幕の二 ~医者の親子?~
顔に当たる風が涼しさを増してきた。もう少し時間がたてば肌寒くすら感じるだろう。
夕方の縁側。彼は大きな体を小さく丸めて眠っている。と、彼を呼ぶ者がいた。
男「シロ。そんな所で寝ていたら風邪を引くよ。」
男の呼びかけにも、シロと呼ばれたものは応える様子を見せない。ただ一瞬体がピクリと動いただけだ。
おやおやといった顔をしながら、男はもう一度呼びかける。
その声に、ようやくシロは顔だけ持ち上げた。まだ眠いと言いたげな表情に、男は眉を軽く下げる。
男「風邪なぞひいたら、またあのまぁずい薬を飲むことになるぞ?」
途端にシロは大きく目を見開き男を凝視する。その変わりように、男は頬をゆるませた。
男「そうだ。この前試したあの薬だ。」くすくすと笑いながら男は続ける。
「お前も口に入れてから、しばらく苦労してたねぇ。」
その言葉にシロは大きなのびで返事をし、ゆっくりと庭へおりた。踏みゆく落ち葉の音が、秋が深まりつあることを教えてくれる。
悠然と庭を歩くシロは一本の木の下に着いた。ジッと見つめる先には小さな銀色の花が群れ、揺れている。
鼻をフンフンとならし、金木犀よりも落ち着きのある甘い匂いを、秋の冷たい空気ごと肺に吸い込み、頭上にある小枝を、長い腕をすっと伸ばして『ポキッ』と一本折った。男のたしなめる声と、シロの声が重なる。
シロ「はい、みどり先生。」
みどり「こら、シロ。いきなり折っては銀木犀が可哀そうだろ。せめてハサミを使いなさい。」
はぁい。と答えつつも反省の色は見えないシロ。
そのまま枝を男 ―みどりー の耳上に差し、部屋へと入っていった。
後に残されたみどりは、小さく呟きながら廊下を歩きだす。
み「まったく…。身体ばかり大きくなって。」
独り言は秋風に乗って夕暮れにとけていく。みどりの表情は保護者というには甘い笑顔だった。
銀木犀の白い花が、風に小さく揺れている。その甘い香りを残して、秋の一日は静かに暮れていった。
今日もまた、オオエドのどこかで――人々のささやかな日々が続いている。
これは、そんな人々の物語。
二話目はこちらのお二人でした。




