表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない  作者: 葉泪 秋
聖地決戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/120

110 光と影の狂想曲

 俺たちの反撃は、あまりに脆いものだった。

 英雄たちの魂の輝きも、聖地の力を完全に掌握した教祖の前では、消えかけの灯火に過ぎなかった。

 バルハの爪は砕かれ、フィオナの剣は地に落ち、俺の魔力もまた、砂漠の砂が風に攫われるように尽きようとしていた。

 仲間たちが、次々と地面に崩れ落ちていく。

 壊滅寸前。

 教祖は倒れた俺たちにとどめを刺すべく、聖地全体を巻き込むほどの、最大級の「消滅の呪い」を練り上げ始めた。空が、夜よりも暗く染まっていく。

 誰もが、死を覚悟した。

 創世の権能をフル活用して……いや、もはやそんな次元の状況ではない。 

 その絶望的な沈黙を破ったのは、これまで後方で静かに仲間を支援していたジェイルの声だった。


「──させてたまるか……!」


 彼は自らの胸に手を当て、静かに目を閉じた。その顔には、もはや恐怖も、後悔もない。ただ、自らの役割と悟った、王としての静謐な覚悟だけがあった。


「……俺の友の未来を、貴様のような亡霊に、奪わせてなるものか!」


 彼の身体から、凄まじい魔力のオーラが噴き出した。

 自らの命と魂のすべてを、一瞬の破壊力へと変換する、禁忌の贖罪魔法。


「ジェイル! やめろ! お前の償いは、そんなんじゃねぇだろ!」

 

 命をかけて償う。俺が否定した生き方を、ジェイルがしようとしている。

 お前は生きて、帝国を立て直すことでその罪を償うんじゃなかったのか。


「……もう、誰も死なないでくれ!」

 

 俺は、喉が潰れるほどに叫んだ。

 だが、ジェイルは俺に向かって最後に一度だけ、穏やかに、そして心の底から晴れやかに微笑んだ。


「──カイ。貴公と出会えて……最後に、友ができて、良かった。……これが、俺にできる、最後の償いだ」


 その穏やかな笑顔を見て、止めることなど出来なかった。

 次の瞬間、彼の身体は一つの紅蓮の槍と化し、教祖が放とうとしていた消滅の呪いと、正面から激突した。

 轟音。閃光。

 聖地全体が、二つの神の御業の激突に激しく震える。

 やがて光が収まった時、教祖は深手を負い、大きく後退していた。

 だがその代償として、ジェイル=イゼルは口から血を流して倒れていた。


「ジェイル!!!」


 俺はすぐにジェイルに駆け寄った。

 口元を動かして、何かを伝えようとしている。

 俺は、彼の口元に耳を近づけた。


「……帝国を……」

「帝国を?」

「帝国を、アイゼン=ノルドに託してくれ……」


 アイゼン。彼は死の間際で、バルディア帝国の最高指導者を任命したのだ。それも、かつては敵対していた王都グランマリア出身の彼を。

 帝国の立て直しを頼むと言ったら、アイゼンは間違いなくしかめっ面になるだろう。ただ、確かに彼ならやり遂げてくれる気がした。


「……わかったよ」

 

 俺がそう答えると、ジェイルは微笑み、目を閉じた。

 ……心臓の鼓動が、止まった。


「……ジェイル……」


 友の死。

 そのどうしようもない事実が、またしても俺の闘志を打ち砕く。

 俺の心が絶望に染まりかけた、その瞬間だった。

 教祖の背後から、一つの影が音もなく姿を現した。


「……ギリギリ間に合ったみてぇだな!!」


 ノアだった。

 彼は消耗しきった俺の無様な姿を一瞥すると、心底呆れ果てたように、どこか必死な形相で絶叫した。


「おいおい、お前、何やってんだよ! お前前世に続けて、今世でもそんな無様な死に方するつもりか!? ったく、つくづく救いようのねぇ魂だな!!」

「……ノア……!?」


 か細い声で、俺は彼の名を呼んだ。

 ノアは俺の前に立つと、その掌を俺の胸に当てる。彼のスキル「等価交換」が、禍々しくも力強い光を放った。


「俺の前世の記憶と引き換えに、お前のスキルを今この瞬間だけ、極限まで強化する」

「お前……何やってんだ!! やめろ! それは、お前が『橘圭吾』だった唯一の証だろ! そんな大事なものを……!」


 俺の激昂に、ノアは初めて、穏やかな、吹っ切れたような笑みを浮かべた。


「……俺の記憶なんざ、今の俺にとってはただの足枷でしかねえからな。……決めたぜ、佐久間。俺は、お前にベットする」


 スキルが発動する。

 ノアの瞳から、前世の「勝ち組」としての傲慢な光が消え、代わりに、この世界で生き抜いてきた「ノア」としての、純粋な闘志だけが宿った。

 同時に、俺の身体に、これまでとは比較にならないほどの膨大な力が流れ込んでくる。「創世の権能」が、一時的に神の領域へとブーストされたのだ。


 光と影。

 俺と、もう一人の転生者。

 俺たちの、最後の共闘が始まった。


「先に言っとくが……俺はお前に勝ってほしいわけじゃねぇ。ただ、還し手に世界を崩壊させられるよりはマシだと思ってるだけだ」

「そう思ってくれてるだけで十分さ」


 俺は笑ってみせた。


「──行くぞ、橘!」

「あぁ? 俺の名前はノアだよ! 来い、佐久間!!」


 俺が創造した光の足場を、ノアが音速で駆け抜ける。

 教祖が放つ呪いの弾幕を、ノアが「等価交換」で吸収し、その力を俺が「創世の権能」で聖なる槍へと再構築し、撃ち返す。

 ジェイルの犠牲によって生まれた、ほんのわずかな好機。

 それを、俺とノアは一瞬たりとも無駄にしなかった。

 二つの全く異なるスキルがこの瞬間だけ、完璧にシンクロしていた。


「ユラン! まだいけるか!?」

「当然です」


 俺はユランに乗り、教祖の元へ突撃した。

 

岩礫弾(ロックバレット)!!」


 教祖の脳天を、撃ち抜いた。

 教祖はその予測不可能な連携の前に、完全に翻弄され、ついにその場に膝をついた。

 

「馬鹿な……! そんな馬鹿げた能力に、私の秘術が……」

 

 ……死んでない、だと……?

 俺とノアは、とどめを刺すべく最後の力を練り上げる。


「……見事だ。人の子らよ。だが、もう遅い!」


 彼は自らの心臓を抉り出し、それを最後の贄として祭壇に捧げた。

 死なばもろとも。最後の儀式。

 アレアの神核が暴走を開始し、聖地が、そして世界が、本当の崩壊を始める。

 アレアの不完全な復活が、始まってしまったのだ。


「儀式さえ始まればこちらのものだ……お前はここにいるだけで、女神再誕の贄となる!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ