第三話 戯志才の授業
感想が2件も来ました、この場を持って返事とさせていただきます。
ありがとうございます、頑張らせていただきます。
「では本日の授業を始めますが、最初ですのでどのような授業が良いか意見を求めます」
ごほんと咳払いをして曹操と曹操の従姉妹である夏侯惇・夏侯淵の姉妹を眺める戯志才、それに対してきょとんとした表情を浮かべる三人。
実は部屋に入ってすぐに曹操の従姉妹が二人だったことで思考が固まりかけたが、戯志才は何とかなる範囲だと思い直して復帰した。
「あら、どのような授業でもいいのかしら?」
すぐに思い直して面白そうな笑みを浮かべるのは曹操、どんな物を出すかを考えているらしい。
「ふむ、どのような・・・ですか?」
戯志才の発言を噛み砕いて思案するのは夏侯淵、このような授業の形式は知らないのか多少戸惑っているようだ。
「武将だ!凄く強い武将が出る物がいい!」
自分の欲望に忠実だったのは夏侯惇、頭を動かすより英雄譚のような心踊る物が良いらしい。
「まずは武将が出るもの・・・他に案はありますか?」
資料をより分ける戯志才、この授業を想定していくつかの範囲の資料を持ってきてあったのであった。
「私は姉者の言う通りで良いが・・・授業なのだから学べるものが良い」
「そうね・・・なら私は私が聴いたことの無く、とても美しい物がいいわ」
授業だからと学ぶ姿勢を見せる夏侯淵と、無理難題を叩きつける曹操、曹操の笑みはそれはもう清々しい物であった。
「武将が出て学べ、尚且つ孟徳殿が知らずに美しい物・・・ふむ」
戯志才は幾つかの想定から条件を当てはめて削っていき、最後に二つ残ったが美しさで勝る方を残した。
「では歴史上で最も美しい戦いをしたという戦術家ハンニバル・バルカの半生を授業にしましょう」
聞きなれない名前に疑問を浮かべる三人に対して、とっておきの本を持ち出した戯志才は笑顔を浮かべた。
「はんにばる・・・?聞きなれない名前ですが」
三人が疑問符を頭の上に浮かべる中、夏侯淵が手を上げながら疑問を上げた。
「漢より絹の道を通り遥か西方の羅馬国、その羅馬と戦ったカルタゴ国の将軍ですよ」
簡略な地図を机に本を並べて描きながら場所を示す戯志才、カルタゴの場所はイタリア半島から地中海を真下に下った南アフリカ上部辺りになる。
「ハンニバルは当時最強の国である羅馬に対して、首都から西方に位置するアルプス山脈と呼ばれる険しい高山山脈地帯を、冬季に約四万の歩兵と約五千の騎兵、四十頭の戦象を連れて超えようとしました」
「冬山を行軍なんて自殺行為ね・・・」
「ですがハンニバルは七日かけて山の頂に至り、十五日目には無事下山を終えました」
「「ええっ!?」」
曹操や夏侯淵の驚きも当然である。
冬の行軍は凍死の危険を抱え、冬山はそれに加えて雪崩・転落・食料調達の難しさと高難易度で、尚且つ超えるべきアルプス山脈はヨーロッパ最高峰の山脈なのだ。
これら全ての難易度が掛け算で行われ、さらに大軍で行軍するとなると通常なら壊滅どころか全滅の危険が盛大にあるのだが、ハンニバルは歩兵二万、象二十頭の犠牲があったとはいえ成し遂げている。
「アルプス越えで兵の信頼を得たハンニバルはその勢いのまま、羅馬の首都の近郊都市に奇襲を仕掛け占領、羅馬の敵対部族や敵対都市を仲間に引き入れ兵を増強し、羅馬の近郊都市を次々に落としていきます」
羅馬は都市同士の連合であったのだが、首都以外の連合都市をガンガン倒しながら何年も首都付近に居座るハンニバル。
大きな会戦になればハンニバルの戦術によって自軍の犠牲少なく羅馬軍を壊滅させ、ならばと羅馬が持久戦術を取れば略奪によって食料を得るという悪循環を起こし、南イタリア半島はほぼハンニバルの占領状態となっていたのだ。
「そんな中でカンナエの戦いが起きました、羅馬は自軍の最大動員数の一割である約七万五千の歩兵と五千の騎兵を向けました」
もちろん羅馬軍はハンニバル以外のカルタゴ軍と戦っているし、海軍・陸軍共にかなりの数を動員していた。
都市防衛用の兵もあったので搾り出せる全力の兵をぶつけたと思われる。
「迎え撃つハンニバルの軍は五万でそのうち一万は騎兵でした、両軍の配置はこうですね」
机の上に両軍の軍の陣形を碁石や駒を使って配置する戯志才、ローマ軍は正方形の重装歩兵の左右に騎兵を、ハンニバルは歩兵を2部隊に分けて二の字のような陣形の左右に騎兵をつけている。
「さて、皆さんはどうなると思いますか?」
ここで曹操たち三人に意見を求める戯志才、一番最初に手を上げたのは夏侯惇であった。
「ハンニバルが真正面からぶつかって敵を粉砕する!」
数の差や戦術とかは特に関係なく主役が強いと主張する夏侯惇、その目に一切の疑いは無い。
「うーむ・・・こうして中央突破を図った?」
ハンニバル軍の歩兵の陣形を△の形に変えて敵軍に突撃させる夏侯淵、だが自分の考えを信じきれて居ないようだ。
「・・・無理ね、逃げたのかしら?」
兵数的に負けると踏んだ曹操、約1.5倍の兵量は覆せないと思ったらしい。
各自の意見を見た戯志才は、ハンニバルがどうしたのかを再現し始めた。
「まずハンニバル軍の左騎兵が敵軍の右騎兵を圧倒し敗走させました、このあたりは騎兵の兵量が多かったので順当ですね」
羅馬軍の右側の騎兵を取り除く戯志才、ハンニバル軍の左の騎兵が自由になった。
「次に、前の歩兵では受けきれなかったので左右に逃がして後ろの部隊で正面を塞ぎました」
ハンニバル軍の前の歩兵部隊を左右に逃がし、凹の形にして羅馬軍を受ける陣形に変えた。
「そのまま羅馬軍の左の騎兵も敗走、そして・・・こうなります」
左右に分かれたハンニバル軍の前の歩兵部隊が伸びて行き、敵軍の後ろを騎兵が塞ぐと回の字のように敵軍を囲んだ。
「このようにハンニバルは騎兵の機動力を上手に使って相手を包囲殲滅することに成功しました」
これがハンニバルの最も美しい戦いと言われる包囲殲滅戦術である。
「・・・まるで魔法を見ているみたいね」
曹操が羅馬軍の将軍だったらと思うと、背筋が寒くなるような見事な用兵であった。
「・・・さて、今日はこの辺りにしましょうか」
パタンと本を閉じた戯志才は窓の外を見た、昼には始まったはずなのにそろそろ夕食の時間になる。
「満足いただけましたか?」
要点は抑えたつもりであったが、この場の三人が満足できない授業なら戯志才的に失敗である。
「はいっ!凄く面白かったです!」
「はい、とても勉強になる時間でした」
満足げに答える夏侯姉妹、この二人には十分楽しい授業であったらしい。
「とても素晴らしい時間だったわ、思わず時を忘れるほどにね」
大満足の様子の曹操を見て、戯志才は何とかなったようだと胸を撫で下ろした。
「所で、この本は何処で入手されたのかしら?」
笑顔のまま素朴な疑問をぶつける曹操、羅馬のように遠い国の本を入手しにくく、手に入れても翻訳が大変だし、翻訳版なんて市販されてるわけが無い。
「知り合いの羅馬まで行くという商人から羅馬の文字の本を貰いまして、文字もその商人に習って写したものです」
「そう・・・他にそういった本は持っているの?」
「そうですね・・・羅馬ですと他に十本ほどありますが、異国の物となると翻訳したものが二十本ぐらいですね」
「・・・他の国のもあるの?」
「ええ、羅馬語で翻訳した物なら数国分ありますよ」
「「えっ?」」
驚く曹操と夏侯淵、なんか今日は驚いてばかりである。
「うん?それの何処が凄いのだ?」
そんな中、全くわかっていない様子で夏侯惇が首を傾げた。
「そうね・・・皇帝陛下から名指しで勧誘されてもおかしくないほどよ」
どれほど異常な事態かため息ながらに説明する曹操、だがその目は妖しく輝き口元には笑みが張り付いている。
「出来たら私にもその本を読ませてくれないかしら?」
貴重な西方の書物を読めるという滅多にない機会が目の前に転がっているのだ、これを逃す手は無い。
「・・・できれば私にもお願いします」
曹操に続く夏侯淵、どうやら今回の話が面白かったので期待しているらしい。
「かまいませんが・・・ではこちらで良さそうな本を見繕っておきます」
そしてそんな貴重な本をあっさりと貸す約束をする戯志才、この男は何か重要な物がはずれている。
「むぅ・・・」
そんな中、夏侯惇はジッと不機嫌そうな顔で戯志才を睨みつけていた。
親愛なる華琳様と最愛の妹である秋蘭は、なぜこのようなひ弱そうな男に頼みごとなどしているのだ!
もしかしたら私には考え付かない何かがあるのかもしれないが、なにかこう・・・もやもやといやな感じがする!
夏侯惇は射抜くような眼差しを戯志才へと向け、その真意を見抜こうと試みた。
対して戯志才は、夏侯惇の内心を知ってか知らぬか彼女に話題を振った。
「元譲殿はどうしますか?他の西方の武将の本もありますが」
「うぅむ・・・読んでみたいが・・・」
急に話題を振られ驚くと同時に、西方の武に思いを馳せていたが、すぐに頭を振るとキッと戯志才を睨み直した。
おのれ!
私が怪しんでいると見て懐柔に来たな!
華琳様は買っているようだがこの男は油断ならない、この夏侯惇元譲が見極めて叩き切ってやる!
そんな夏侯惇の決心とは他所に、戯志才は何を貸すべきなのか脳内目次のピックアップを始めていたのであった。
書いてる最中にありのままに起こったことを言うぜ
俺は恋姫を書いていたらいつの間にかハンニバルを書いていた
なにを(ry
と言う感じでした。
意外と早く書けたので早めだけど投稿して置きます。
後日、誤字修正しました。