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エピローグ

 落とし穴を探し当てる、というのは苦行でしかない。

 長い長い、研究段階、論理の追求、SFと揶揄されるような近未来の理論。大学に進んで、物理学を学んで、なんとなく落とし穴が気になって、大人になって気づくこの気持ち。

 一般的に言って、気持ち悪い、と言われてしまいそうだった。

 けれど、どうやら、私の中で彼女との友情は、錆びても、変わってもいない、銀色を保ち続けていたらしい。まあ変わってしまった点をあげるなら、邪な男としての欲がほんの少しだけあったかもしれないという事実はあるけれども……。

 大学の博士課程を終え、大学の研究室に正式な研究員として残ってからも、結婚や女性の紹介を断り続けていたのは、きっとそんなしょうもない理由だったのだろう。

 

 好奇心、猫をも殺す。

 まさにその通り、私は今から死にに行くようなものかもしれない。

 当然、近所の公園の砂場の落とし穴に落ちれば、あそこに辿りつけるなんて簡単な話ではない。緻密な理論によって、世界を再構成し、観測できなかったものを観測し、『それ』が現れる地点を特定する。高校の頃、物理教師の宮里が熱く語っていたような、虚数の世界と戯れることになるとは、当時の私は考えもしなかっただろう。

 特殊な道具(私はこれをスコップと呼んでいるのだが……)を使って、入り口をこじ開け、そして、落ちる。

 私の理論が正しいならば、そうなるはずだった。

 落ちた先でどうなるかは出たとこ勝負。この穴が、ギンの居た穴と同じだという確率が高いという情報だけでも僥倖だった。まさに、千載一遇の好機というところだろう。

 あの空間はそもそもが、世界と世界と歪み、ぽっかりと完璧な世界に開いた唯一の盲点、例外と言えるような場所なのだから。

 まさに落とし穴という言葉がしっくりとくる。

 落ちようとする時の、この高揚感も似ている、やはり自分で作った落とし穴は、最後の自分で落ちてこそ意味があるというものだ。

「では行ってくる」

 数名の助手に振り返り、最後になるかもしれない別れの言葉を口にする私はきっと笑っているのだろう。

 なにも悩むことはない。

 好奇心があればそれで、私達は生きていける。

 今なら、今なら私――僕でも、きっとギンの力になってやれるはずだから。

 それがきっと、あの時僕の自己満足に付き合ってくれたギンへの恩返し、伝えそこねた、ありがとうを伝えるために、そしてちょっぴり、友情以外の感情を含めて会いたいというこの思いを満たすために。

 しかしまあ、友達なんだから、助けに行くのは当然だろう。

 勝手に友達と定義した、人ですらない相手を思い、僕は笑いながら、世界の落とし穴へと、落ちていった。

物語のプロローグとエピローグが大好物です。

というわけで、なんとか完結、ありがとうございました。


企画、管理その他雑用、果てはバナーや、私の締切日の勘違いのツッコミまで、幅広くフォローしてくださった、運営の皆様には最大の感謝を。


読者及び、参加者の皆様にも、お疲れ様とありがとうを。

それでは、今後とも、お祭り、楽しんで盛り上げて行ってくださいませ。

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