序章『ヴァーチャル・ストリート・ファイター』 02
閑散としたゲームセンターだった。
ここに来たことに、何か理由があった訳じゃない。
僕にはよくあることだった。
たまに、どうしてここに立っているのかわからない場所に立っている。
別に病気という大層なモノではないし、歩いている時の意識もある。
『ただなんとなくフラフラ歩く』みたいな行為は誰にでもあると思うけど、
僕にはそれが特に多いのだ。
昼飯に食ったラーメンがマズかったから。
大学で教師に怒られてちょっとヘコんだから。
そのあと、ふとトイレの中で携帯を弄っていた時に、
僕には何も無いなあという虚無感に襲われたから。
なんて────今日は、ブルーな出来事が多々あったけど。
こんな世界滅びればいいのにって思うけど。
それ以上に、やはり僕はいつも通りフラフラとここに来たのだと思う。
主体性が無くてすみませんね。よく言われます。
でも何となく、今日の多大なマイナスに、
下校した後の行動まで縛られていると思いたくないんです。
だから……というか何というか。
ゲームセンターに足を運んだのも、きっと理由は同じく無いのである。
いつの間にか、とあるゲームのデモ画面に目を奪われていたことにも、因果はなかった。
『FIGHTER'S CHRONICLE THE THIRD INTERSECTION』。
いわゆるゲームセンターの華、2D対戦格闘ゲームだ。
多くのキャラクター(このゲームなら10人)から一人をセレクトし、
そのキャラクターを操作して相手キャラクターと戦うゲーム。
相手のライフを0にしたら勝ちだ。実にシンプル。
対戦格闘ゲームなんて、ずいぶん昔にハマったきりやっていなかったけれど。
8方向レバーに6ボタンのコンパネに妙に懐かしさを覚えたのもあったのか。
気付けば思わず手が動いて、コインをいっこ、入れていた。
合わせて『ザ・サードインタァーセクショォーン!』という妙に気合の入った外人の声が響く。
スタートボタンを押すと、キャラクターセレクト画面に映る。
うん、この画面も実に煌びやかでよかった。
ここへ来て、僕は何故このゲームにコインを入れたのかを理解する。
キャラクターがいいのだ。とても魅力的だ。
デモで最初に映った龍原とかいう男もストイックでカッコいいし、
復讐畑でじっくり育てられたっぽいワル系の準主人公も、
僕のハートをなかなかにくすぐる。
次に出てきていた刀を携えた女の子もカッコいい感じだった。
うむ、キャラがいい。
ものすげえ、キャラがいいのだ。
僕は深く頷きながら、それらのキャラを通り過ぎて、
あるキャラにカーソルを会わせて、決定ボタンを押した。
合わせて、キャラクターのボイスが流れる。
『おにいちゃんを、さがさなきゃ!☆』
デモ画面にして、正直一行でしか著せないほどの小さな扱い。
『小動物を小さな肩に乗せ、荒野を歩む小さな少女。』←コレである。
少女が現れるカットは、時間にして1秒あるかどうか。
しかし僕の脳は電撃が走ったみたいに、
サブリミナルなショックを最大値で受けまくってしまった。
キャラクター名は若葉 鈴。
その小さな背に魅力を感じたのか。
ちっちゃく結ばれたツインテールに心を奪われたのか。
まだあどけなさ残る、しかし強い光を宿した瞳にヤられたのか。
今となってはわからない。
ただ『惚れました』という感想が精神に焼きついただけで、
それ以外の小さな理由はもはや彼方に飛んでいってしまった。
何はともあれ記念すべき初プレー!!
「グラサンつぅえー!」
……結果から言おう。
3面で出てきたグラサンに殺害されてしまった。
デモ画面では後ろに姫っぽいのを携えていた彼である。
マジで足長くて近寄れないのに、
たまに姫っぽい少女がアシストしてくる。
その姫のちっちゃさに瞳を奪われている間に、
グラサンに攻撃を立て続けに入れられて死亡した。グラサン汚い。
追い討ちの様に流れる敵キャラの勝利デモ。
コルド
「中々に深い技を使われますが、それだけに残念ですね。
貴女という未熟に使われる技が可哀想だ。」
プリンセス
「平たく言えばおまえマジ弱いってことじゃよバーカ!」
……こっ、こちとら初プレーなんだよバーカ!!