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第9話 辺境伯令嬢と禁域・封域

あれから数日……。


防具屋で試着や採寸したり、道具を買って第16ダンジョンの第1層で大鶏やグレイウルフを刈って毛皮や肉を納品したりして比較的のんびり過ごした(なおレベルは上がっていない)。


「しかし皆さん、商人だというのにまるで達人のように俊敏に動き剛腕で薙ぎ払っていますね」


朝……には少し遅い時間帯。


人はオレたち以外既にいないのか宿の従業員以外は見かけられない。


なので4人程座れる座席を2つ繋げ、クロウ含めて8人で座っていた(もちろん従業員に許可はとってある)。


ちなみに床ではシロとアルジェントもおり大鶏の肉の干し肉を食べている。


そんな食事中にそう話を振ってきたクロウ。


「……なんか問題あるのか?」


「いえ。全く? ただ……」


少し間をおいてから


「――能力の高さや武器屋の一件をもみ消してるとは言え、女神ヴァリアベル様の右腕にして調停と裁判の代行者ジャッジメントが姿を見せたことで、女神は皆様を注目しているのでは、と上の方々が関心を向けてるようですよ」


と告げる。


反射的にリエルの口を塞ぐアリーシャ。


なにしろジャッジメントは『リエルの前世である女神アストレイアが作り出した自分の代行者』なのだ。


製造責任者として反射的に間違いを訂正するために喋ろうとしたのをアリーシャのファインプレーで抑え込めたのだ。


……クロウはそちらに意識が向いてないので反応してないな、ヨシ!


「ソイツは困った。適当にドロップアウトしようかなって思ってたんで」


「――それは困りますね」


オレたちは声の方を向く。


そこにはいかにも貴族のような服に身を包んだ若草色の髪の美女と、オレたち(10代後半?)くらいの黒髪の娘が立っていた。


「! これはこれは、アストリッド様、ソフィア様!」


反射的に立ち上がり頭を垂れるクロウ。


瞬間的に鑑定を使う。


アストリッド・レイラ・クレイドル Lv■■■

種族 ロア・エルフ(先祖返り)

メインジョブ:大魔道士Lv■■■ サブジョブ:弓使いLv■■■

未セットの経験済みジョブ:■■■


ソフィア・フィエラ・ラーゲルクヴィスト Lv■■■

種族 人間(混血)

メインジョブ:統治者Lv■■■ サブジョブ:魔法使いLv■■■

未セットの経験済みジョブ:■■■


2人の能力値やレベルが見えない。


……鑑定の技能はそれなりの熟練度があるのに見えないとすると……2人の実力が鑑定者より隔絶してることを示している。

つまりどちらもレベルでおれより圧倒的に上なのは間違いないだろう。


そう分析してると2人が品のある所作で名乗りだす。


「転移者の方々、お初にお目にかかります。私はソフィア・フィエラ・ラーゲルクヴィスト。皆様の後見人となりましたラーゲルグヴィスト辺境伯家の長女です」


「私はアストリッド・レイラ・クレイドル。ラーゲルクヴィスト家に仕え、今はソフィア様の従者をしています」


2人の挨拶のあと、オレは間髪入れずに返す。


「オレは荒谷川義久。そっち風に言い直すとヨシヒサ・アラヤカワになる」


「ワタシはリエル・マリア・バレスティン、デス!そっちと同じでリエルが名前、バレスティンが家名デス!」


「アリーシャ・フェン・オルトリーエ。リエルと同じく名前がアリーシャ、家名がオルトリーエです」


「万里小路伊織。そっち風に言えばイオリ・マデノコウジだな。こっちのはオレの双子の妹のユナだ」


イオリの言葉に由奈がペコっと頭下げ。


「オレは鳴神原恭二。そっち風に言うと……(キョウジ・ナルカミハラ)キョウジ・ナルカミハラだ」


「私は小鳥遊魅音と申します。そちらの流儀に合わせますとミオン・タカナシです」


「こちらに合わせたお名前も名乗っていただけてありがたいです」


ふふっと笑う辺境伯の御令嬢。


「しかし後見人ってどういうことだ?」


恭二は喋ったあと首を傾げた。


「それは召喚による転移者の数が想定を超えた場合、一部の転移者を貴族が後見するという取り決めがされていたからです。これは古い文献で前回の勇者召喚にも無関係の者が多数紛れていて、庇護の許容限界を超えて王家が傾きかけたことに起因します。」


アストリッドが予め答えを用意していたように淀みなく答えた。


「つまりオレらは穀潰しの可能性高いから召喚された直後の確認であんたらに不良債権として押し付けられて、今日は庇護対象について自領への連れ帰りか様子見か……はたまた始末でもしにきたか?」


恭二の言葉に魅音がビクッとしたが、恭二が反射的に肩に手を置いて落ち着くよう促す。


いいカップルだよな……(他人事)


「単なる顔合わせ、必要なら我が家の領地への移動の提案……目的としてはこのくらいです。もちろん移動提案については急ぎではございませんのでご安心を」


チラッとイオリを見る恭二。


スキル持ちのオレより嘘判別精度の高いので妥当ではあるのだが複雑。


どうやらイオリもアイコンタクトで嘘ついてないが……伏せてることがありそう、とオレと同じ結論を伝えてきた。


「急かす事ができないだけで急かしたいのが本心ってところか?」


「!」


オレがヘイトを集める目的で問いかけると、二人の表情に少しだけ驚きの色が入った。


「……オレたちはレベル1だしビビリだから、ある程度の段階まで安全なレベリングがしたい。そっちが環境を用意できるなら、このまま宿を引き払うのも問題ないが……」


オレの言葉に計算を始める貴族の2人。


そこに魅音が、口を開く。


「ところで世話人のクロウさんは王家に戻る形なんです? できれば引き続き世話人でいてほしいのですが……」


「辺境伯家で多少現環境に色を付けて雇用していただけるのでしたら、私は王家から暇を貰いますよ。なにしろ世話役として王家が雇用した没落貴族の次男坊なので」


「それ仮初の……まあ良いでしょう。クロウさんにつきましては、雇用条件について後で詰めるとして雇用前提で話を進めましょう。安全を確保しつつのレベル上げについてもこちらで対応は可能です。あとはそちら次第ですね」


アストリッドの発言でクロウの立場とアストリッドの辺境伯での立ち位置が大体確定したので頭の中にメモしてる調査の優先順位から外しつつ、話を進める。


「なら決まりだな。 挨拶とかもしておきたいから、夕方か……明日には出発できるはずだ」


「挨拶といってもギルドの人とか武器屋の人、教会の司祭さんくらいですからね」


アリーシャが指折り数えて頷く。


「ちなみに、ワタシたちそちらの領地が何処にあるのか知らないんですけど、テリオスから相対的に東西南北どっちにあるんです?」


リエルが思い出したように尋ねる。


「東です。大陸の中心にして大陸西部の最果て……『封域・幽玄渓谷』と『禁域・灰雨山脈』に領地の過半を囲まれた、陸の半島と言っても過言ではない場所です」






「禁域と封域について?」


ギルドにてオレたちは運良く暇を持て余しているミレイユさんを捕まえて確認を取ることにした。


「先ず封域から説明すると『私たちのいる空間とは異なるルールで支配された空間』で、広い定義ではダンジョンとかも該当するわ。狭い定義では『通常とは異なるルールで支配された空間のうち、侵入・踏破には特定の条件を満たす必要があると判断されたもの』が封域に指定されてるわ」


「たまにここの冒険者が話してた『天空の未踏水没遺跡』とか『黄天の無底領域』とか『黒亜の逆さ城』とか、そういうのも該当するのか?」


イオリが思い出すように問いかけると頷く。


「そうね。未踏遺跡なら侵入に飛行と水中の両方が必須だし、無底領域なら縄や縄を大地に付けるための投擲物が弓矢あるいは飛行能力が必需品。逆さ城は装備や持ち物面の見直し無しだとほぼ詰みになるし……おっと」


咳払いするミレイユ。


「ともかく封域は『準備無しだと侵入や踏破出来ないエリア』ととりあえず思っておけばいいわ」


「んで、禁域ってなんだよ」


恭二が問いかける。


「順番に説明するから……禁域は封域の中でも侵入・踏破において致死率が5割超え確定してるモノを指しているわ。何れも世界共通で立ち入りを原則禁止にしてたり不文律で入らないようにしてるわね。このレイアード大陸だと、中心を東西でほぼ分断してる『灰雨山脈』や踏破不可と判断されたダンジョン『共食いの冥宮』、100年以上上り続けても頂上にたどり着けないと言われている『楽園の塔』がそれに該当するわね」


「最後のやつは純粋にオレたちの寿命が足りねぇだけで、エルフ……?とかなら踏破可能なんじゃ……?」


イオリが問いかけるとミレイユがうーんと悩ましい声を出す。


「当時最強と呼ばれたエルフ4人のパーティーが挑んだとあるけど。……『ほぼ同じようなこと』を繰り返し続けて発狂し自殺していき、最後の1人が正気を失って塔の窓から飛び降りたのが100年目だった……とか言われてるわ」


「「「やばすぎる」」」


「とりあえずこんなところね。……短い間だったけど、また会えると信じてるわ」


ミレイユさんの言葉にオレたちは頷く。


その後武器屋のおっさんに挨拶したり教会の司祭様に挨拶し、支度を整える。


翌日、オレたちはラーゲルクヴィスト辺境伯領へ辺境伯令嬢とともに向かう馬車の旅が始まった……。

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