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「ふんふん……、なるほどね」
話は一旦落ち着き、三人は話を順番に進めていった。
まず、智野先生が知能神一族だという話は本当であることがわかった。知能神一族とは、他の種族よりも突出した頭脳の持ち主であり、主に他の種族への家庭教師などを生業としているらしい。そして狩猟神一族と知能神一族は種族単位で交流があったために、少女と智野先生はお互い気づくことが出来た、という内容でひとまず落ち着いた。
そしてもう一つ、少女と新次郎の関係についても、新次郎の必死な説明で何とか落ち着こうとしていた。さすが知能神一族で頭が良いだけあって、智野先生は新次郎の説明を全て飲み込み、噛み砕いて理解してくれているようだった。
「それで自分の任務を果たすために学校まで来ちゃった、というわけね」
理解してくれたようで安心した新次郎は、深いため息をついて床に座り込んだ。こんな誰も信じてくれないような話を噛み砕いて理解してくれる先生が担任でよかった、と新次郎は心の底から思った。
「ふーん、だったらあなた、この学校に入学しちゃいなさいよ」
「……え?」
前言撤回、新次郎は思いっきりうな垂れ始めた。
「ちょっと待ってください先生! 俺、命狙われてるんですよ! 生徒の命を狙ってくる奴を入学させるなんて!」
新次郎の抗議を考え込んだ表情で聞く智野先生は、慌てふためいている様子の新次郎の唇に指を当てて静止させる。その表情は優しく、心配しないで、と目で言っているような気がした。
「大丈夫よ、大丈夫」
小さく新次郎だけに聞こえる声で言うと、智野先生はすぐさま横を見た。そこには、目を輝かせて智野先生を見つめている少女の姿があった。自分の任務に協力してくれた智野先生に向かって、少女は感謝と好意の視線をありったけの力でぶつけていた。
「というわけよ。さ、校長室に行きましょう」
「はいです!」
智野先生に連れられて、少女は意気揚々と校長室に向かっていった。
遠ざかっていく二人の背中を見ながら、新次郎は今まで以上のため息をついて頭を掻いた。顔には疲れが見えているが、それはこれから始まるであろうもっと疲れる生活を想像したことによる精神的疲労だ。
「………………」
もはや声らしい声も出ず、ただため息をついてこれからの非日常的生活に身を投じる自分の運命を呪うこと以外、新次郎に出来ることは無かった。
そんないざこざから約二十分が経った。
智野先生と校長先生に話をつけてから教室に戻ってきた新次郎は、智野先生が言っていた「大丈夫」の言葉を理解することが出来た。
「まさか先生、こうなることを予知していたっていうのか?」
知能神一族とやらはどこまで頭が良いのだろうか。新次郎の頭に、「陰で高笑いする策士、智野先生の図」が浮かんできた。美人教師の隠された謎を知り、少しだけ顔を引きつらせる新次郎。
「ほらほらあの子よ! 今日転入が決まったっていう留学生!」
「すごい可愛い! お人形さんみたい!」
少女に群がるように形成されていく好奇心を持った学生達の輪。それもそのはず、突如転入が決まった(という表向きの)イギリスからの留学生、しかもその容姿のハイレベルなことも合わさると、好奇の目が集まらないわけが無い。
しかも面白いことに、少女を取り囲むのは女子ばっかだが、それ以外にも他の視線が少女に集まっていた。
「これは……、我がクラスのアイドルである神奈 麻穂様に匹敵する美少女アイドルの誕生だ……!」
「いやいや、幼さが残りすぎて麻穂様には劣る。依然として麻穂政権は変わりないと見ていいだろう」
新次郎の耳に自然と入ってくる男子の会話。これは、新たに現れた少女と現アイドルである麻穂のどちらを取るか、という中学男子みたいな会話だ。
しかし、こんな風景はよくあることで、聖也もよく行うごくごくありふれた話だ。面白いことはこれではなく、そのもっと外にいる野郎共だ。
「どいたどいた!」
どうやらその野郎共が来たようだ。新次郎の席を素通りしていき、男子数人が徒党を組んで少女に向かって歩いていっている。頭にはピンクの鉢巻を巻いており、手にはピンク色のうちわを持っている。旗から見れば怪しい集団だが、その概要がわかれば何のことはない。
「我らは! 今日転入が決まった留学生の親衛隊であーる! 見た目より幼いその容姿! そして男心をくすぐるその声! 我々は今までの麻穂政権を打ち砕き! 新たなアイドル政権をこの手に実現することを誓うであります!」
集団の先頭を切って歩いていた、太って眼鏡をかけている奴が声高らかに叫ぶ。恥ずかしくないのか、と新次郎は心の中でツッコミを入れる。いや、恥ずかしくないからこんなことをやっているのであろう。
「そこでお聞きしたい! あなた様の名前は一体何なのでありましょうか!」
「え? 名前ですか?」
少女は名前を言おうと口を開いた。
「!」
その瞬間、少女は強い視線を感じた。その方向に目をやると、何か意味ありげな視線を高速でぶつけている新次郎の姿があった。その視線は、どうやら少女に向かって何かを訴えているようだ。そしてそれを言語化するなら、こういうことになる。
「絶対に本名を口にするな……!」
何故、新次郎はこんなことを視線で訴えているのか。それは、つい何十分か前の校長室での出来事に理由があった。




