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18 ありがとうお姉さん

 城から戻る道すがら、俺の足取りはどこか浮いていた。緊張が解けたのもあるが、それ以上に、あの謁見で「何かが始まった」ことを肌で感じていた。

 王都中央の広場近く、借りている安宿の扉を開けると、すぐにフィオナが立ち上がった。背後ではリゼットが湯を沸かしていて、ガランは椅子に腰掛けたまま視線だけをよこしてくる。


「終わったのか?」

 静かな声で問うたのはフィオナだった。その表情には、心配と期待が交じっていた。


「ああ。謁見は、ちゃんと終わった。王様──アルディナ陛下と、ちゃんと話せたよ」


 俺は微笑んでそう答え、みんなの前に腰を下ろした。湯気のたつ卓上を囲み、仲間たちの目が一斉に俺に向けられる。


「どんな人だった?」

「思ってたより、ずっと『人』だったよ。偉そうな態度とかはなかった。ただ、こっちの目を真っ直ぐ見て、話をちゃんと聞いてくれた。……でも、怖いとも思った。頭の中で何手も先を読んでる感じだったから」

「昔から陛下はそういう人だ」


 フィオナが頷きながら言った。


「それで、何を聞かれたの?」

「村をどうするつもりか、この力をどうするつもりか……あとは、俺がどう生きたいかとか。いろいろ話したよ。できるだけ正直に、って思ってさ」

「正直に、か……」


 ガランはぽつりと呟く。珍しく、少し笑みを浮かべていた。


「フィオナから聞いてると思うけど、結局俺は無罪って言われた。むしろ期待されてる感じだったよ。貴族評議会からは監視対象にされそうだけど、それ以外からは『見込みがある』って」


 その言葉に、全員が安堵の息をついた。


「よかった。王が直接そう判断してくれたなら、これからもやれるはずだ」

「うん。これで、少なくとも王都で堂々と動ける。すぐになにかが変わるわけじゃないけど、ちゃんと『道』は見えてきた気がする」


 その時だった。扉がバン!と大きく開き、息を切らせたトモが新聞を片手に駆け込んできた。


「みんな、見ましたか!? これ! これすごいってば!!」


 まるで宝物でも掘り当てたような顔で、トモは新聞をテーブルに広げる。


「号外が配られてたんです! 『異邦の創造者、王宮へ謁見す』って見出しが載ってるんですよ! しかも、名前も顔も、がっつり描いてある!」

「顔……!?」

 

 確かに審問のとき、やけに手元を動かしてる奴がいたんだよな……。メモを取っているのかと思ったら、あいつは新聞記者だったのか。

 新聞を覗き込んでみると、そこには想像以上に立派に描かれた自分の肖像画と、淡々とした記事が載っていた。


〈地方の貧村から現れた謎の青年、王都で能力を示し、王の謁見を果たす〉

〈彼の能力は“創造”。未確認の特殊スキルと見られる〉

〈謁見においては村の再建計画に言及、王より一定の評価を得た模様〉


「うわ、こんなに大きく……」

「な、なあ、カイ。これ、もしかして俺たち、すごいことになってるんじゃないか……?」


 ガランが額に汗を流しながら言うと、リゼットは苦笑した。


「よかったわね、英雄さま。王様に続いて、新聞記者にも気に入られて」

「ああ。ひとまず、悪い方向で報道されなくてよかった。気に入られたかどうかはともかく……これで間違いなく、注目される」


 新聞の最後の行に視線を向けると、

――「カイ」、新たな時代の鍵を握るのは、この青年かもしれない。

と書かれていた。なんと無責任でお気楽な記述なのだろうか、と俺はため息をつく。


「今日はもう疲れた……しばらくゆっくり休もう」 


  ◇◇◇


 王都での日々に、少しずつ慣れてきた。騎士団の正式な許可が下り、村の代表としての肩書もようやく定着しつつある。だが、ここからが本来の目的だ。

 村に必要なのは、技術と知識、そして共に歩む覚悟のある仲間。それを探すため、俺は再び王都ギルドの扉をくぐった。

 扉を開けた瞬間、鼻を突くような革と油の匂い。ざわめく人々の声と、武器がぶつかる微かな金属音。……そういえば、前回はここで少し派手にやってしまったな、と思い出して、俺はほんのわずかに顔をしかめた。

 

「……まあいっか。悪目立ちでも、覚えられてるのは悪いことじゃない」


 中に入ると、すぐにいくつかの視線がこちらに向けられた。警戒というよりは、好奇と評価の入り混じった目だ。


「おい、あれ……例の創造スキルの……」

「新聞で見たやつだろ。村をどうにか立て直すとかって……」


 囁きが聞こえてくる。俺はその言葉を聞きながら、カウンターへと歩いた。

 受付には前と同じ男──いや、違う。今回は年配の女性が座っていた。威圧感はないが、目は鋭い。俺を見るなり、何かを判断したように頷いてきた。


「カイ殿。噂はかねがね。今日はどのような御用で?」

「仲間を探してる。俺たちの村に来て、一緒に働いてくれる技術者や、素材集めをしてくれる冒険者を……できれば志のある人間を紹介してほしい」

「ふむ。志……です、か」

 

 受付の女性は、顎に手を当てて考え込む。俺はカウンターの端に目をやり、書類の束がうず高く積まれているのを見て、またため息をついた。

 こういうのは苦手だ。書類で人間が判断できるのなら、苦労はないというのに。


「こちらで精査してみましょう。ただ……」


 彼女がゆっくりと顔を上げる。


「貴族評議会から、あなたの行動を注視するよう通達が来ています。ギルドとしても、あまり派手な紹介はできません」

「だろうな」


 わかっていたことだ。俺の存在が、特にあの古い体制にとっては目障りというのは、あの審問の時点で明らかだった。


「それでも来てくれる人がいるなら、それでいい。俺たちの村は、ただ生き延びる場所じゃない。自分の力を発揮できる場所にしたいんだ」


 受付の女性は、ふっと目を細めた。


「あなたの言葉には、妙な力がありますね。……では、候補者が数名います。紹介状を出しましょう。直接会って話すのが、一番でしょうから」


 俺はまた後日、その候補者と会ってみることになった。候補者というのはなんだか偉そうで気に入らないが、事実なので何とも言えない。


「ありがとうお姉さん、助かった。今度この地図に書かれた場所に行けばいいんだよね?」

「いやだ、お姉さんだなんて……」


 社交辞令だ。照れてないで俺の質問に答えてほしい。


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