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第四話 戯志才と夏侯惇 後編


 日が落ちた頃、戯志才はやっとの思いで自宅に帰ってきた。

 夏侯惇と逢紀の起こした騒動で、逢紀の取り巻き二名が斬られて重症を負ったからだ。

 戯志才は夏侯惇を宥めてなんとか家に帰しつつ、斬られた二人を応急処置し、周りに呼びかけて医者を呼んだり、役人に事について終始説明するなどの雑務を行って、ようやく帰ってこれたのだ。

 体感的には昼過ぎぐらいだったはずが、あっという間に日が落ちていた。

 戯志才の脳裏に【このまま布団に倒れこんで寝てしまう】という魅力的な考えが起きたが、それをなんとか振り払った。

 バラバラにされた本をもう一度書かなければならないのだ。

 元となる原本は自分が保管していたのは幸いだったが、今から書き始めても一晩はかかるだろう。

「・・・徹夜か、その前に茶でも飲もう」

 腹は小腹が空いた程度だが喉が渇いた。

「たしか土産の中に茶と菓子があったはず」

 饅頭を皿に並べ、茶葉を取り出してお湯を沸かすために台所へと足を向けた。



 戯志才がお湯を沸かして茶を入れる頃、戯志才の家へとある老人が血相を変えて駆け込んできた。

「戯志才!居るか!」

「どうかしましたか学長、茶なら沸いておりますが」

「そんな悠長に構えている場合か馬鹿者!」

 叱り付ける学長に対し、戯志才は他人事のように坦々と茶を淹れ饅頭を用意していた。

「とりあえず話を聞きますのでどうぞ」

 しぶしぶと学長は仙人のような鬚を撫でながら座ると、戯志才は用意していた碗に茶を入れて差し出した。

「学長が血相を変えて来るとは・・・何か大事件でもありましたか?」

 戯志才はそう言いながらのんびりと茶を飲んだ。

 戯志才の記憶通りならば、学長が血相を変えることなんて孔融と殴りあったとき以来だ。

「当たり前じゃ!お主このままだと三日以内に殺されるぞ!」

「ふむ・・・理由が見当たりませんので、詳細にお願いします」

 戯志才は少し首をかしげ考え込んでみたが直ぐに切り捨てたようで茶を口に含み始め、それを見た学長は頭を抱えたくなった。

「昼間に逢紀と諍いを起こしただろう?」

「ええ、ですがそれは問題ないはずですよ」

 怪我人は出たが死者は出ていないし、あれは逢紀が悪いと役人にも報告してある。

 罰があったとしてもそうそう死ぬような事はないはずである。

 そう思って気楽な戯志才と対照的に、学長は深いため息をついてから話し始めた。

「普段なら問題ないわい、だが今回は相手が悪かったのぉ・・・十常侍は知ってるだろう?」

「それぐらいは聞いております」

 十常侍とは現在の皇帝に仕える宦官の中で発言力の強い十人の事を指している。

 現在の宦官は皇帝を傀儡として賄賂での位の売り買いなどの汚職を繰り返しており、その中枢である十常侍は汚職の根源といったところである。

「逢紀がその十常侍の一人とつながりがあったようでの、昼間の件でお主らを殺すつもりらしい」

 戯志才の顔が歪んだ、十常侍に掛かれば有りもしない罪で人を殺すなど朝飯前だろう。

 今まで戯志才を庇ってきた学長も、今回ばかりは命も危うくなるので庇えない。

「先手を取られましたか」

「そうじゃ、後手も上手く受けねば死ぬ・・・が、手が一つだけあるが難しい手じゃ」

「それは?」

「曹騰様を頼れ、曹騰様ならば十常侍も手出しが出来ぬ」

 曹操の祖父である曹騰は元宦官、現在も皇帝に信頼されている人物であった。

 立場も十常侍と対立する立場にあり、権力等の要素においても十分に渡り合える数少ない人物だ。

「はぁ・・・」

「なんじゃその気の無い返事は、既に面会するために手はずはそろえておいた」

「ありがとうございます」

「元を辿ればわしが原因だ、ほれさっさと行って来い」

 学長が急かすが戯志才は座ったままで次のように問いをぶつけた。

「私は逢紀という人物についてあまり知らないのですが、どんな人物ですか?」

「は?お主覚えておらんのか?」

「ええ、在学時にああいった輩は多かったので覚えておりません」

 学長は驚いた後、本日何度目かのため息をつくと逢紀について喋り始めた。

「逢紀の大学での成績は次席、現在は大将軍の元で文官をしておる」

「ええ、そのようなことを申しておりました」

「奴は知恵が回るが欲が強くての、恐らく十常侍からしても手駒でなく使い捨ての駒扱いじゃろ」

「海老で鯛を釣るといいますが大物が釣れましたね」

 戯志才は脳裏に逢紀をどうした物かと思い浮かべていると、それに気が付いた学長が戯志才を急かした。

「そういった事は曹騰様に任せよ、それよりも早く向かえ」

 戯志才は学長に礼をしてから立ち去り、部屋には学長一人が残った。

「全く、厄介事に好かれた困った弟子じゃな」

 そういって学長はため息をつくと茶を飲み始めた。




 曹家の屋敷に着く頃には子供はもう寝てしまうような時間帯であったが、門前払いをされなかったことを学長に感謝しつつ、戯志才は曹騰との面会をしていた。

「お主の名前は華琳から良く聞く、家庭教師として上手くやっとるようだな」

「有難うございます」

 戯志才は目の前に座る痩せた老人、曹操の祖父である曹騰を少しの間観察していた。

 好々爺というような感じでは有るが、時折感じる鋭さは曹操の祖父であるという事が良く判る。

「お主がここに来た理由は聞いている、昼間の事だろう?」

「ええ、そのことでお願いしたく」

「孫娘の従姉妹と家庭教師の二人を何とかするぐらいはできるが、少し頼みごとがあっての」

「なんでしょうか?」

 戯志才は答えながら頼みごとについて考えていた。

 金などではは無いだろうし、曹操の祖父であるから曹操の様に思いも寄らない物が飛び出すかもしれないな、などと思っていた。

「先日、この屋敷で音楽を奏でていただろう?」

「ええ」

 戯志才は以前に様々な楽器に触れるという授業をしていた。

 通常使われる楽器もあれば、珍しい物では胡弓のような異民族の物も使っていた。

「あのときに聞こえた珍しい太鼓の音が気に入っての、あれを一つ欲しいのだが・・・」

「恐らく南蛮の太鼓の事でしょう」

 使った楽器の中に南蛮で作られた太鼓が含まれていた。

 和太鼓などの撥を使う太鼓ではなく、手で叩く細長いつぼ型の太鼓である。

「多分それだ、あの軽快な音が良くてな」

「はぁ・・・」

 いくつかの太鼓を譲る事で交渉は上手く纏まり、曹騰が十常侍を上手く牽制する事で今回の逢紀の企みは無かった事にされた。

 戯志才は数日後に何事も無い様子を安心していたのだが、戯志才の予想を通り過ぎたところでとある波紋が起きていた。

 十常侍と曹騰の権力バランスの中、曹騰の下に戯志才が付くという巨大な派閥争いに組み込まれていた事を戯志才は知らなかった。


感想を沢山頂きました。

この場で返礼とさせて頂きます。

ありがとうございます。

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