三章・勧誘
凄い放置していてすいません。
今回はキャムランとアヴァロンの違いについてちょっと混ぜてみました
魔質調査それはスベリア女王国において、恐怖の代名詞である。
悪戯した子供や泣きわめく子に、魔質調査員がやって来るよと言うとピタリと大人しくなると言う。
村の集会場は村人でごったがえしており、子供の泣き叫ぶ声が響き渡っている。
エリオットは眼前で行われている魔質調査に、眉間の皺がよった。
幾度の戦場を駆け抜けてきた彼が、眼前の光景に畏怖しているのは希だ。
「…確かにこれは逃げたくなるな。」
「うわぁあああ゛!!」
「♪」
魔質調査に用いるの測定器いや…この場合「測定樹」と呼ぶべきか。
測定方法はただひとつ。ジュレイドと呼ばれる植物型召喚獣が対象者の魔力を吸い上げ、その魔力で作った実の大きさで魔力を図るのだ。
そのジュレイドは大人しい性格で従順だが、外見が危険な食中植物だ。触手で魔力を吸い上げるのになぜか口にはギザギザの鋭い牙がついているし、はっきりいって夢に出てきそうなほど凶悪な姿だ。
泣き叫ぶ子供の声をBGMに精製された実を真剣に調べている調査員は召喚師と魔術師のペアで、40そこそこの男達だった。傍らには精霊の老執事が控えていて、どちらかの男と契約しているのだろう
「次、エリオット・クレイン」
名を呼ばれて、エリオットは顔をひきつらせながらジュレイドの前に立った。
「っ…」
若干頬をひきつらせながらジュレイドを見ると、ジュレイドはゆっくりと触手をエリオットの頭に伸ばし、ヨシヨシと「良い子だね」と言うようにエリオットの頭を撫でた。
優しい仕草に、幼い日の父の記憶を思い出し、エリオットは目を細める。
─エリオット、悔いるな。お前は悪くない。─
それが頭を撫でてくれた父の最後の言葉だった。
「…。」
シュレイドはゆっくりと触手をエリオットの胴体に巻き付けると魔力を吸い始めた。
***
「ケリーが…」
その光景にサリダンどフラウドは軽く驚いていた。
召喚したシュレイドのケリーは、子供にすらあんな優しい仕草をしたことがない。問答無用で泣き叫ぶ子供に巻きつく彼が、目の前の青年にはなぜか優しい。
エリオット・クレインと言う青年はどうやらケリーに気に入られたらしい。
サリダンは自分が召喚した召喚獣から、エリオットへと目を向ける。
ひょろりとした痩身に赤い髪の毛。顔かたちは少年と青年の中間のまあまあ整った顔立ち。
ここまでみれば普通の青年だが、その表情にサリダンは困惑した。
その懐かしむような、惜しむような泣きそうな表情は、朽ちていく老木のようだ。
十代の青年が出す表情ではない。
魔力の吸引を終えるとシュレイドのケリーの頭部に真っ赤な林檎サイズの果物を精製し、そっとエリオットを解放した。フラウドはそれを待ってましたと言わんばかりに、すかさずその実を取ると、フラウドは巻き尺を巻き、升目を見極める。
「サイズは普通。魔力は平均だな。」
「…濃度を測るぞ。」
「お、おう。」
サリダンはフラウドから実を受け取ると、風魔法で実を切ると、切った内側の断面に眦がつり上がる。
「…エリオット・クレイン。君は魔術師ではないのだな?」
「えと、何か…問題でも?」
「先に質問しているのは私だ…答えたまえ。」
まっすぐに睨み据えるサリダンにエリオットは肯定した。あちらでは確かに魔術師だったが、この世界では違う。
今の自分は間違いなく魔術師ではない。
「君は…この精霊を見えているな?」
「見えていると変なのか?」
指を刺された老執事の精霊はこちらを見て「おや?」と驚いた表情でエリオットを見つめている。
精霊を見える事に無頓着なエリオットの様子にサリダン眉間の皺を寄せた。
「変ではない。むしろ誇るべきことだ。」
ハァと吐息を髪をかきむしる相棒に、フラウドは慌てて駆け寄った。
「おい、サリダン。」
「見ろ、フラウド。結晶石だ。」
「はぁ!?」
フラウドはサリダンから実を受け取ると、断面を目を見開く。
真っ二つにされた実の断面には、コインサイズの大きな柘榴色の石が埋まっていた。
「……柘榴石か…」
エリオットは何故二人がこんなに驚くのかわからなかった。
魔力を凝縮すれば、己の属性に合わせた結晶になるのはキャムランでは常識だ。
精霊もあちらではどんな子供でも視認できる。なぜ、そんなに驚くのかさっぱりわからない。
「…エリオット。ちょーと、残れよ。後で説明すっから。」
「…逃げるなよ。」
二人の異様な威圧にエリオットは、とりあえず頷いた。
魔質調査は午前中で終わり、エリオットは調査員の二人に連れられ宿屋の食堂で居心地悪そうにしていた。
(…どういうことだよ…魔力は平均になってたはずだ。)
「ビーフシチューとサラダ、ブレットを頼む。ああ、赤ワインも」
「あ、俺はポークカリーとウインナー、あと麦酒をジョッキで」
「…あの。」
「君は何にする?好きなものを頼みなさい。」
「…いや、だから」
「気にするな奢りだ。」
「…チーズグラタンとホットワインを」
エリオットは諦めて注文をだすと、二人を見上げた。
「私は、サリダン・ロウ。王立魔導院召喚術の教師をしている。」
「同じく王立魔導院精霊魔法学教師のフラウド・ニコラだ。よろしくな」
「改めましてエリオット・クレインです。えと、魔導院の先生が何故にここに?」
「この時期はオフシーズンでな。学生はみな冬休みで帰郷している。…いわば魔法省の手伝いだ。」
「…ああ。」
なるほど、と思わず頷くと二人は注文した品が来るのを待つと、本題に入った。
「魔力結晶があるということは、君は魔術師の才能…それも召喚術、精霊魔法、及び錬金術などの素養が高いということだ。それがどれだけ重要かわかるか?」
サリダン言葉にエリオットは目を見開き息を飲む。二人からすると、エリオットは自分に魔術師の素養が驚いていると思われたが、実際は違う。エリオットは素で驚いてしまったのはこの世界の魔術の認識度だった。元いた世界では精霊魔法も召喚術、錬金術はキャムランの人間は皆素養があり、ない人間は無能として差別されていたほどポピュラーだった。それらの魔術は中等学校の基礎課程の教科だった。軍国主義国なだけあり、小さいころから精霊や使役獣を操る訓練をされ、小さな子ども達でさえ妖精を操れる。
エリオットは自分の元いた世界であるキャムランと異世界のアヴァロンとのジェネレーションギャップに驚いたのだ。
(…やべ、うっかり忘れてた。)
プラムから、この世界は魔法がキャムランに比べて薄く、発展していないと聞いてはいたが…魔質まで気が回らなかったのは完全にエリオットのミスだ。
(…ずいぶんと俺も平和ボケしたものだ…。)
「神無き世界このアヴァロンでは精霊や召喚獣を使役できる人間は少ない。その素養あるものは必ず魔導院に入学することになっている。」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。いや、待ってください。俺は魔術を学ぶ気はありません。」
「何故?魔術師となれば未来は明るいぞ?」
「明るくても困ります。今の生活にもやっと慣れたのに魔術をいきなり学ぶのもちょっと」
「精霊魔術師になると便利だぞ~。農家や牧畜に恩恵が貰えるし、収穫量も断然違う。」
「召喚術師もこの田舎ではかなり役立つぞ。魔獣の駆除や、荷運びの足にもなる。力仕事にだって役に立つ。」
ズズズイと、にじり寄る2人にエリオットは背中を反らせて、視線を泳がせる。この2人は是が非でもエリオットを魔術師にしたいようだ。目が爛々と輝き、見つけた獲物は逃がさないと言わんばかりの顔に、エリオットは思わず顔を引きつらせた。
この2人は知らないから言うが、エリオットはすでに異世界のわざとはいえ、召喚術も精霊魔術も習得している。そして、契約した召喚獣達や精霊達を武器に人殺しをさんざんしてきた元魔術師だからこそ、いまさら魔術を覚える気が全くしないのだ。
どうやって断ったらいいものかと思案していると、フラウドの傍らにいたファルコが口を開いた。
『お二人とも、無理強いはよくございません。エリオット様がお困りのようではありませんか。』
「だって柘榴級だぞ!?しかも、純一級の結晶石を精製できる奴を手放しにできるか!」
「同意見だ。適材は適所にあるべきだ。ここに居てはせっかくの才能も埋もれるだけだぞ」
「あの、すいません。俺の魔力からできた結晶石ってそんなに珍しいんですか?」
あれくらいのサイズの結晶石はキャムランでは一般的だし、柘榴石はむしろ忌み嫌われた闇と火の複合属性の象徴でもあったため、あちらではあまり良い思いをしたことがなかったエリオットは素朴な疑問を浮かべた。その言葉に二人はキョトンとして、「自分の価値がまるで解っていない」と首をふる。
「一般人の結晶石はたいてい精製できないし、精製できてもそこら辺の河原の石みたいなものが生まれる。それだけでも珍しいし、それだけで魔術の素養があるとさえ認知されて居るんだ。透明度がある魔力結晶を精製できる人間は希だ。それに魔力の質が高いほど、召喚術、精霊魔法術の素養が高い証拠なんだ。しかもお前の魔力で精製された結晶石は、純一等の透明度を誇る苦礬柘榴石。極上の魔力の質を好む精霊や召喚獣からすればお前の魔力は最高級品の極上のワインに等しい。」
「一生に一度見るか見ないか…。その上お前は二属性の恩恵を貰っているときている。こんな田舎に野放しにしておくにはもったいない。なんで、今まで無国籍だったんだ!」
もったいない!と叫ぶサリダンの言葉が耳に痛い。いままで無国籍だったのかと聞かれても異世界人だからですなんて言えるはずがない。せっかく才能があるのにと苦々しくこちらをみてくる二人の視線にも妙な罪悪感を感じてしまう。いや、そんな事言われてもと、冷や汗を垂れ流す「死神」と呼ばれた元准将は、戦場ではない酒場の一角で針のむしろになったように身を縮ませた。
「とにかく、この調査内容は首都へと送られる。遅かれ早かれ、お前のところに魔法省の役人が怒濤の勢いで押し寄せるだろうな。お前も面倒ごとは嫌いだろ?お前の同居人のプラム婆さんにも迷惑をかけるし。ここは俺たちの提案に乗っておくのが吉ってもんだぜ?」
「学院に入り、資格を取りさえすれば、魔法省も強制召喚はできない。学院に入って正式な手段で資格をとって田舎に戻るか、資格を取らず魔法省に無理矢理魔術師にさせられるか。お前に遺された道は二つに一つしかない。」
「…そんなに俺を、魔術師にしたいんですか。」
「「したいね(な)」」
きっぱりと告げる二人にエリオットは深いため息をつき、冷めてしまったホットワインを口に運んだ。
人材不足なアヴァロン。キャムランとの魔法技術の方向性がまったく違います。
アヴァロンでは魔法は生活に欠かせないもの、キャムランでは魔法は武器。
ですのでアヴァロンの魔法は精密ですが、攻撃には特化していません。
逆にキャムロンでは、戦闘技術の一つとしてしか考えられてはいません。
技術の差はどっこいどっこいですが、威力は断然キャムランの魔法でしょう。