第二話 曹操と対話する
個人の呼び方の優先順位は三国志要素と恋姫要素を合わせて
役職名>字>名>真名
とさせて頂きます、右に行くほど親しいということで。
「では孟徳殿、今から質問を複数させていただきますがよろしいですか?」
「ええ、かまわないわ」
戯志才は無表情で筆と竹片を持ち、曹操はそれに笑顔で答えた。
「孟徳殿の年齢は?」
「女性に尋ねるものではないと思うけれど、数えで14になるわ」
曹操の目元がわずかに動いた、大して戯志才は口の端だけ笑いながら竹片に何かを書き込んでいく、どうやらわざとこんな質問をしたらしい。
他にも【通っている私塾の先生の名前を答えよ】【剣・馬・本・装飾品・お金、この中で惹かれる物は?】【物取りを捕縛したが自分の恩人であった場合の対処は?】といった質問を続ける戯志才。
「これが最後になります、孫子の九変篇における将の五危を答えよ」
「必死・必生・忿速・廉白・愛民の五つ」
「その意味は?」
「思慮が欠ける者は殺され、勇気に欠ける者は捕虜に、短気な者は計略に掛かり、名誉を重んじる者は罠に掛かる、兵士をいたわり過ぎる者は苦労が耐えない、これらに当てはまる者は指揮官に向かない者と言う意味ね」
「ご名答」
戯志才の問いに淀みなく答える曹操、正直この質問に答えられると思っていなかった戯志才は内心で舌を巻いた。
「ちなみに孫子はどれほどお読みになりましたか?」
「そうね・・・暫く前にお爺様に貸して頂いた時に読んだぐらいね」
「・・・質問は以上です」
「採点の結果はどうかしら?」
戯志才の評価が気になるらしい曹操、それに対して戯志才は笑顔で次のような言葉を放った。
「そうですね・・・私の分析によりますと、孟徳殿には自分は必要ありません」
戯志才がそう言い放った瞬間、曹操の時が止まった。
たっぷり十秒ほどだろうか、曹操が止まった時の彼方から帰還したときには戯志才は後片付けをしていた。
「・・・理由を聞いてもいいかしら?」
引きつった笑みを浮かべながら問う曹操、正直曹操には戯志才がなぜそういう結論に至ったかがさっぱり判らなかった。
「孟徳殿には今の私塾の師で十分であり、その他の分はご自分で学習される分で十分でしょうから」
戯志才的には過程的にも結果的にも必要無さそうな仕事をするよりも、自分が本を読んだりする時間の方が貴重であるし、その方が双方のためだと思っていた。
客観的に見て無駄な事はするべきではない。戯志才は合理的な人間だった。
「ああ、曹騰殿には私も論破されたとでも言っておいてください」
たいした理由も無く依頼を断れば処刑されるのを防いでおくのも忘れない、余り欲がない戯志才も生存欲はあるらしい。
「!?・・・・あははははははは!!!」
戯志才の発言に曹操は驚いた後・・・爆笑した。腹を抱えながら目には涙が浮かぶほどの大爆笑である。
なんて馬鹿で面白い奴なんだろう!
子供に論破された学者という不名誉と、下手をすればお爺様に殺されるかもしれない危機を背負うというのに気にしていない。
そのまま家庭教師の依頼を受けていれば、お爺様とのコネや私に物を教えた学者としての地位と名誉を得られ、知者として名を馳せる好機だというのに!
いや、戯志才は逆に危機も不名誉も十分に得ている、それが多少追加されても構わないというのか?
単にそれに気が付かないほどに馬鹿なのか、それともそれに気が付いていても気にしないほど剛毅なのか・・・どちらにしろ面白い。
このままではお爺様の依頼を体よく断られてしまい面白くない。
先ほどの質問形式からして頭は柔軟であるし、知識も申し分ないだろう。
何よりこんな面白い奴を手放すなんてなんて勿体無い事なんだろう!
「気に入った!」
「・・・は?」
「戯志才、貴方をこの曹孟徳の勉学の師となって貰うわ!」
曹操はこんな面白い人物を手放したくなかったし、戯志才が家庭教師をすることは確定してしまったらしい。
逆に戯志才は鳩が豆鉄砲を食らったぐらいに面食らっていた、曹操なら同じような結論に至って自分は必要ないものと思っていたのである。
「いえ、ですから私は・・・」
今度は戯志才の時が止まっていた。
「今日は顔合わせだったから明日からお願いするわね」
ここぞとばかりに畳み掛ける曹操、戯志才はまだ混乱している。
「ああ、明日は私の従姉妹が来るから一緒に授業をお願いするわ、戯先生」
そう言い切って笑顔で消える曹操、一分後に現実に戻ってきた戯志才はいろいろな物を諦めた、もう既に戯志才を家庭教師にするための策を曹操は実行しているだろうし、今から持ち物を纏めて逃亡するにしてはいささか時間が足りない。
荷物を諦めれば逃亡は出来そうだが、曹操は確実に追いかけてくるだろう。
さらに曹操の従姉妹が追加されるらしい、戯志才は授業に曹操が二人いることを想像してしまい胃が痛くなるのを感じた。
とりあえず、前向きにこれからやることを考えて消化するしかないだろうと天を仰いだ。
「天よ、なぜ私にこんな苦難を与えるのでしょうか」
天は何も答えてはくれなかった。
そういえば、戯志才の外見や年齢などの描写してない事に気が付いた今日この頃。
きっとそのうち出てくるはず・・・