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一片の物語

「暑い冬」

作者: 翠野希

人も季節もひねくれてるこの話はいかがでしょうか。

「あーついっ!」

俺は思わず叫ぶ。だけど今は正真正銘の冬だ。


そう、ここは、俺の国と真逆の季節の島だ。

俺の国の暦で「冬」でも、ここは太陽が照りつける「夏」でさ。青い海と色鮮やかな花咲く風景を目の前にすると…これを冬と呼ぶのか、夏と呼ぶのか。

そこで俺は「暑い冬」と名付けた。


国が冬になると、必ずこの島に来る。俺は冬恐怖症なんだ。一度、雪山で死にかけて以来、寒さを感じたり、雪を見たりすると、その記憶がよみがえり、ぞっとする。自慢じゃないが、氷も食べられなくなった。


この島に雪はない。いわば天国だ。ここの連中は雪を知らないから、俺の話を聞きたいと集まって来る。ちょっとしたヒーローだな。

だからそんときも、いつもの店で雪の話をしてた。


そしたら、あいつに出会った。


あいつは真っ直ぐ俺の前に近付いてきて、雪のある所に連れてけ、と要求した。当然、俺は腹を立てて断った。

だって俺は冬恐怖症だってのに、一緒にあの地獄へ帰れって言うんだぜ。

そこであいつ、一枚の写真をずいっと突きつけてきたんだ。

それは、俺の故郷の雪景色だった。


俺は瞬時に目をつむって写真を引っ込めるよう頼んだ。見るのもヤなんだ。カンベンしてくれ。

そしたら、あいつ、すっげー寂しそうな顔をすんのな。そんなに好きか、雪が。


あいつは肩を落として立ち去ろうとした。その背中を、俺は無意識に呼び止めた。

「しょーがねえな」


なんだろな、つまり、俺が初めてこの島に来たのも、一枚の写真を見たからでさ。

あとは、まあ、あいつが美人だったのも少しあるかな。

だから、さ。

そいつにも天国を見せてやろうって思ったわけだ。



それから数日かけて舞い戻った俺の国は、真っ白な雪景色だった。

あーさむっ!

でも不思議と、いつもより耐えられた。


そん時だ。あいつ、雪を見て、ぽろぽろ泣いてた。

あとで聞いたら、雪があんまりきれいで、感動したんだと。

俺にとっては最悪な冬が、あいつにとっては涙が出るほど嬉しいんだな。



こうして俺は、年に一回、我慢してあいつと雪を見に帰るようになった。

なぜか冬恐怖はちょっとずつ良くなっている。


ちなみに俺はこの時を「あつーい涙の冬」って呼んでる。

俺はヤなんだけど、嬉しいんだ。

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