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 その後、三人は屋上にやってきた。

 話を聞いていると、どうやら麻穂が今日、このデパートに来た理由がこの屋上らしい。

 「でも何でここに来たかったのですか?」

 ロリ子が聞いてみると、麻穂は笑顔一杯で屋上にある、長い行列の出来ている一つの屋台を指差した。

 「あの屋台はね! 雑誌とかでも紹介されてる有名なクレープ屋さんなの! 期間限定でこのデパートで屋台を出すらしいから飛びついてきたってわけなの!」

 いつもは大人な感じの麻穂が、クレープ屋さんを前にしてまるで子供のようにはしゃいでいる。このギャップは、そこら辺の男なら一撃でノックアウトされるだろう。

 それを聞いたロリ子も、屋台に描いているクレープの絵に興味津々だ。なんだかんだ言って、やはりロリ子は女の子だ。

 「新次郎! あれ、食べたいです!」

 笑顔で新次郎にお願いするロリ子。いつもと違うロリ子の女の子らしい表情を見て、新次郎はため息をつきながらクレープ代を渡す。

 「わぁい! ありがとうなのです!」

 「ロリ子ちゃん! 早く行こう!」

 そう言って、ロリ子と麻穂は笑顔でクレープ屋に走っていった。

 「はぁ……」

 少しため息をついて、新次郎は嬉しそうな表情で列に並ぶロリ子と麻穂を見る。遠目で見ただけでも、二人とも本当に楽しそうに見える。

 「……何か、こういうのも楽しいかもな」

 新次郎はふと、そんなことを思った。

今まで経験したことが無かった女の子とのお出掛けは、新次郎にとっては新鮮なものだった。そう考えると、そんな機会を与えてくれたロリ子に少しだけ感謝の思いが湧いてくる。

「そういえば、ロリ子が来てから……色々と変わったな」

新次郎はロリ子が初めてここにやってきた時のことを思い出した。

急に自分を「殺す」と言ってやってきた、小さくてドジな少女。銀行強盗の時も、鳥獣神一族の時も、ロリ子がいなかったら自分は死んでいたかもしれない。

いつの間にか新次郎は、ロリ子をとても近しい存在に思っていた。それは兄妹のようなものではなく、友達というわけでもない、新次郎にとってはよくわからない感情だった。

ふと笑みがこぼれてしまう。何故か、新次郎はこれからもこの状態が続けばいいな、なんて思い始めていた。

「……って! 俺は何を考えているんだ!」

急に恥ずかしくなって顔を隠す新次郎。

「落ち着け! あいつは俺を殺しに来たんだぞ! 何で俺を殺しに来た奴とずっと一緒に入れたらいいな、なんて思ってるんだよ俺!」

頭を激しく左右に振って、浮かんだ考えを吹き飛ばそうとする新次郎。

傍から見ると本当に変な人に見えてしまうが、本人はいたって真剣だ。

「……新次郎? 何やってるですか?」

「え?」

気づくと、ロリ子と麻穂はクレープを持ちながら戻ってきていた。

必死に頭を振っている新次郎を見て、不思議な物を見る目で首をかしげるロリ子。

「新次郎、さっきから何か変ですよ? 熱でもあるのですか?」

「な! 何でもねぇよ!」

ロリ子の言葉に顔を真っ赤にして違う方を向く新次郎。

その視線の先には、デパートの屋上恒例イベントであるちびっ子向けのヒーローショーがやっていた。

あれは、今ちびっ子の間で人気の特撮戦隊物、楽器戦隊コトレンジャーのヒーローショーのようだ。

「ぐはははは! このデパートは我ら音無団が占拠した!」

「皆! こうなったら皆の力でコトレンジャーを呼ぼう!」

お決まりの悪役が舞台のお姉さんと会場のちびっ子何人かを人質にとっている。そしてお姉さんがヒーローの名前を皆で呼ぼうと呼びかける。

「いつまで経っても手法は変わらないな……」

自分が子供の頃に見た時と変わってないヒーローショーに、思わず新次郎が呟く。

「皆で呼ぶよ! せーの!」

お姉さんの声を合図に、全員が一斉に大声でヒーローの名前を呼ぶ。

「コトレンジャー!!!」

子供達の叫び声に混じって、横から女性の声が聞こえてきた。必死に叫んでいるのか、子供達よりも声が大きい。本当に助けを求めているのかと勘違いするほどだ。

そして、その叫び声は横の麻穂から放たれたものだった。

「ま、麻穂さん!?」

クレープを持ちながら叫んでいる麻穂に驚く新次郎。

麻穂本人も、驚いている新次郎に気づき、ハッとなって顔を真っ赤にする。

「あ……ごめんなさい、私コトレンジャーのファンだから……」

新次郎が驚いているのに気づき、恥ずかしいのか、クレープを持ちながら真っ赤になった顔を隠す麻穂。

「あ! コトレンジャーです!」

ロリ子が指を差すと、舞台に五人の色とりどりの琴を背負ったヒーローが現れた。このヒーロー自体知らない新次郎だったが、それでも新次郎は見ただけでもあれがコトレンジャーであるとわかった。

「コトレッド!」

「コトブルー!」

「コトイエロー!」

「コトグリーン!」

「コトピンク!」

「五人合わせて! コトレンジャー!」

おなじみの一人一人の紹介と共に、五人は一斉に決めポーズをする。

そして、ヒーローの後ろで五色の煙が派手な爆発音と共に噴出された。

その時、

「!」

「!」

ロリ子と新次郎が異変に気づいた。

「きゃあああ!」

突如響くステージのお姉さんの声。見ると、舞台の一部が燃え上がっていた。

「なんだなんだ!?」

「火薬が暴発したみたいだ!」

 一斉に周りの観客がその場を逃げるように離れる。

 そして舞台のコトレンジャーと音無団、舞台の裏方が一斉に集まって消化作業に入っている。悪役とヒーローが協力して火を消している様子は、とてもシュールだ。

 しかし、新次郎とロリ子はそんなシュールを笑いもせず、感じた異変に表情を引き締めていた。

 「ロリ子……この感じは」

 「はい……間違いないのです」

 感じた異変を再確認する二人。

 そして、ロリ子は空を見上げて叫んだ。

「……来るです!」

 ロリ子がそう言った瞬間、急に空の色が渦巻きながら赤紫色に変色し始めた。鳥獣神一族との戦いの時にも起こった現象だ。

 「な……何?」

 怯えた様子の麻穂。

 新次郎は麻穂の前に立ち、守るように舞台のほうを見る。舞台にいるヒーローや悪役は、ぴたりとその動きを止めている。まるで時が止まってしまったかのように。

 そしてその先では、不気味な黒い穴が開いていた。

 「ロリ子、あれは……」

 「わからないのです」

 ロリ子はすぐさま、常備しているロリポップサイスを取り出して構え、新次郎と麻穂を守るように舞台の前に立つ。

 黒い穴はぐるぐると渦を巻きながら形成されていき、やがてそこから巨大な腕が出現した。巨人の腕というのが、新次郎の最初の印象はそれだった。

 「何か来るです!」

 ロリ子の合図に緊張が走る。

 腕はゆっくりと穴を抜けていき、やがてそこから肩が現れ、そして胴体が現れ始めた。最終的に、穴を抜けてやってきたのは巨大な黒い人だった。


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