序章『ヴァーチャル・ストリート・ファイター』 04
「対戦格闘ゲーム。
かつてゲームセンターを彩った花形とも言えるジャンルですが、
続編を積み重ねるうちにどんどんマニアックになっていき、
ついには普通の人が全く遊べない、
重厚長大化して飽和してしまったジャンルとなっています。
やがてはマニアすらも付いていけなくなって、このジャンルの衰退は完成してしまうでしょう」
以上、偉い人の言葉である。
そう────20XX年、格闘ゲームは衰退していた!
(下2ケタをXで飾らずとも、
別に21世紀に入ってからというもの衰退の一途を辿ってはいたが)
格闘ゲームの中で行われる刹那の駆け引き……それを潜り抜けて勝つ事に、
至上の喜びを勝ち得たプレイヤー達が居る。
『格ゲー中毒者』と呼ばれる脳内麻薬依存症患者である。
最初はシンプルな駆け引きを乗り越えての勝利に酔いしれていた猛者達も、
やがては麻薬中毒者さながら、更に激しく、複雑で、
アツい駆け引きの上に勝利を築く事を求め始めた。
製作側も当然、ユーザーの需要に合ったゲームを製作してゆく。
これによって格闘ゲームは進化を続けてゆく……それは違いないのだが。
進化する内に、格闘ゲームは途方もなく複雑で難解な、
ライトユーザーいわゆる一般人には手が付けられないものに仕上がっていた。
進化=衰退。
いつの頃からか、格闘ゲームが抱えてしまった悲しきジレンマである。
「だがそれでも、対戦格闘ゲームは面白いのだ」。
対戦格闘衰退の激流に逆らう様に、
定期的に全国大会が開かれるようになった。
多くの新タイトルの開発が行われた。
やがて様々な出資に支えられ、多くの大会に賞金が設けられた。
しかしそれらの対策どれもが決定打にはならず、
今も対戦格闘ゲームは、その人口の減少を続けている。
主たる花形を失ったゲームセンターの数も、
景気の波の上下に淘汰され、
不景気に減ることはあっても、好景気に増えることは少なくなってきていた。
活発に開発されていた新タイトルも、
やがては諦めるようにその開発本数を減らしていった。
遂には新作の格闘ゲームが開発されない一年さえもあり────
誰もが諦めかけていた頃、そのタイトルは発表された。
『FIGHTER'S CHRONICLE THE THIRD INTERSECTION』。
これは、全国各地に生息する、どうしようもない脳内麻薬患者達が。
かつてその胸に宿したアツい想いをもう一度味わうために、
再び寂れたゲーセンに、トボトボと足を運び……そして笑顔を浮かべる。
そんな仕様もない、何の役にも立たない物語である。
格ゲー中毒者の間違った青春謳歌ノベル
8×6×60 【Eight, Six, Sixty】
……ただし、こんなどこに出しても申し訳ない物語で良いのならば、
全国各地に点在する格闘ゲーム中毒者に捧ぐ。