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そして話は十分後の教室に戻る。

 「それで! 貴方様の名前は!」

親衛隊を自称する男子生徒に囲まれて名前を聞かれている少女。それに向かって、新次郎はありったけの視線で言葉を送った。

 「さっき決めた名前を言え!」

 その視線の意味を理解した少女は、小さく息を吸って口を開いた。

 「私の名前は……一之瀬 ロリ子です!」

 ロリ子、それが新次郎と智野先生が考えた共通の名前だった。決め手となったのは少女の服装である華やかなドレスと持っているロリポップだ。安直ではあるが、何より覚えやすく言いやすいという点から採用となった。

 「誕生だ……! 麻穂政権に対抗するロリ子政権の誕生だ!」

 少女の名前を聞いて、歓喜の表情と声で沸き立つ野郎共。どちらかというと、その見た目と名前に性癖が敏感に反応して沸き立っている、という表現が正しいかもしれない。

 「要はあいつらは変態ロリコン野郎ってことだな」

 心の中で完結させた新次郎は、机に突っ伏して寝る体制に入った。


「し……ん……じ……ろー!」


 「!」

 寝ようとした新次郎への不意打ち。それは、どうやら自分の後ろから聞こえてきたようだ。

 構わず無視をしようとすると、声が聞こえてきた後ろから殺意に満ちた視線と呪いの念がこもった地を這うような声が聞こえてきた。目を閉じているため、視覚以外の器官が外からの情報を感知しやすくなっている。そのせいもあってか、殺意と呪いがビンビンと伝わってきて、思わず新次郎は鳥肌が立ってしまった。

 「……何の様だ?」

 新次郎はこの殺意と呪いに覚えがあった。以前、この殺意と呪いが一人の無実の男子生徒を恐怖のどん底に陥らせたことがあったのは嫌でも思い出す事件だ。それ以来、新次郎は、奴と関わる時はこの視線を絶対に受けないようにしようと心に誓っていた。

 そんな恐ろしい殺意と呪いが、現在進行形で自分が食らっている。認めたくない現実を認め、それを加味して新次郎はその源に用件を聞いた。

 「一之瀬……、俺の耳が正しければあの子は……、お前と同じ苗字である一之瀬と言った……」

 殺意と呪いがゆっくりと、しかし確実に新次郎との距離を詰めている。

 耐えかねた新次郎は、伏せていた頭を勢いよく上げ、殺意と呪いの発信源を凝視した。

 「何が言いたい……、聖也」

 発信源である聖也は、勢いよく上げられた新次郎の頭をガッと掴むと、地を這う、というか地殻をぶち抜いてマントルまで潜っていってしまいそうな声で新次郎に問い詰めた。

 「お前……、あの子と一つ屋根の下で住んでやがるな……! 若い男女が親もいないかで二人きりということは何かしらの間違いが起こるはずだ……!」

 「待て待て、間違いなんか起きてない。そして何故お前が人の家庭事情を知っている?」

 とりあえず誤解だと思われてる部分を訂正し、ツッコミ部分を的確に突っ込む新次郎。

 しかし、それぐらいの訂正で止まる程、聖也は甘くない。それなら砂糖菓子やカルメ焼きの方が遥かに甘い。

 「だったらあれか? Bか? Aか? どっちだ! 早く白状しろ! 言え! 言えぇぇぇぇぇ!!!」

 ぐわんぐわんと新次郎の頭を上下左右手前奥にシェイクする聖也。その表情は、何故だか悲しげだ。

 一方新次郎は、激しい頭の動きに脳がプリンのようにシェイクされふらふらになっていた。もはや手や足は言うことを聞かずにぶらんぶらんと左右に激しく揺れている。

 コトン……!

 「ん?」

 しばらく振られたい放題だった新次郎の耳に、紙が地面に落ちる音がはっきり聞こえた。

 「何だこれ?」

 程よくシェイクされた頭で見ると、どうやらそれは自分の机に入っているもののようだった。そしてそれは、丁寧に封がされている封筒であり、その右端にはご丁寧に「一之瀬 新次郎様へ」と丸文字で書いてある。

 「ムムム! それはまさか……世の男子共が必ず憧れると言われている二次元にしかアイテム! 恋文ではないか!?」

 封筒を見て騒ぎ立てる聖也。

 「何でこんなものがここに?」

 「ぐぞぉぉぉ! お前って奴はぁぁぁ!」

 新次郎の言葉に答えようとせず、新次郎の頭を掴んで再び上限左右手前奥にシェイクし始める聖也。その表情はさっきよりも悲しげで、それに悔しさが加わっているようだ。

 「あんな可愛い留学生と家をシェアし! 加えて恋文をもらうとは! お前なんか世の野郎共の恨み辛みを全部背負ってどん底に落ちちまえばいいんだぁ!」

 泣きながらしばらく新次郎の頭をシェイクすると、聖也はその手を離して新次郎が持っていた封筒を強引に奪い取って封を開けた。

 「あ! おい!」

 「これは俺が審査させてもらう!」

 取り返そうと手を伸ばす新次郎を制し、聖也は封筒の中に入っていた四つ折の手紙を広げた。

 「……?」

 広げた紙を見た瞬間、聖也は声も上げずに固まった。

 そして、開いた紙を再び四つ折りにすると、そっと封筒に戻してポイっと封筒を新次郎に投げ渡した。

 「おい聖也……」

 「……白紙だよ、何も書いてない」

 そう言って、つまらなそうに顔をしかめてため息をつく聖也。

 新次郎は中の手紙が白紙と聞いて、そのまま封を元に戻して自分の鞄の中に放り込んだ。紙は封筒はそのままストン、と鞄の中に入った。

 キーンコーンカーンコーン!

 一時間目の始まりを告げるチャイムが鳴り響くと、新次郎と聖也は自分の席に座り、ロリ子の周りにいたピンクの野郎共は散り散りに自分の教室に戻っていき、囲まれていたロリ子も用意された自分の席に座った。


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