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序章『ヴァーチャル・ストリート・ファイター』 03

────さて、格闘ゲームにはキャラ相性ってヤツがある。

プレイアブルキャラクターに個性付けをする以上、そこには相性差が必ず生まれるからだ。


近距離で力を発揮することを念頭に設計されたキャラクターは、

遠距離でもダメージを与える技を持つどの距離でも戦えるキャラに弱い傾向にある。

無論例外はあるが、とにかくキャラクター毎に得手不得手を描こうとすれば、

ちょうどじゃんけんみたいに、必ずキャラ相性は生まれる。


相性差はゲームを評価する上で、

無ければキャラ同士の個性の無い退屈なゲームだとされ、

あり過ぎればバランスの悪いクソゲーだとされる。

そこはゲームクリエイターの腕の見せ所というやつだ。たぶん。



つまるところ何が言いたいかって、

グラサン(正式名称はコルドというらしい)と鈴ちゃんの間に、

僕はそいつの存在を強く感じていた。


触ってみた感じ、鈴は近距離に特化したキャラクターである。

動きが早く、技もどうも素早い感じのモノが多い。

しかしその代償として、リーチが短かった。


リーチが長いグラサンを前にして、近寄れることなく倒れていく僕の鈴。

重々しく圧し掛かるキャラ差である。


どうすればいいんだ。リーチに差がありすぎる。

僕は頭を抱えた。

一体どうすればいいんだ。どう、すれば……



『コンティニュー!?』


鈴 

「お、お兄ちゃんを探さなきゃ、こんな所で倒れているわけにはいかないの……!

お願い、力を貸して!」



「ハッ、僕でよろしければ!」



気が付けば画面に向けてはきはきと答えている僕。

いやあ!我ながら清々しいほどの気持ちの悪さだなあ!

他人と話すときもこれぐらいハキハキとしていればなあ!


自虐に走りすぎるのもよろしくない。

過酷な現実に折り合いを付けていこうと思う。メイビー。


コインを入れようとして、財布を開いた手に思わず力が入っていたらしい。

財布のボタンが外れて跳ねて、彼方へとカッ飛んでいった。



「……クソッ……買い替えないと……」



せっかく忘れていたブルーな気分が押し寄せてきましたよ。

でもそんなものは鈴ちゃんの笑顔を見て忘れるんだ!


結局、財布のボタンを拾うことも後回しにして、僕はコインを入れ続けた。



────しかし僕の鈴は尽く、3面のグラサンにボコボコにされてしまう。



おかげで何度もグラサンの勝利画面を拝む羽目になった。

勝利画面のプリンセスの言葉は「バーカ!」以外にも「マヌケ!」がある事を知った。

やばい、被虐の喜びに目覚めそうだ……


ゲーセンから見れば「今日の夕飯は焼肉だな」と言わせんばかりに、

コインを投入する格好のカモたる自分は自覚していた。

しかし、それにしても鈴は可愛かった。



「うぉぉぉ───ッガチ過ぎるだろこのグラサン!」



ゲーセン内に上がる悲鳴。

僕はナゾにヒートアップしていて、公共の場所にも関わらず叫んでいた。


……ちょっとおかしな人に見えましたか?

多分間違いじゃないです。ちょっとおかしいんです。すみません。

それでもよくわからないけど、このゲームが今、とんでもなく面白いんです。


繰り返しのプレーで、少しずつ自分の動きを見直していく感じ。

自分の中の成長と、鈴ちゃんの動きがリンクしていく快感。


最初は何も出来なかったコルド相手にも、

ボコられてるばかりではなくなった。

少しずつ、相手のあの技にはこれを合わせていけばいいだとか、

ここは大人しくガードするべきだとかを覚えていって……


────ついに7クレ目!



「勝ちました!

僕は勝ちましたよ鈴ちゃあーん!」



ついにねんがんの3面を突破したぞ!

そして続く4面。

現れたのは、デモ画面で鈴ちゃんほどの少しだけの時間しか与えられていなかった、

咳をしていた病人だった。

へへ、病人風情が今の俺と鈴ちゃんに勝てると思っているのかよ!(超強気)



────1分後。



ナギ 「半人前の技で俺は倒せんぞ」



「………………バカ、な……」



なんか病人とは思えない力強い機動力で瞬殺されましたよ?



「な、なんなんだ、このゲームのコンピューターは、強すぎる……。

こ、心が折れてしまいそうだ」



『コンティニュー!?』


鈴 

「もう駄目なのかな……私じゃ、無理なのかな……光が、遠いよ」



「そんなワケないッ!

何を弱気になってるんだよ!

一緒に頑張ろうって誓ったじゃないかあ!!」



ゲーセンの筐体を両手で掴みながら、

画面上のヒロインに妄想をブチ撒ける僕は、

客観的に見て通報モノであったと自覚していたけれど、

それにしても鈴ちゃんは可愛かった。すごくいいね。ツインテ。



「クスッ」



……ああ、やっぱり周囲から笑われてしまった。


この夢中になると思わずテンションが昂ぶるクセは何とかしないとなあ。

ちょっとアブない人間ですみません。

申し訳ない気持ち半分、反射半分に、チラッと後ろを見ると…………



「…………はぁ?」



とんでもない人間が、そこに居た。


まず、非現実的な長髪、金髪、それでいて先っぽだけ縦ロール。

そしてまた赤い瞳に、やたらと派手な赤の服。

すらりと伸びた手足。

そしてありえないほどの美貌を備えた女性が、そこには居た。



「あなた、」


「はっ、はいィ!?」



個性的過ぎて、声をかけられただけでもヒヨってしまう。

いや、僕は誰に対してもそうなのだけれど。



「格闘ゲームは、衰退した」


「へ?……いきなり何を」


「私はそう思っていたけれど」



そういうのとか、全部どうでもよくて。

目の前に立つ女性はあまりに個性的で……そして、魅力的だった。


そう────例えるなら。

僕のこれまでプレーしていた格闘ゲームに出れそうなぐらいに。



「貴方様は、本当に楽しそうに格闘ゲームをしますのね。

冬はまだまだ、先なのかも」


「はぁ……」


「笑って御免なさい。

私は立ち去りますから、どうぞ続きを」


「あ、どうも。

お気遣い感謝します」



クスクスと笑って、そして立ち去る非現実的少女。


何を隠そう。


これが僕の第二次格闘ゲームライフのはじまりであり。

非現実の象徴────神月さんとの出会いであった。

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