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ここはここらへんでは一番有名な名門大だ。だからだろう。近所にはファストフードの店など無いし、何なら閑静な高級住宅街しか無い。駅前まで行けばそれなりにあるらしいのだが、私は未だにそこへ行けてはいない。
何故なら毎日毎日セルヴィが親切に大学まで私を送り迎えしてくれるからだ。
いくら断ってもセルヴィは決してそれを受け入れない。それが自分の仕事なのだと言って。
それはそうなのだろう。私だって別にセルヴィの仕事を邪魔したい訳ではない。ただ一度で良い。一度で良いから店内でファストフードを思い切り食べてみたいのだ! 欲を言うと夜にピザも頼んでみたい。
けれどそんな些細な私の夢は、未だに実現しないでいた。
セルヴィはどこへ行くにも必ずついてくる。時には護衛のように私の半歩後ろを歩き、時には友人のように隣を歩き、どこへ行くにもぴったりとくっついてくるのだ。
「いつになったら私はポテチを浴びるほど食べられるんだろう……」
教室に入って講義が始まるまでの私の日課は専らファストフード店の新メニューを眺める事になっている。使う事も無いクーポンの山が虚しい。
「良いなぁ……美味しそう……」
有名なハンバーガー店の新メニューに生唾を飲み込んでいると、後ろの方からこんな声が聞こえてきた。
「あの方の使用人らしいわよ」
「そうなの? どちらの方?」
「さあ? 大学からの編入みたいだから知らないの」
「そうなの。残念ね。編入って事は新興の所の方かしら。だったらお近づきになる事もないわね。でもあの使用人は素敵だわ。どうにかしてうちにスカウト出来ないかしら?」
「お家の方にお願いしてみたら? もしスカウト出来たら教えてちょうだいね」
これは全て私の事だ。そしてあの使用人というのは間違いなくセルヴィの事だろう。
この大学もまたお嬢様や御子息だけが通うような由緒正しい大学で、幼稚舎から大学までの一貫校である。都会のお嬢様達はよそ者に厳しい。思っていたよりも人生は過酷だ。
ただうちは歴史だけはある! だから新興ではない! それだけは声を大にして言いたかった。
そんな訳でまともに友達も出来ないまま日々が過ぎ去ったある日の事。
その日も私は深夜にこっそりセルヴィがどこかに隠し持っているお菓子を探していた。
何故そんな事を知っているのかと言うと、たまにキッチンのゴミ箱の中に夢にまで見たポテチの袋が入っているからだ。あと有名なアイスクリームの包装紙も見たことがあるし、あの有名なカフェの容器が入っていた事もあった。
「セルヴィ……一人で私が食べたいものリスト、飲みたいものリストの上位10位を全部網羅してるなんて……憎いっ!」
足音を忍ばせていつもよりもずっと遅い時間にこっそり起きてリビングに行くと、そこには誰も居ない。当然だ。今は草木も眠る丑三つ時。セルヴィだってぐっすり眠っているはずなのだ。
私がソファの下や戸棚の中をゴソゴソと漁っていると、突然玄関の方からカードキーが開く音が聞こえてきた。
「!?」
その音に驚いた私は咄嗟にリビングにある物入れの中に身を忍ばせて、息を殺し物入れの隙間から覗いていると、リビングの明かりがついてセルヴィが入ってくる。
『セルヴィ? こんな時間にどこか行ってたの?』
心の中には沢山の疑問符が浮かんだが、すぐにある仮定を考えついた。
あれほど探してもどこにも隠されていなかったお菓子は、きっとセルヴィが深夜にこっそり買いに行っていたに違いない。そう、例えばコンビニとかで!
そう思ったけれど、セルヴィにはどこかで買い物をして来た様子はない。