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「……はぁ」
ロリ子が麻穂に試着室に押し込まれるのを見てから、新次郎は深いため息をついた。まさかこんな所で人間と神の一族の考え方の違いが現れるとは思ってもみなかった。
とりあえず、頭に焼き付いてしまったさっきの光景を完全に消し去るため、新次郎は服を見ながら他の事を思案し始めた。
「……そういえば、女の子とこんな所に来るの、考えてみれば初めてだよな」
ふと、新次郎はそんなことを考え始めた。
服はいつも一人で買いに来るし、遊びに行くとしても必ず隣には聖也か他の男子がいた。もちろん男子同士で服を買いに行くなんて思考にはならない。
普段から女の子と関わったりしない新次郎にとっては、こういう所に誰かと来るのは初めての体験だった。
「……父さんや母さんも、よくこういう所に来てたのかな」
ふと、バカップルといってもいい自分の父と母を思い出す。
そこで新次郎は、以前から考えていた事が再び甦ってきた。
「俺が恋愛……やっぱり想像もつかないな」
以前から新次郎は、自分が父や母のように恋愛をすることがあるのか、ということを考えていた。しかし、いくら考えても答えは出てこない。特に誰かが好きなわけでもなく、自分から積極的に関わっていこうとしない新次郎にとっては、理解しがたいものだった。
「そう言えば……聖也があんなこと言ってたな」
ふと、かなり前に聖也と会話した時のことを思い出した。
そこで聖也は、「イメージがつかないなら身近なサンプルと一緒にいるのを想像してみるといいぜ」と言っていた。
「身近なサンプル……か」
とりあえず、新次郎は麻穂のことを思い出してみた。
「俺が麻穂さんと……ねぇ」
頭の中で、新次郎は麻穂と二人でどこかに出掛けている図を思い浮かべてみる。しかし、何故だか知らないが、その妄想の横に必ず付きまとってくる影があった。新次郎はどんな空想をしてみても、その影はどこからでも湧いて出てきた。
次第に脂汗がにじみ出てくる新次郎。
「く……何を思い浮かべてもロリ子が出てくる……」
麻穂と海に行っても、山に行っても、街に出掛けても、そこには必ずロリ子がいた。ある時は楽しそうな姿で、またある時はいつもみたいに俺を殺しに来る姿でと、多種多様なロリ子が必ず風景の中にいた。
「くそ! 何が何だって言うんだよ!」
苛立ちを覚えた新次郎は、すぐそこにあった畳まれたジーンズの山に向かって拳をぶつける。傍から見ると、静かにしていた男が急にかんしゃくを起こしてジーンズを殴りつけてるという、何ともおかしな光景に見える。
次第に募る苛立ちを前に、新次郎はとりあえず落ち着くことにした。
「他に身近なサンプルは……」
新次郎は麻穂のことを頭から消し、再び思案を始める。しかし、どう頑張っても出てくるのはロリ子ばかりだ。
脂汗の量が尋常じゃなくなる新次郎。
「全然出てこねぇ……サンプル……ロリ子……」
ふと、新次郎は頭の中でロリ子をサンプルにした図を想像した。
ロリ子の楽しそうな一面、女の子らしい一面、殺しに来るが失敗するドジな一面、そして真っ白な肌。
そこまで思案した新次郎は、さっきの光景を思い出して顔を真っ赤にした。
「って違う違う! ロリ子と俺はそんなんじゃない!」
畳まれたジーンズの山を何度も何度も殴りつけ、赤くなった表情を隠す新次郎。
何故だかわからないが、ロリ子との情景は麻穂をサンプルにした時よりも鮮明に思い浮かんだ。海に行った時はおそらくこうしてくるだろう、山に行ったらこんなことをしてくるだろうと、ロリ子の動きが手に取るように思い浮かぶ。そしてその時の、ロリ子の嬉しそうな表情や悔しそうな表情が、まるでそこにあるかのように容易に想像できてしまう。
「くそ! 何がどうなってやがるんだ!」
自分の頭の中がよくわからずに混乱している新次郎。
「一之瀬君! 試着終わったよ!」
その時、麻穂の新次郎を呼ぶ声が聞こえてきた。
新次郎は今までの頭の中の考えを全て消し去り、あくまでも平常心でそこに向かっていった。
そしてそこにいたのは、さっきまでの学生服を着ていた時とは全く違う、いつもと違ったロリ子が立っていた。
「ほら! 一之瀬君見てみて! 似合ってるでしょ?」
コーディネートがうまくいったのか、麻穂は嬉々とした表情でロリ子を見せる。
対して新次郎は、思ったことをそのまま口に出した。
「……馬子にも衣装」
それを聞いた瞬間、ロリ子は新次郎に向かって硬く握った拳を放った。いつもなら避けられるはずなのに、突然の攻撃に対応できず新次郎の股間に直撃する。
「ぐおぅ!」
「……今の悪口ですよね?」
股間を殴られてうずくまる新次郎を見下ろすロリ子。その表情は、いつも新次郎がロリ子に向ける笑ってない笑顔に似ている。
それを見て、麻穂はくすっと笑って言った。
「くすくす、二人とも本当に仲がいいのね。 まるで兄妹みたい」
麻穂の言葉に怒りを覚えた二人だったが、一切の悪気を感じないその純粋な麻穂の笑顔を前にして、二人は言い返せないでいた。この悪気の無さが、おそらく麻穂をアイドルに導いた要素なのだろう。
「何か……ずるいです」
ロリ子はボソッと呟いた。




