表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない  作者: 葉泪 秋
聖地決戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/120

113 半分こ

 最後の戦いが終わり、聖地で迎えた朝。

 アレアの力によって崩壊しかけていた世界は輝きを取り戻し、生命力に満ちた美しい楽園へと生まれ変わっていた。

 仲間たちがまだ、激闘の疲れを癒やすように眠る中、俺は一人、アレアと共に朝日を眺めていた。


「なあアレア、ちょっと試したいことあるんだけどいい?」


 俺はおそるおそる、かつてのように「創世の権能」を発動させようとする。だが、以前のように身体の奥から力が湧き上がってくる感覚はない。ただ隣に立つアレアと間に、深い繋がりを感じるだけ。


「当たり前です。その力の『所有権』は、もう私にありますから」

「あー、やっぱりそうなるんだ。……ってことは俺、ただの人間に戻ったってこと? 第三の選択とか言ってたけど……結局二択に収まったのか」

「いえ。所有権は移りましたが、『使用権』は、私達の繋がりの証として残っています。……カイ、イメージを私に送る感覚で、スキルを発動してみてください」

 

 俺は、朝靄に濡れた聖地の一輪の花を思い浮かべる。

 そのイメージが、アレアにも流れ込んだようだ。

 俺がそっと掌を差し出すと、掌の上に、美しい光の花がふわりと咲いた。


「おお!!」


 力は、俺の意志だけでは使えない。アレアとの、二人による共同作業になったのだ。

 そして何より、以前のような魂を削られる感覚や、心が冷えていく副作用は、完全に消え去っていた。


「アレアを介して、変わらず創世の権能は使えるってわけか。……なんか、今までのいいとこ取りみたいだな」

「これで、カイの力が暴走することもないでしょう」


 半分こになった神様の力。

 力が一点に集中せず、分散するのは良いことだ。

 ──そして何より、俺より遥かに経験豊富なアレアに最終決定権があるのが頼もしい。俺が早とちりでスキルを暴発させることもなくなる。

 創世の権能という規格外の力を一人で背負い込むことがなくなり、ようやくスローライフに一歩近づいた気がした。

 

   ◇◇◇


 俺たちは、聖地の浜辺で待機していたリオンの艦隊へと帰還した。

 俺たちが船のタラップを上がったその瞬間。

 甲板にいた数十のシレジアの船乗りたちが、それまでの静寂を破り、地鳴りのような大歓声で俺たちを迎えた。


「うおおおおおおおおっ!!! お前ら! カイ様御一行のお帰りだ!!」

「よくぞ、ご無事で……! よくぞ、この世界を守ってくださった!」


 屈強な船乗りたちが目に涙を浮かべ、帽子を空に放り投げ、狂喜乱舞している。

 リオンが、誇らしげに俺の肩を叩いた。


「ご覧ください、カイ殿。これが、世界からの答えです。私たちが戦っている間、世界は滅亡の恐怖に震え、その運命に抗う英雄への期待に胸を躍らせながら……我々の帰りを待っていたのです。さあ、魔法通信で大陸中に勝利の報告を致しましょう!」


 通信士が各国に勝利を伝えると、次々と報告が上がってくる。


「ルディア本庁より緊急通信! アイゼン=ノルド暫定執政官より! 『ジェイル殿は困った置き土産をしてくれたものだが……皇子の遺志、確かに受け取った。必ずやり遂げる』との伝言です!」

「王都グランマリアより! グラード筆頭宰相が『……カイ殿も、アルディナ陛下もよくぞご無事で。民が帰りを心よりお待ちしております』とのことです!」


 アルディナは、ジェイルの名代として帝国を任されたアイゼンの言葉に、静かに目を伏せ、亡き若き王を偲んだ。

 俺はその光景を前に、自分の戦いが、自分が思っていた以上に、この世界の多くの人々の想いを背負っていたのだと、今更ながらに実感した。


 船上は、さながら世界を救った英雄たちを讃える、洋上の大祝賀会と化した。

 その歓喜の輪から少し離れた場所で、ユランが船乗りたちから差し出された巨大な樽いっぱいの果物を、夢中になって頬張っていた。


「おお、神獣様は林檎がお好きか!」

「こっちの蜜柑もいかがですかい!」


 これまでの戦いでは神々しいまでの威厳を放っていた彼が、今はただの食いしん坊の馬のように、幸せそうに果物を平らげている。そのギャップに、船乗りたちは大喜びだ。

 俺がその光景に微笑んでいると、ユランがこちらに気づき、口をモグモグさせながら、一つの真っ赤な林檎を、角で器用にこちらへと転がしてきた。


「……いかがですか、我が主」


 その可愛らしい仕草に、俺は思わず吹き出してしまった。



「ああ、もらうよ。ありがとう、ユラン」


 俺は差し出された林檎を持ち上げ、ひらひらと振った。

 ユランからもらった果実……どんなご馳走よりも、贅沢で、美味しく感じられた。


   ◇◇◇


 祝賀ムードの艦隊は、最後の目的地「始まりの図書館」へと針路を取った。

 二人の姉妹を、ミリスに会わせるために。

 図書館の扉を開けると、そこには、本の山に埋もれてぐうたらしているミリスの姿があった。

 その姿を見た瞬間、これまで一番はしゃいでいたはずのレイナが、ぴたりと動きを止めた。


「……ミリス姉様……」


 その声は、いつもの自信に満ちたものではなく、姉に叱られるのを待つ、妹のそれに変わっていた。

 ミリスは、面倒くさそうに顔を上げた。

 そして、レイナの後ろにはにかむようにして立っている、緑の髪の女性の姿を認めると、その冷静な瞳を、驚きに大きく見開いた。


「……え、はぁ!?」

「……まあ、驚くよね」


 ミリスの驚愕によって、アレアの表情が女神から「姉」へと戻った。

 

「……アレア、姉様……?」

「……ただいま、戻りましたよ。ミリス」


 長姉であるアレアが、穏やかに微笑む。

 ミリスはしばらく呆然としていたが、やがてふいっと顔をそらし、眼鏡の位置を直しながら、ぶっきらぼうに言った。


「……いや、まさか本当に生き返るなんて思ってなくて……。私の計算だと、成功確率は0,0001%以下だったんだけど……またあんたの仕業ね?」

 

 その素直じゃない言葉。

 だが、俺は知っている。あの時の「力を貸せ!」という叫びに、この図書館から、確かに一筋の知の光が送られていたことを。

 アレアは全てを悟ったように、優しく微笑んだ。


「……確率だけじゃ説明できないことも、この世にはある。カイとレイナの絆、そして私たちの絆が……その『不可能』を現実へと変えたのでしょう。ミリス、貴方がいなければ、私たちはまた顔を合わせることすらできなかった。ありがとう」

「え? いやべべ別に私は何もしてないけど! ただあの男の子の無茶な計算式に、暇つぶしで便乗してみただけだから! 絆とかどうとか知らないから!」

 

 顔を真っ赤にしながら、早口でまくし立てるミリス。

 その、しっかり者でも素直になれない「真ん中っ子」に、アレアとレイナは顔を見合わせ、五百年ぶりに、三人で声を上げて笑い出した。

 ミリスの鉄仮面が、完全に崩れ落ちる。

 彼女は照れ隠しに眼鏡を外すと、姉の元へと駆け寄った。


「……ごめんなさい、あの時、何もできなくて……」

「いいんだよ、ミリス」


 アレアは、泣きじゃくる妹の頭を優しく撫でた。


「ミリスは、自分の役割を誰よりも誠実に果たしてくれた。……ずっと、一人で辛かったでしょう」

「え、なんか私が自分の役割を果たしてないみたいな言い方」


 レイナが頬を膨らませた。


「いや、お前は果たせてないだろ。実際俺みたいな化け物生み出してるわけだし」

「ひどい!! 私の最高傑作を……」

「人を作品扱いかよ」

 

 その会話に、またそこら中から笑いが起きた。

 500年の時を経て、ようやく再会を果たした三姉妹。

 その涙と笑顔に満ちた光景を、俺たちは温かく見守っていた。

 俺は、隣に立つフィオナの手を、そっと握った。

 彼女は驚いたようにこちらを見たが、すぐに、最高の笑顔で、その手を強く握り返してくれた。


「三柱の女神問題はこれで一件落着、か……」


 俺は大きく伸びをして、図書館の埃っぽい空気をめいっぱい吸い込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ