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二番目の大罪  作者: nonono
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十一章 変わる関係

「あ…。あ、あの…私…トイレに…」

 完全に俺と目が合った板垣は誰が聞いても嘘であろう言葉を残して教室を後にする。見られたであろう行為を弁明することもできない。いや、仮に板垣が残った所で今の俺に状況を完璧に説明するなんてできる筈が無い。もし早朝、誰も居ない教室で口付けをする俺達を見て何も無かったと説明できる奴がいたら是非弁護士にでもなる事をお勧めするだろう。

「あーあ、見られちゃったね」

「お前…図ったのか?」

 板垣に見られたという事実のお陰か、割と冷静さを取り戻していた俺は目の前の吉野に疑いを向ける。

「あはは、蓮ってば変な事言うね? 私がどうやってあの女にこんな朝早くに学校に来るよう仕向けるのよ。普通に考えたら蓮を追って早く学校に来たって言うのが一番妥当だと思うけど」

 言われてみれば確かにその通りだ。俺が今日朝早く施設を出たのは偶然だし、そこに吉野が居たのも板垣が知っているはずが無い。吉野の言う通り、俺が早く登校したから板垣も早めに登校したのだろう。冷静になったと思っても頭はまだ少し混乱しているようだ。

「でも私的にはすごくラッキーかも。これで蓮とあたしが普通の同級生じゃないってあの子にも分かっただろうし、これ以上二人の邪魔をしない様に蓮と一緒にいるのも止めてくれるかも!」

 こいつはまた勝手な事を…。

 いや、しかし逆に考えれば確かにラッキーなのかもしれない。見られたのは板垣なのだ。彼女は誰かにこんな事を話すような人物ではないし、話すような相手だって居ないはずだ。しかも同じ施設で生活しているから誤解を解くのも難しくない。

 考えている間に吉野は自分の席に戻っていた。口笛を吹きながらご機嫌らしい。よくよく考えると吉野の件に関しては何も解決していない。自分の意思を伝えても伝わらないし、それどころか吉野のアプローチは強力になっていく。

「はぁ…。どうするかな…」

 弱気な発言をしつつも俺は今後どうしていくか考えるのだった。



「なぁ、蓮」

「…何だ?」

「お前今日なんかあったの?」

「なんか…とは?」

「お前の周りの奴の態度がなんか変だ」

「…気のせいだろ」

「周りの奴らっで言葉で誰が変なのか分かっている事を認めるんだな?」

「…」

 放課後、帰りのHRが終わって帰る準備をしていると徹が話しかけてくる。今日は珍しく俺に絡んでこないと思っていたがやはり問い詰められる。こういう時の徹は本当に苦手だ。普段はお調子者のくせに、周りの空気を敏感に察知する。しかも、そういう時に限って…いや、そういう時だからこそ真面目な顔して話してくるからこちらも下手な発言はできない。

「まぁ、深くは聞かないけどよ…。大方予想は付くしな」

「俺だって何がどうなったのか整理ついてないんだ。勝手な予測は立てるな」

「男一人と女が二人…揃って態度がいつもと違う。ましてや男が話す女はその二人だけ。これ以上分かりやすい図式が他にあるか? 小学生の算数レベルだぜ?」

 普通の人間はそこまで人間観察をしたりしないと思うが…。しかも、その例えだと俺は小学生の算数レベルの問題でここまで頭を悩ませている事になる。なんとも馬鹿馬鹿しい…。

「とりあえず、もう少し落ち着いたら話す。相談相手が必要になるのは間違いないだろうしな」

「りょーかい。なら早く行けよ」

軽口のように返事をした徹は親指で廊下を指差す。

「二人ともさっさと教室出てったぜ。どっちフォローするのかしらねーけど」

「そうする。じゃあな」

「蓮」

 教室を出ようとすると徹がこちらを見ずに話してくる。

「現実で血が流れるのは大抵男女関係か金銭関係だぜ」

「…大げさなことを言うな。高校生の発想じゃないぞ」

 徹の冗談とも本気とも摂れるような発言を後に俺は教室を出た。


 

 とりあえず話を聞かない吉野は放置。先に板垣の誤解を解いてから落ち着いてから吉野と話す。そう決めた俺は施設までの道のりを急ぎ足で歩く。玄関に板垣の上靴はなかったから校内にいないのは分かっている。道のりの半分くらいの所でよく見る後ろ姿を見つける。小走りで彼女に近づいて声を掛ける。

「板垣!」

「え? あ…蓮…君…」

 明らかに戸惑っている。まぁ、分かってはいた事だが…。

「あー…朝の事なんだが…。驚かせて悪かった」

「う、ううん。大丈夫…。蓮君…やっぱり吉野さんと付き合ってたんだね…。昨日吉野さんが蓮君呼び出したからもしかしたらって…」

「い、いや違う! 吉野とは別に何でもないんだ! あんな事あって説得力無いだろうが…。実は昨日吉野にその…告白されたんだ…。急だったし断ったんだが…どうにも聞いてもらえなくてな…」

「え!? じゃあ二人はまだ付き合ってないの?」

「いや、まだっていうか俺は今後も付き合うつもりはないんだが…」

「…どうして?」

「どうしてといわれても…色々とな…。それで板垣にも話があったんだ」

 とりあえずの誤解を説明したところで話を本題に移す。本来なら吉野の勘違いなので彼女には一切関係のない話なんだがそうも言ってられない。申し訳ないと思いつつ俺は話を始める。

「吉野が俺の返事を聞いてくれないっていうのがその…板垣の事なんだ」

「え、私?」

「つまり…吉野は俺と板垣がよく一緒に居るのを見て俺達がそういう関係だと思い込んでいる。板垣には一切関係のない迷惑な話だと思うが、吉野の誤解を解く為に少し協力してくれないか?」

「う、うん…。それでどうするの?」

「しばらく一緒の登下校などは控えようと思う。俺と距離を空ければ吉野の勘違いも収まるだろう。」

 少々強引だがこれは板垣の事も考えての選択だ。元々施設と学校に慣れるまでというのが前提だった訳だったし、これを期に板垣も俺以外の人と関わり少しでも友好関係が広がれば文句はない。板垣もその辺りは理解してくれるはずだ。

「そう…だね…。吉野さんの誤解が解けるまでだし…」

「ああ、助かる。勝手な事言って悪いと思うがよろしく頼む。じゃあ俺は先に戻る。じゃあな」

 彼女の了承を得た俺は先に施設に向けて歩き出す。

 

 後は吉野をどう説得するか考えておこう…。

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