皇帝と妃とアティフ 2
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――皇帝はもう必要ない
活発に議論を交わす長達の様子に、ふとそう思った。
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「娘がまた消えたのですか?」
「いや……死んだ」
アティフは皇帝陛下の御前にも関わらず顔を顰めて、妃は瞠目した。
「人間達は最早、皇帝を必要としていない」
二人が何かを言う前に、はっきりと告げた。
世界がそう言わずとも、人間を見ていれば分かる。人間に世界を返す日が来たのだろう。
「よって、私が最後の皇帝だ」
「陛下……」
話は終わりとばかりに立ち上がった皇帝を物憂げに呼び止める妃。
「明日の議会の準備がある。夜にまた来る」
「待っています」
妃は憂いを含んだ寂しげな笑顔で送り出した。
*
「娘はいつ亡くなったのでしょう?」
「あの夜だ……寝ている間に息を引き取り、消えた」
どこか疑いを含むアティフの問いに皇帝はいつものように憮然としながら答えた。
「……では本当に」
アティフの脳裏には、泣きじゃくる凛とそれを宥め「ずっとここにいろ」と言った皇帝の姿がはっきりと焼き付いている。
「――なぁ、アティフ」
「は、何でございましょう?」
そのことを考えていたアティフは迂闊にも皇帝の問いかけを聞き逃してしまった。
「人間達は自ら進む力を得た。そう、思わぬか?」
「は……御意」
確かに、ここずっと皇帝は議会に口を挟まず見守っている――そう、見守っているだけになった。今後は皇帝の手を離れて、己の力で進んでいくのだろう、とは思える。
*
「……陛下」
遠くに見える皇帝の姿を見詰めながら妃はポツリと呟いた。
「どうして、嘘を吐くのですか?」
間違いなく、確実に、皇帝を産める女は来たはずなのに。今まで隠し事などしたことのない、初めての皇帝の嘘。
妃は悲しげに顔を曇らせた。




