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「おい……どういうことだよ……!」
目の前に映っているのがドレスだということを理解した新次郎だったが、何故それが目の前にあるのか、それを理解することが出来なかった。
そして次に新次郎の目に飛び込んできたのは、砕けて飛び散っている何かだった。それはドレスの奥から甲高い音を放って砕け、その破片がまるで花火のように宙に舞い、重力にしたがって下に渇いた音を立てて落ちていく。
やがて、回復し始めている思考が、遅れてその何かを理解する。
「これって……ロリポップ……サイス……?」
砕け散ったのは、新次郎がいつも見慣れているロリポップサイスの欠片だった。無敵の盾とも言われていたロリポップサイスが、皿が割れて飛び散るように破片が踊っている。
そして、完全に回復した思考が今の状況を把握し、新次郎の全身を震わせる。
ひらひらのドレスを着た少女が、向かってきた光から新次郎を守るために割り込み、その光によって体を貫かれていた。
「ロリ……子……!」
目の前に映っていたのは、新次郎をかばうように光との間に割り込んできたロリ子の姿だった。
ロリポップサイスで身を守ったようだが、ロリ子の父親が放った光はロリポップサイスが防げる攻撃の許容範囲を超えていたようで、無残にも砕け散ってしまっている。
そして防ぐ術を失ったロリ子の体を、光は無情にも貫いた。
「おい……ロリ子……!」
震える新次郎の目の前で、ロリ子は糸の切れた人形のようにぐったりとなり、そのまま地面に倒れてしまった。
一瞬で新次郎の体が冷え切った。
「ロリ子……ロリ子!」
名を叫びながら駆け寄る新次郎。
地面に倒れているロリ子は口から血を流し、目を閉じたままピクリとも動かない。ロリポップサイスを握っていた手は開かれて、カランと乾いた音を立ててロリポップサイスの手元が落ちる。
絶望的。新次郎の頭にそんな言葉がよぎった。
「おい! ロリ子! 返事しろロリ子!」
必死に名を叫び、体を揺する。しかし、いくら呼びかけてもロリ子は答えない。いくら体を揺すってもロリ子は動かない。
もはや助からない、と新次郎の頭の中では理解していたが、それでも体が勝手に動いていた。いくら動きを止める信号を脳が送っても、体が勝手にロリ子の頬を叩き、ロリ子の口元を握り、悲痛の叫びを浴びせ続ける。
「ふざけんな! まだ俺を殺してないだろ! まだ自分の任務を果たしてないだろ! 勝手に死ぬんじゃねぇよ!」
いくら叫んでも答えは返ってこない。
次第に新次郎の目に、涙が溜まり始めていた。心の奥からこみ上げてくる何かが、新次郎の目から涙を流させていた。
「俺を殺したいんだろ!? だったらまだ死ぬなよ! 俺を殺すとか言っておいて……勝手に死んでるんじゃねぇよ!」
心の奥からこみ上げてくる何かを新次郎は理解していた。
これは紛れも無い、悲しみだ。
「ふざけんなよ……! あれだけ俺の生活をめちゃくちゃにしておいて……! 勝手に安らかに眠ってんじゃねぇよ……!」
涙が新次郎の頬を伝い、地面に一滴、また一滴と流れ落ちていく。
新次郎の叫びは、もはや叫びではなく嗚咽だった。涙が新次郎の叫びをかき消すように流れ続け、やがてそれは言葉すらも紡げなくしてしまう。
こみ上げてきた悲しみを、新次郎は否定しなかった。
「俺を殺すって言っただろ……! 殺すって……言っただろう……!」
突然自分を殺すために現れた少女、ロリ子。そのロリ子との生活を、新次郎は否定しなかった。ロリ子との生活が楽しいものだと、このまま続けばいいなと思ったことも、今更新次郎は否定しない。
ロリ子とは、自分が死なない限りずっと一緒だと思っていた。
しかし、それがこうも簡単に崩れ去ってしまうとは、夢にも思っていなかった。
「……! ……!」
もはや声らしい声も出ない新次郎。それでも叫ばずにいられなかった。
「死んだか……ターゲットをかばうとは、狩猟神一族の面汚しめが」
無情に響くロリ子の父親の声。
その言葉を聞いた瞬間、新次郎の頭の中が沸き立った。
火山が爆発したかのように頭の中が真っ赤に爆発する。冷え切っていた全身が一気に熱を帯びる。拳は強く握られ、奥歯が軋むほどに歯を食い縛る。
悲しみに溺れていた心が、水が沸騰するように沸き立ち、怒りに変わる。
「てめぇ……! 自分が何をやったかわかっているのか……!」
新次郎の体が震えている。しかしそれは、さっきまでの怯えや悲しみじゃない。内から湧き上がってくる力が新次郎を鼓舞し、全身を震わせているのだ。
「ふん、ターゲットをかばうなど狩猟神一族にあるまじき行為。我が娘ながら情けないものだ」
その言葉を聞いた瞬間、前進に沸き立っていた力が噴火したかのように新次郎の口から、まるで土石流のように放たれた。
「黙れ! ロリ子は……ロリ子は!」
ロリ子の父親に向かい、一片の怯えもない強い声で叫ぶ新次郎。
「ロリ子はな! お前らみたいに汚い手は使わなかった! 面と向かって殺しに来た! 暗殺者らしく堂々と寝込みを襲ってきた! 人質なんて……人の神経をかき乱すような真似はしなかった!」
そして、新次郎はありったけの力をこめて放った。
「お前らに殺されるぐらいなら! 俺はロリ子に殺されてやる!」
その瞬間、新次郎の目から涙が零れ落ちた。涙はゆっくりと頬を伝い、大きな一粒の涙となって地面に落ちていく。
そして、地面で一粒の涙が弾け飛んだ。
「……………………」
その時、異変が起きた。




