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智野先生についていくと、二人は地下の部屋にたどり着いた。殺風景で目立ったものが無い、まさしく地下室、といった内装だ。
「こんな地下があったんだ……」
「無理言って造ってもらったのよ、結構お金かかっちゃったけどね」
感心する新次郎に向かって言う智野先生は、地下室の入り口にある色とりどりのボタンを入力し始めた。
手馴れた感じで入力し終えると、地下の床が派手な音を立てながらゆっくりと開いた。そしてその中から、何の変哲も無い、よく街中で見かける普通の車が出てきた。
「……車だな」
「車ですね」
ロリ子と新次郎は車に近づき、まじまじと見つめてみる。しかし、本当に目立った所が見当たらない普通の車だ。何か変わったような乗り物を期待していただけに、新次郎とロリ子は少しガッカリする。
「さ、乗って」
車を見ていた二人は、智野先生に促されて後部座席に乗る。
「中も普通だな」
乗ってから中を見回す新次郎。見た目と同じで、内部もいたって普通の車だ。
そして最後に智野先生が乗って、車にエンジンをかけた。その瞬間、騒音とも呼べる程のエンジン音と共に車が激しく揺れ始めた。普段の車からは考えられないような揺れに、次第と嫌な予感が募り始める新次郎。
「……まさか」
少しだけこの後の展開が読めてきた新次郎。
そんな新次郎を無視して、智野先生はシートベルトをしっかりと締めてギアを入れた。
「さ、狩猟島まで送っていってあげるわ。しっかり掴まってて!」
その言葉に、嫌な予感が最大限まで高まった新次郎は、自然と声が漏れた。
「あの……安全運転でお願いし、まぁぁす!」
言葉が言い終わらない内に車が発進した。
予感が的中した。とてつもないスピードの感覚とGが体にかかり、体が激しく左右に振られる新次郎とロリ子。それはさながら、ジェットコースター以上の乗り物に乗っている感覚であり、その感覚によって脳が激しく揺れ、意識がどんどんと薄くなっていく。
「ゆゆゆゆゆゆ揺れるですすすすすす!」
「じっとしてて! 飛ぶわよ!」
その感覚がだんだんと心地よくなり始めた時、智野先生の叫びと共にさらに新たな角度からの勢いが体に付加される。それは、飛行機が離陸するときに斜め前からかかる力の感覚に似ている。
「ととととと飛ぶっててて!?」
「狩猟島は太平洋の真ん中にあるのよ! だから車を変形させて飛ぶことにしたわ!」
霞んだ視界で窓を見てみると、さっきまで何も無かった車の側面に翼らしきものがついている。さらに、後ろからは炎が吹き出すような音も聞こえる。どうやら、本当に飛んでいるらしい。
次に下を見てみると、そこはもう海の上だった。水面が風を切って走る車の勢いで波紋が出来ている。
「……近いわ」
智野先生がそう言った瞬間、青い空が渦を巻きながら赤紫色に変色し始めた。鳥獣神一族のときにも、そしてデパートで会ったロリ子の父親の時とまったく同じ感覚。
「これって!」
「狩猟神一族の結界に入ったわ。狩猟島はもうすぐね」
そう言っている内に、フロントガラスの先に海に浮かぶ小さな島が見え始めた。赤紫色の空を映している、黒く変色したように見える海の先に浮かぶその島は、とてつもなく異様で、不気味な物に見える。
「あれが……!」
「間違いないわ、あれが狩猟島よ」
次第と狩猟島が近くなると、その上に立っている大きな建物までがはっきりと見えてくる。やがて車が目の前までたどり着くと、その建物は空高くまでそびえる程に大きく見えるまでになった。
「これが……狩猟島?」
車が狩猟島の近くで止まると、新次郎は窓から顔を出して狩猟島に建つ巨大な建物を見上げた。遠くからではわからなかったが、近くに来てみるとその圧倒的な存在感に声が出なくなる。
「さ、ロリ子ちゃんと新次郎君。私が送れるのはここまでよ」
そう言うと、智野先生はギアを入れて車を海に浮かべ、島の陸地にまで近づけて後部座席のドアを開けた。
新次郎とロリ子がそこから外に出ると、智野先生は後部座席のドアを閉め、窓を開けてそこから顔を出した。
「智野先生! ありがとうございますです!」
大きくお辞儀をするロリ子。智野先生はクスクス笑いながらロリ子の頭を撫でた。
「いいのよ。ほら、行ってきなさい!」
智野先生のその一言に、ロリ子は顔を上げて微笑みながら大きく頷いた。
「はいです! 必ず麻穂さんを助け出してくるのです!」
そう言って、ロリ子は狩猟島にそびえる巨大な建物の中に向かって、全速力で駆けていった。
「ほら、新次郎君も」
「はい、ありがとうございます」
ロリ子の後ろで、新次郎は智野先生に小さくお辞儀をしてから、同じく全速力で建物に向かって走っていった。




