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「どうかされましたか?」
「ど、どうって、あ、あなたそ、そんな物を普段こ、好んでた、食べているの?」
明らかに予想もしていなかった返事が返ってきて動揺する私の言葉に、セルヴィは悪びれる事なくコクリと頷く。
「はい。だってお嬢様はジャンクフードがそんな風に引きつるぐらいお嫌いなのでしょう?」
「えっ!? ち、ちが——っ」
セルヴィはどうやら私が引きつるほどジャンクフードが嫌いだと思い込んでいるらしい。何と言う事だ。
フラフラと椅子に座った私は、涙が出そうなほど美味しいサンドイッチを頬張る。
「そんな涙目になってサンドイッチを召し上がってもらえると、作った甲斐があったというものです」
「ええ……美味しいわ……とても美味しい……うぅ」
べそべそと鼻を鳴らしながら朝食を食べる私を見てセルヴィは嬉しそうにしているが、私の内心がどれほど荒れ狂っているかなど、きっとセルヴィには分かるまい。
それからしばらくして私はまた夜中にセルヴィが家を抜け出した事に気づいた。
よくよくセルヴィを観察していると、セルヴィは3日に一回は深夜に家を出る。
あまりにも頻繁に夜中に家を抜け出すセルヴィに私は不信感を抱き、ある日とうとう行動を起こした。
ある夜、私は闇に溶け込めるように真っ黒のコートに身を包み、同じく真っ黒の帽子を目深に被り、セルヴィの後をつける事にしたのだ。
セルヴィはこんな深夜だと言うのに堂々とした様子で車に乗り込んで行く。
それを見て私は慌ててスマホでタクシーを呼び出した。
その間にセルヴィが出発してしまうのではないかと焦っていたのだが、セルヴィの車はなかなか発進する気配がない。
車の中で何かしていたのか、私がようやくやってきたタクシーに乗り込んだ途端にセルヴィの車が駐車場から出て行く。
「運転手さん、あの車を尾行してください」
意気込む私の言葉に運転手はニヤリと笑って被っていた帽子の鍔をキュッと握った。
「尾行ですか。良いですねぇ、ワクワクする響きですねぇ」
「お願いします!」
何だか思った以上に乗り気の運転手は付かず離れずの距離を保ちつつ、セルヴィの車をどんどん追いかけて行く。
やがて辿り着いたのはネオンが眩しい繁華街だ。
「お客さん、あれ、絶対に浮気してますよ。どうします? 言質取りやすか!?」
「いえ、まだその段階ではないので。でもいざとなったらお願いします」
「任せといてください! こう見えて俺は何回も修羅場に鉢合わせてんですよ。言わばその道のプロ! あとこっからは気をつけてくださいね。何かあったら大声で火事だって叫ぶんですよ! そうしたら皆飛び出してきやすから!」
「分かりました! ありがとうございました」
完全に何か勘違いされているが、やる気満々の運転手のおかげでようやくセルヴィの行き先を突き止めた私は、思っていた以上の働きをしてくれた運転手に倍額のお金を渡してタクシーを下りた。
ついでにその運転手の名刺をちゃっかり貰う。またいつかお世話になる事もあるかもしれないと思ったのだ。出来ればそんな日はもう二度と来ない事を願っているが。
タクシーを下りるとまるで私を待っていたかのようにセルヴィも車から下りてきて、どこか目当ての場所があるのか繁華街の中を進んでいく。
セルヴィは顔を隠す事もなく通りに立っている黒服のスーツの男の人たちに気さくに挨拶などしながら、たまに何か気になる事でもあるのか黒服の人たちに何かを言ってその場を離れていく。
「一体、何やってるの? ていうか、あの黒服の人たちセルヴィの知り合い?」