召喚理由
後書きに、皇帝陛下のイメージがあります。興味のある方はご覧ください。
凛は、夢の中で立派なベッドの上で彼にそっくりな男と向かい合い、その男の顔をまじまじと眺めていた。
「私の顔に何か付いているか?」
「あ、いえ……」
「まだ早い。もう少し寝ろ」
有無を言わさぬ男の口調に体を横にするが、眠れる筈もない。明け方が近かったのだろう、ぼんやりと横になっていると空が白んできた。
そろそろ夢から覚めるかと思った頃、数人の女性が部屋にやってきた。
いつ入ってきたか分からないくらい静かに入ってきた女性達は、静かに部屋の隅に控えている。
誰一人として、凛に気を留める者はいない。
隣で寝ていた男がベッドから抜けると女性達は無言で男の着替えを手伝ったり、顔を洗ったりしている。
凛はそれをポカンと見つめていた。
男の支度を終えた女達が静かに出て行くと、入れ違いに金髪の男が部屋に入ってきた。
金髪の男は一瞬だけ凛に目を留めた。
「おはようございます、陛下……そちらは?」
「昨夜、喚ばれたようだ」
「では……」
金髪の男は頭を下げると扉の外に向かって何かを言っている。二、三分経った頃、赤毛の女性がやってきた。
陛下と呼ばれた男は凛の向かい側に座ったが、金髪の男は立ったままだ。女性はその後ろでお茶の用意を始めている。
手際良くお茶が入り、凛と男の前に差し出されると男が口を開いた。
「お前、名は何と言う?」
「え、と。佐々木凛です」
「ササキ・リン……リンが名前だな?」
「はい」
凛は男の持つ威圧感を感じて、小さな声で返事をした。金髪の男が「陛下」と呼んでいたから王か何かなのだろう。
その男が頷いてから顎をしゃくると、金髪の男が頭を下げた。
「初めまして、私アティフと申します」
凛もつられるように頭を下げた。
「では、早速ですがリン様にご説明を致します」
金髪は凛の様子を窺いながら話を切り出した。
「リン様がこちらへいらっしゃた理由ですが、皇帝陛下のお世継ぎを産んで頂くためです」
それは御願いでも命令でもなく、決定事項だった。
凛は小首を傾げてから頷いた。
「え……? あ、はい、分かりました」
金髪の男は、あっさりと引き受けた凛を訝しく思い眉間に皺を寄せた。
「説明は宜しいのですか?」
当然、説明を要求されると思っていたし、最悪ゴネられることも想定していた。
だが凛はどこか心ここに在らずで「何の説明ですか?」と返しただけだ。
「だって、夢だもの」
知らない場所で知らない男の子供を産むんなんて、突拍子もない筋書きは夢以外にあり得ないだろう。
「そう思っているのならそれで良い」
「そうですね。では凛様、宜しくお願い致します」
金髪の言葉に凛は生返事をした。
「はぁ」
「何かあれば、このナイマに伝えて下さい。では、私は失礼致します」
金髪の男、アティフは赤毛の女性を指示し、頭を下げると静かに部屋を辞した。