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「………………」

 新次郎は固まった。

 新次郎の頭の中で、意味の無い言葉がぐるぐると回り続けている。まるで時が止まったかのように、新次郎の思考が完全に止まる。

 たった今、ロリ子の父親から放たれた一言で、新次郎の思考は完全に停止していた。

 しばらく何も言えず、ただロリ子の父親を見ることしか出来ない新次郎。意味の無い言葉から紡ごうとするが、受けた衝撃が大きすぎて思考がまともに働かない。

 そんな新次郎を見ながら、ロリ子の父親は続けた。

 「その昔、神の世界に生きる一族の一つが滅ぼされた。名を【幻想神一族】という」

 ロリ子の父親の言葉を、思考を止めている新次郎の頭は逃さず聞いていた。自分が人間ではない、そう言われた理由を、何より新次郎の思考が知りたがっていたからだ。

「幻想神一族は、思い描いた事を実現することの出来る力を使う一族。その戦闘能力は、我ら狩猟神一族をも凌駕する程の凄まじいものだった」

ロリ子の父親の言葉が、次第に昔話を語るような口調に変わっていく。

「やがて神の世界の一族は、幻想神一族を危険因子と判断し、討伐対象とした」

「……それが、俺と何の関係があるんだよ?」

しばらく話を聞いていた新次郎は、回復した思考でやっと言葉を紡ぎだした。しかし、いまだその言葉が信じられないのか、先程よりも声の震えがひどくなっている。

「……幻想神一族の討には私も参加した。そして、確かにこの手で幻想神一族を滅ぼした……はずだった」

「はず……だった?」

新次郎の言葉に、ロリ子の父親は再び新次郎に向かって指先を向けた。

「幻想神一族は滅んでいなかった。二人、瀕死の重傷を負いながらも人間界に逃げてきた者達がいた。二人は最後の力を振り絞り、自分達の思いを受け継いだ子を産み落とし、死んでいった」

ロリ子の父親はそこで話を止めた。ロリ子の父親にとっても思い出したくない過去なのか、その表情はどこか悲しげだ。

そして、

「おい……待てよ……」

 新次郎は全てを理解した。知りたがっていた思考が、ロリ子の父親の言葉を全て噛み砕き、全てを繋ぎ合わせ、そして、答えを出した。新次郎にとっては信じがたい、いや、信じられないような答え。

 「まさか……その産み落とした子って……」

 震える声の新次郎。

 そして、全てを理解した新次郎に、ロリ子の父親は冷たく言い放った。

 「そうだ。それが貴様、両親の思いを受け継いだ幻想神一族の生き残りだ」

 その言葉と同時に、ロリ子の父親は人差し指を新次郎に向けた。その瞬間、人差し指の先が徐々に光り始めた。

 目の前に広がる突然の光に、恐怖に怯える新次郎。

 「な、何をする気だ」

 「娘に代わり、幻想神一族唯一の生き残り、一之瀬 新次郎を排除する」

 揺らぎの無いロリ子の父親の言葉。まったく揺らぎの無いその声は、まさしく新次郎を殺すことを決意した言葉だ。間違いなく、ロリ子の父親は何の迷いも無く、新次郎を殺すつもりでいる。

 それを感じ取った新次郎も、恐怖に震えることも出来ず、声も上げることもできずにただ黙って光を見ているだけだった。死に直面した時、人間はそれに抗うことが出来ず、ただ自分の死を受け入れることしか出来ない。

 次第に強くなるロリ子の父親の指先の光。このまま成長すれば、光は新次郎の体を容赦なく貫くだろう。新次郎はそれを一番よく理解していたが、それでも逃げることが出来ない。

 「……死ね」

 氷のように冷たく、無常に言い放つロリ子の父親。

 そしてその言葉と同時に、指先の光が収束して新次郎に向かって放たれた。

 「!」

 まるで定規で引いたかのように真っ直ぐな光の線は、新次郎に向かって何の揺らぎもなく放たれた。

 新次郎に向かって放たれた光は何にも遮られず、真っ直ぐ新次郎に向かっていく。数秒もしないうちに、光は新次郎に到達するだろう。

 新次郎は眼を強く閉じた。人が咄嗟にとってしまう防衛本能の一つだ。しかし、それが光を防ぐとは思えない。精々、新次郎に向かってくる死の恐怖を軽減する程度しかない。

 真っ暗な視界の中、新次郎は何も考えられなかった。空虚な思考が、いつまでも消えないまま新次郎を取り巻き続ける。

 「……?」

 おかしい。

 新次郎の思考が次第に回復し始める。

 目を閉じてから何秒も経っているが、新次郎の体に死は訪れてこない。もう死んでいるのかとも思ったが、手は動くし思考は働く。

自分の体がまだ動くことを確認した新次郎は、勇気を振り絞ってゆっくりと目を開けた。

しかし、一番最初に飛び込んできた光景を、新次郎は理解できなかった。

「……!」

目の前には、さっきまでの光は映っておらず、代わりに目の映えるほどの鮮やかな色が映っていた。そしてそれが、ひらひらとなびくドレスの色だと理解するのに、数秒を要した。


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