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彼の名前  作者: 柿衛門
7/31

一月前

「のり巻きにしようかなぁ……」


 凛は結局考えることを止めて、昼食の準備を始めた。

 いくら考えても、どうしようもない。 


 今日は三月二十二日で、彼とも別れていない――まだ別れていない。何と言うべきかは難しいところだが。


――そう言えば、一月前の今日は何をしていたかな?


 三連休の最終日だった。


 確かに彼は休日出勤が入った、と言っていたし特に記憶に残る三連休ではなかった。

 こうやって普通の休日と同じように過ごしていたのだろうと思う。


 考えながら冷蔵庫を開けると、卵と三つ葉が入っていた。それを見ながら少し考えた凛は財布を持って、スーパーへ向かった。


 必要な物を買い揃えて部屋へ帰ると、ちょうどご飯が炊き上がっている。

 酢飯を作って冷ましている間に、だし巻き卵を焼いて、三つ葉を茹でて中巻を作り、先ほど買ってきたお新香や大場で細巻を作った。

 それにお吸い物を作って昼食の完成だ。


 巻き寿司は大目に作り、昼食分を除いてラップに包んだ。夕食と明日のお弁当の分だ。


 そこまで準備して携帯に着信があることに気が付いた。彼からのメールだ。

 

『大丈夫? ちゃんとアパートに着いた?』


「うん。少し休んだら気分良くなったよ。心配させてごめんなさい」


『ゆっくり休みな』


「ありがとう。休日出勤お疲れ様」


 短いメールの遣り取りを終えて、昼食を取り始めた。 


 


***


 昼食後、片付けを終わらせた凛は釈然としない気分で作り置きの料理を作っていた。


 いつの間にか没頭して、かなりの量が出来上がるときには午後四時近くになっていた。


 お茶を淹れて一息つき、洗濯物を片付けるとあっと言う間に五時になるところだ。


 たくさん作った料理を冷凍庫に入れたりしているうちに、ふと思いついて彼にメールを送った。

 「電話しても良い?」と。

 その直後着信音が鳴った。


「もしもし? 仕事、良いの?」


『うん、どうしたの?』


「今日の夕食、一緒にどうかと思って」


『ああ、残念……職場の人と食事に行くことになったんだ』


「ん、そっか……分かった」


 残念と思いつつも職場の付き合いであれば仕方がない、と返事をした。

 そもそも急に誘ったのだし。


『どうしよう。凛から誘ってくれるの久し振りだし』


 だが、思いも余寄らぬ彼の台詞に凛はギョッとした。


「そう、だっけ……?」


『んん……まだ店予約してないみたいだし、そっちに行こうかな』


「あ、でも、職場の人との付き合いって大事でしょう」


 まさか彼がそんなことを言うと思わなかった。だが、嬉しいはずなのに咄嗟にそう返してしまった。


『……そう、だね』


 少しの間の後の彼の声に落胆が含まれていた。

 

「あ、でも――」


『……村さん、そろそろ……ましょう』


 食事が終わってからで良いから来て、と言おうとした凛の言葉は、可愛らしい女性の声で遮られた。


『あ、ごめん。じゃあ、切るよ』


「え? 待っ――」


 凛は携帯を持ったまま呆然とした。


――私、今村さんと一月前から付き合ってるの


 高田の可愛らしい声が木霊した。





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