序章『ヴァーチャル・ストリート・ファイター』 05
男達に囲まれ、力任せに取り押さえられてしまえば、
小さな少女には為す術が無い。
仮にその少女が武道に通じていたとしても例外ではない。
(鈴ちゃんの艶のある声。僕は興奮する)
だから鈴にも、もはやどうしようもなかった。
己が意に沿わぬ行為が、どれほどに長く繰り返されたか知れない。
いつしか身体は別の生き物になってしまったかのように、
自分の意思とは関係ない、とてつもなく強力な感覚ばかりを与えてきた。
(鈴ちゃんの艶のある声。僕はとてもとても興奮し、叫びそうになるのを何とか抑える)
少女の意思とは正反対に、身体は喜びばかりを伝えてくる。
精神と肉体のせめぎ合い。
そんな陵辱劇が、どれほど続いただろう。
鈴
(あっ……はっ…ううっ……ごめん、お兄、ちゃん……)
潤んだ瞳で、少女は想う。
振り返れば……これが純然たる若葉 鈴としての最後の想いであり、
彼女の心が折れる音であった――――
(鈴ちゃんが屈服する描写。僕の興奮は絶好調である。血走った目でページをめくる)
──── サンプルおわり ────
◆
「…………馬鹿な……」
鈴ちゃんが陵辱されている薄い本。
それはいわゆる、有志によって作られた「二次創作」に属する自費出版本であり、
専用のイベントや委託販売点によって販売される────『同人誌』と呼ばれているものであった。
それを読む僕が居るのは本屋。
本屋といってもただの本ばかりを取り扱うだけでなく、
そうした『同人誌』の委託販売をむしろメインにした店だった。
「………………ッッ。」
同人誌は、大変エロくてよろしかった。
しかしながら、いつも良い所で終わるのがサンプル。
ボリュームの割に高く付くのが同人誌である。
『リンタマ』 (32p 1000円)。
クロセク(ファイターズ『クロ』ニクル・ザ・サードインター『セク』ションの略)の鈴ちゃんをネタにしたエロ同人。
僕の性癖にジャストフィット、クリーンヒット、ノックアウト。
そして32ページにしてお値段千円。
一般のコミックスをお買い求めの皆様にはギャグとしか思えない値段だが、
ところが同人誌としては32ページはそれなりに厚い部類であり、
千円という価格はボッタクリでも何でもない、
むしろ全くもって一般的なプライスでございます。
この値段について、どうしてこうなった────という疑問は当然生まれるだろう。
しかしその問いには「自主創作の限界」という回答しかない。
出版部数の関係でそうしても一冊あたりの単価は高くなる。
そうなると利益を出そうと思っても、雀の涙が精一杯なサークルが大多数、という現実がある。
むしろ驚くべきは、これほどの値段設定をして愛される同人誌という文化に対してであろう。
営利活動ではないのに、発行される同人誌は年間で千を決して下らない。
作品を愛する、キャラクターを愛する。
『愛する』という人の精神にのみ与えられた特権は、
空想の世界においてもその尊さを宝石の如く輝かせているのである。
『リンタマ』 (32p 1000円)。
────しかしまあ、やっぱり高いものは高いのだ。
買えない時は買えない。
えっちでかわいい鈴ちゃんは、またのお預けとせざるを得ないだろう……
「………………ッア!
ウアアアアアアアアアアン!」
男の涙であった。
愛する者を亡くした時、男は泣いていい。
同じように、愛するエロ本を見失った時、男は泣いていい。
だから、泣き散らした。
僕だってどうしても買いたい。
それでも仕様がなかった。
────今日は別に、買いたいものがある。
僕は同人誌コーナーから離れ、一般の書籍コーナーに向かう。
同人誌コーナーでも『クロセク』は人気だが、
商業のメディアでも(格闘ゲームにしては)大きく取り扱われている。
「……あったあった」
僕が手を伸ばしたのは……クロセク公式の書き下ろし絵が表紙に描かれた本。
クロセクのスタッフトークやら、攻略情報満載のムックと呼ばれる本。
わかりやすくいえば────ファンブックと攻略本を足して2で割った様な、そんな本だった。