幕の四 ~屋敷の兄弟?~
「〽灯りを点けましょ♪ぼんぼりにぃ~♬っと。」
屋敷の紅梅はその花をほとんど散らし、地面に落ちた花びらを箒で掃く男の口からは、可愛らしい歌がこぼれている。
うららかな昼前の風はほのかに温かさを含み、近く訪れる春を予感させながら庭を通り抜けた。
男「兄貴。今日の昼餉は?」屋敷の廊下を歩く同心姿の男が、庭を掃く男に声をかける。
だが、聞かれた方の男は絶好調にノリよく歌っている…ひな祭りの歌のハズなのだが…
男「兄キ…大介君。今日の昼餉はどうする?」
タイミングを見計らって、庭掃除の青年 ―大介― に再度問うてみる。
大「あ、目黒さん。お帰りなさいっす。お仕事は?」
ようやく大介は、同心 ―目黒― に気づき、返事をした。
目「うん。今日は早上がり。」そう答えて、大介に目を向ける。
目「…まだ歌ってんの?」
大「え?あぁ、これ?」大介は人差し指をフリフリ、また鼻歌を続ける。
大「だってさぁ、もうすぐひな祭りジャ~ン?」理由は分からぬが、大変ドヤ顔である。
目「そうだね。」―この兄は春が良く似合うー そんな事を思いながらも、目黒の返事はそっけない。
大「だからさ♬何かこう、ワクワクするっていうかさ、ジッとしてらんないっていうか?」
目「…大介君がジッとできないのは、年がら年中じゃない?」
無慈悲な一言に大介は胸を押さえてしゃがみこんだ。
その大げさなリアクションに、目黒は小さく口角を上げる。
目「で?昼はどうするよ?」
大「オレ、蕎麦食べたい!」バッ!と両手を挙げた、大変元気のよいお返事が返ってきた。
これではどちらが年下なのやら。
そんな大介の両手の風圧に負けたか、梅の花がまたひとひら落ちた。
その光景を見て目黒はふと、先日覚えた唄を思い出し、何とはなしに口ずさむ。
目「〽梅は~咲いたか~ 桜は~まだかいな…」
何故か大介の目がまん丸に開かれ、マジマジと弟の顔を見る。
大「蓮…おまぇさん、その唄、誰に教わった?」
目「え………お亮さん。」
答えを聞いた途端、大介はカァーッ!と言って、片手を額にペチンと当てた。
大「あの藪ぅ~。蓮になんつう事教えてやがる。」
目「??今、流行ってるんだって。大介君、知ってた?」
大介は、綺麗な瞳で無邪気に問うてくる弟を、複雑な思いで見ていた。
大「あ…あぁ。春が待ち遠しいなぁ。っていう、唄だよな?」少々白々しいが、仕方ない。
堅物可愛い弟を、世俗の垢から守るのも「兄貴」の役割ってもんだからな。
そう本人には聞こえない様に呟いて、大介は独り胸を叩いた。
大「それよりさ!桜だよ桜!そろそろ花見の計画たてようぜ!!」
そのためにも、こんな端唄から早く話題を変えなくては。
そんな兄貴の思惑などつゆ知らず、目黒は花見の計画と聞いて顔を輝かせた。
「皆も呼んで盛大にやろう!」
「もちのろんよっっ!!」
日一日、刻一刻と季節は柔らかく移ろっていく。梅が散れば次は桜。
彼らもまた春の風に誘われーー集いゆく。
これは、そんな人々の物語。
今を生きてる作者の方が、現代口調に直せないとかそれってドーヨw やっぱり日本語難しいw




