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思ったより多くの方にお気に入りや評価をいただけて感激です。後書きに皇帝のイメージガタ落ち落書き載せましたので、大丈夫! という方はご覧ください!
人工的な灯りに照らされながら、通路を歩いていくと、金属製の扉にぶち当たった。
取っ手も何もついていない扉の横には、モニターらしきものが設置してある。
そこに手を翳すと、二月ぶりに聞く電子音がなり響いて文字が浮かび上がってきた。
「……何これ」
帝宮で読んだ本とは違う文字。アルファベットに近いがアルファベットではない。
「読めない……」
いろいろ押してみるがうんともすんとも反応しない。
後ろからの追っ手をきにしつつ時々振り返るが、誰かが追ってくる気配はない。
凛はそれを弄るのを諦めてその場に座り込んだ。
「あーあ……何で逃げちゃったんだろ」
今から戻って訳を説明しようか。
――では、なぜ逃げた?
皇帝の反応が脳裏に浮かぶ。
なぜ逃げてしまったのだろう? そもそもアレは高田なのだろうか? 他人の空似かもしれない。
だが、それにしても凛を陥れようとしたのは間違いない。
凛が逃げるのを見越したような行動。
そうだ、それを見越していたのだろう。
「どうして……?」
『私は妃の” ”です』
「……妃って言ってた。何だっけ?」
名前はどうでも良い。
妻と愛人の言い分、夫ならどちらを信じるだろうか?
凛はそれを無意識に判断していた。
「普通は妻だよね……」
それより彼は、皇帝だ。それを踏まえてちょっと考えれば分かるはずのことだった。
「そうだよ……皇帝なら妃の一人や二人……愛人が百人、二百人いてもおかしくないんだよね。きっと」
それにしては、凛にばかり構っていた。だから勘違いしたのは仕方がない。
きっと、子供を産ませるための策略だったんだろう。
深入りする前で良かったのかもしれない。
「それにしても、なんで妃はあんなことを……? 矛盾する」
これでは跡継ぎもへったくれもない。
「ん、違う……」
あの騒ぎで凛は危険人物認定された。だが、跡継ぎを産めるのは、その危険人物だけだ。
なら、跡継ぎを産ませた後は処分すれば良い。
そんな安易な筋書きが見えた。
「バカバカしい……なんか、腹立ってきた……」
暫く蹲っていた凛は徐に立ち上がり――
「何が、「妃のシャリファです」よ! どう見ても高田じゃん! 馬鹿じゃないの!? 今村亨の浮気者ー! 皇帝も皇帝よ……妻がいるくせに、女タラシ! ハゲてしまえ!」
自分の心の裡を叫んだ。それは思ったより通路に響いて反響しながら消えて行った。
それと同時にだんだん虚しくなり涙が溢れてきた。
「ど、どうして、私、殺されなきゃならな――」
――ピッ……
『翻訳機能ON……ロック解除コード認識』
「え……どうして?」
凛の気分などお構いなしに、暢気な電子音声とともに開く扉。
紛れもなく凛はここで生きている。
なら、ここで死なないために出来る最善のことをしなくてはならない。
涙を擦りながら扉をくぐった。
*
フィラン国は、帝国の南側に隣接する国で、国土は帝国の約3分の1、人口は約半数。
主な産業をガラスと鉄鋼に頼っている、他国との国交も友好的で程よく裕福な国である。
「あの国が戦争する理由なんてあるのかねぇ?」
「ああ……陛下もなかなか引退できないようだ」
疾駆する馬の背で、暢気に会話を交わす赤毛と栗毛の双子、ランとレイン。
本来であればフィランに戦争をする理由はないと思われていた。
「それより陛下が女、隠してたってのが……気になるねぇ」
赤毛のランは戦争よりそちらが気になるようだ。栗毛のレインも同じらしくニヤニヤしながら頷いている。
「望めば堂々と傍に置ける地位をお持ちなのにな……」
「お妃様に知られたくなかったんじゃないのぉ?」
「そうは言っても、人間の寿命など七、八十年。それくらいならお妃様も目を瞑るんじゃないのか?」
栗毛がニヤニヤしながら言うと、赤毛もニヤニヤと笑っている。
「女の情は深いから……僕は物分りの良い妻が欲しいなぁ」
それから業とらしく身震いをした。
「貴様ら。無駄口を叩く暇があるなら置いていくぞ」
前を走る皇帝が振り返り一喝すると、二人は途端に顔を引き締めた。




