父親らしい、暖かさを感じたからだった。

 そしてそれが何なのか、ロリ子ははっきりと理解していた。

 しかし、ロリ子はそれを表に出さず、口にも出さずに、そっと自分の心の中にしまった。


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