表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない  作者: 葉泪 秋
聖地決戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/120

111 君の名のスローライフ

 教祖は消滅した。

 だが、暴走した儀式は止まらない。

 聖地が、そして世界が、本当の崩壊を始める。大地は裂け、空は赤黒く染まり、次元の亀裂から「無」が溢れ出してくる。

 仲間たちは、その終末の光景を前に、なすすべなく立ち尽くしていた。


「……ここまでか。……ゴウラン、グレン、ジェイル、すまぬ……」


 バルハが天を仰ぎ、散っていった友の名を叫ぶ。


「ひでぇ結末だな、こりゃ」


 ザルクは拳を握りしめ、後ろに倒れ込んだ。


「……ハハッ。腕一本賭けたってのに……ついてねえな、俺の人生は……」


 ラズが力なく笑い、地面に座り込む。


「カイ……! カイ、どこだ! 最後に、もう一度……!」


 フィオナが涙ながらに、瓦礫の中を彷徨う。


「……私は、最後まで主のそばに……!」


 ユランが真っ直ぐな目で俺の隣に立つ。

 そして、レイナ。運命を司る女神は、自らが紡ぎ出してしまった最悪の運命を前に、全ての力を失い、ただ泣き崩れていた。


「こんな……はずじゃ……! こんな結末のために、私は……! ごめんなさい、アレア姉様、ミリス姉様……ごめんなさい、カイ様……!」


 そんな阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、ただ一人、呆れたように空を見上げている男がいた。ノアだ。


「……おいおい、マジかよ。……なあ、カイ。とんだクソゲー掴ませやがって。……で、どうすんだよ、これ……」


 儀式の中心で、俺の魂は、暴走するアレアの力の奔流に飲み込まれようとしていた。

 意識が、消える。

 何もかもが、終わる。

 その、完全な無に包まれた瞬間だった。

 俺の魂の奥底から、いくつもの声が溢れ出してきた。

 忘れてはいけないもの。聞こえないふりをしては、いけない言葉たち──。


『カイ、おかえり!』

『村を……頼んだぞ……』

『僕……役に、立てましたか……?』

『これからもよろしくな、旦那!』

『……最後に、友ができて、よかった……』


 ミナの声。グレイさんの声。トモの声。ラズの声。ジェイルの声。


『大事なのは、転ばないことじゃないの。転んだ後に、ちゃんと痛いって泣いて、また立ち上がることなんだから』

『完璧なヒーローより、一緒に悩んでくれるただの男の子のほうが、ずっとカッコいいのに』


 母さんの声。初恋の人の声。


 そして──。


『弱いところを見せてくれて、ありがとう。……そんなあなたこそ、私にとって、愛おしくてたまらない、佐久間遼なのだ』


 フィオナの声。

 ……そうだ。

 俺が「神に等しい力」を持っているのは、この、誰もが絶望に心を支配され、諦めがつくような状況を無理やりねじ曲げるためじゃないのか。

 ここで俺も諦めて、力を出し惜しみして、仲間たちと心中するのが、本当に幸せだと思ってんのか!?

 俺の目指してきたスローライフがこれで終わりって、本当にそれでいいと思ってんのか!?


「──ふざけんなッ!!」


 俺は、魂の底から絶叫した。

 ミリスが、星詠導師が提示した残酷な二択への、最後の反逆を。


「俺は、佐久間遼を捨てる気も、カイ=アークフェルドの心を失う気もねぇ! あと、アレア! あんたを、これ以上一人で苦しませる気もねぇんだよ!!」


 俺は、二人の女神に呼びかけた。


「力を貸してくれ、ミリス! レイナ!」

「アレアを復活させるんじゃない! 俺と、『繋げる』んだ!!」


 その、あまりに傲慢で、非現実的で、自己中な願い。

 それに、二人の女神が応えた。

 図書館から、ミリスの知の光が。

 泣き崩れていたレイナから、最後の運命の糸が。

 そして、俺自身の創世の権能の全てが、一つに束ねられていく。


「──第三の選択だ!!」


 俺は、暴走するアレアの魂の奔流を、逃げることなく、その身で真正面から抱きしめた。

 破壊ではない。支配でもない。 

 ただ、理解するために。共に、歩むために。


《……あ……》


 その瞬間、俺の意識の中に初めて、優しくて、温かい女神の声が響き渡った。


《あなたが、私を……?》

《ああ。あんたが一人で背負ってきたもの、これからは俺も半分持つ。だから、もう、大丈夫だ》


 俺の魂と、アレアの魂が、レイナの運命の糸によって、固く、優しく結ばれていく。

 禍々しい紫色の光は、完全に消え去った。

 代わりに、聖地全体を、朝日が昇るかのような、どこまでも温かい、黄金の光が満たしていく。

 世界の崩壊は止まり、枯れ果てていた聖地の草木は一斉に芽吹き始めた。

 時間が再び、動き始めたのだ。


 光が収まった時、俺はそびえ立つ世界樹の目の前に座り込んでいた。

 周りには、疲れと困惑の混じった表情した仲間たちがいる。

 

「カイ……?」

 

 フィオナが、目を丸くしてこちらを見つめる。

 彼女はすぐにこちらへ駆け寄ろうとしたが、俺は手を前に出して制止した。


「ストップ」

「え……?」

「身体ボロボロなんだから、急に動いたら痛いだろ」


 今度は、俺の方からフィオナのもとへ歩み寄った。

 そっと、抱きしめる。


「……世界は、崩壊しなかったのか……?」


 ガランが呟く。


「……ああ。そうらしい」


 ザルクが、ニヤリと笑いながら言った。

 全員が喜びを分かち合い、抱きしめ合う。


「……おい旦那、あれ……」

「ん?」


 ラズが指差す方に目を向けると、祭壇の上には、少し照れたように、はにかんで微笑む、緑の髪の女性──アレアが、実体化して立っていた。


「……ありがとう。私の想いを、忘れずにいてくれて」


 彼女は、五百年の孤独な眠りから、ついに目を覚ましたのだ。

 俺は、彼女の元へ走り、その小さな手を優しく握った。


「ああ。──おかえり、アレア」


 その歴史的な光景を、仲間たちは息を呑んで見つめていた。

 だが、その荘厳な静寂を、一つの絶叫が粉々に打ち砕いた。


「姉様あああああああああああっ!!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ