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89 魔法ギルド連盟

 エルディンの民の盛大な見送りを受け、新たな仲間グレンを加えた俺たちの旅は再び始まった。

 公女アメリアとの再開を約束し、俺たちは馬蹄を西へ、まだ見ぬ魔法国家「アカデミア」へと向ける。

 穏やかな丘陵地帯を馬で進みながら、俺たちの間には、これまでの旅にはなかった新鮮な空気が流れていた。

 その原因は言うまでもなく、俺のすぐ後ろを、まるで騎馬行進の先頭に立つかのように完璧な姿勢で馬を駆る、新メンバーのせいだった。


「しかし、改めて聞くが……」


 グレンが眉間にしわを寄せながら問いかける。


「その、魔法ギルド連盟『アカデミア』とは、一体どのような国なのだ? 王はおらず、ただ魔術師が集まっているだけ。と聞いたが……それで、国家として成り立つのだろうか」


 そのあまりに真っ当な疑問に、ラズがニヤニヤしながら口を挟んだ。


「堅物はこれだから困るぜ、グレンの旦那。アカデミアってのは、国じゃねえんだよ。国っていうより、デカい『実験場』みたいなもんだ」

「実験場……?」


 ますます混乱するグレンに、俺は苦笑しながら説明を引き継いだ。


「そこでは、身分も、富も、軍事力も評価の対象じゃない。唯一絶対の価値基準は、『知識』と『探究心』。世界で最も賢い奴が、最も偉い。ただそれだけの、常識が通用しない研究者たちの聖域さ」

「聖域……」


 フィオナもまた、興味深そうに相槌を打つ。彼女にとっても、規律や忠誠以外の価値観で動く国家は想造の範疇を超えているのだろう。


「そう。だから、政治や戦争には基本的に不干渉だ。奴らにとって、他国の覇権争いなんざ、顕微鏡の下の微生物の縄張り争いくらいにしか見えてないだろうな」

「なんと……。では、我々のような騎士や戦士が訪れても、門前払いではないのか?」


 グレンの心配はもっともだ。

 そこで、シェルカが呆れたように付け加えた。


「あんたは頭が硬いねぇ。アカデミアの連中が興味を持つのは、ただ一つ。『面白いかどうか』だ。アタシたちみたいに、神代の謎が書かれた日記を持ってて、女神様まで連れてるご一行なんて、奴らに取っちゃ最高の研究対象さ。むしろ、大歓迎されるに決まってる」


 その言葉に、フィオナとグレンはまだ納得しきれないような、それでいて少し期待の混じった複雑な表情を浮かべた。

 真面目な世界で生きてきた彼らにとって、俺たちの底なしの自信は理解が難しいのかもしれない。

 数日の旅を経て、俺たちの目の前に広がる風景は明らかに異質なものへと変わっていた。

 大地には淡く光る鉱脈が走り、空には見たこともない色の鳥が飛んでいる。


「……空気が違うな」


 フィオナが、警戒とも感嘆ともつかぬ声を漏らす。 

 そして、丘を一つ越えた瞬間、俺たちは言葉を失った。

 視界の先に、巨大な水晶でできたかのような、いくつもの奇妙な形の塔が天を突くようにそびえ立っていたのだ。塔と塔の間は、虹色の光の橋で結ばれ、その上を、箒に乗った魔術師や、羽の生えた奇妙な乗り物が飛び交っている。

 幻想的で、どこか非現実的な光景。

 あれが、アカデミアの中心都市、「賢者の塔」エイベリオン。


「なんか、おとぎ話の世界みたいだな」

 

 ラズが目を輝かせる。


「女神を連れてる俺らのほうが、よっぽどおとぎ話みたいだけどな」


 俺は笑いながら言った。しかし、エイベリオンの街は少年の心をくすぐってくる。俺も心なしか、声のトーンが少し上がっていた。


「おい、見ろよ旦那! 門番が、石でできたデカいゴーレムだぜ! あんなの、王都でも見たことねえぞ!」


 俺たちは吸い寄せられるように、街の入り口へと向かった。

 だが、俺たちが門に近づいた途端、二体の巨大なゴーレムがその巨腕を交差させ、行く手を阻んだ。


「──来訪者よ、名と目的を告げよ」


 少し言葉を発するだけで気圧されるような、低くて無機質な声。

 

「我らはルディア=アークフェルド連邦からやってきた。この国の長である、星詠導師殿に、謁見を願いたい」


 フィオナが、堂々と名乗りを上げる。

 だが、ゴーレムの反応は冷たかった。


「星詠導師様は現在、観測の周期に入っておられる。いかなる者との謁見も、許されぬ。……資格なき者は、速やかに立ち去れ」


 有無を言わさぬ、絶対的な拒絶。

 くそっ、やっぱり一筋縄ではいかないか。


「なんで血の通ってないコイツらに止められねきゃいけないんだよ……」


 シェルカが舌打ちしていた。


「待て! 我々はこれを持っている!」


 俺は、懐からミリスの日記を取り出し、掲げた。


「これは、神代の遺物だ! これを見ても、まだ資格がないと言うのか?」


 俺の言葉に、ゴーレムの水晶の目が一瞬、赤い光を放った。

 だが、答えは変わらなかった。


「……解析不能なアーティファクト。危険物と判断、警告する。それ以上近づけば排除する」


 ゴーレムの巨大な拳が、ギシリと音を立てて握りしめられる。

 

「ごめんなさい!」


 俺はゴーレムが怖すぎるあまり、すぐに五歩ほど引き下がった。

 まずい、完全に交渉決裂だ。

 スキルで強行突破するか……?と俺が思ったその時だった。


「──あらあら、騒がしいわね。門の前でいったい何の騒ぎかしら?」

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