第1話 異世界への転移と奇跡のウォッチ
普通の高校生、藤井健は、何の変哲もない日常を過ごしていた。学校から帰ってきた健は、ネットで注文していた最新型のスマートウォッチが届いたのを見て、小さくガッツポーズをした。
「おっ、やっと届いたか。どれどれ…」
箱を開けると、中には洗練されたデザインのウォッチが収められていた。光沢のあるスクリーンと、未来的なフォルムが目を引く。
「すげぇ…これ、ほんとに俺の手に馴染むな。よし、早速つけてみるか。」
健は腕にウォッチを装着し、タッチパネルを操作し始めた。
「うーん、これが設定画面か。意外と簡単そうだな…あれ?なんだこれ?」
突然、ウォッチが眩しい光を放った。健は驚き、腕を見つめる。
「えっ、何だよこれ!?え、ちょ、眩しいっ!」
次の瞬間、健の視界は真っ白になり、体が宙に浮くような感覚に襲われた。
目を覚ました健が感じたのは、見知らぬ場所に立っているという現実だった。見渡す限り、背の高い木々が生い茂る森。風の音、鳥の鳴き声、そして澄んだ空気。すべてが現実とは思えなかった。
「……ここ、どこだ?」
健は呆然と立ち尽くしながら、辺りを見回した。見たこともない景色に、心臓がドクドクと音を立てている。
「夢…か?いや、これが夢だとしてもリアルすぎるだろ…」
その時、腕のウォッチが再び光り始めた。画面には、見慣れない文字とアイコンが表示されている。
「なんだよ、今度は…?」
慎重に画面を覗き込むと、音声が流れ始めた。
「異世界モード:起動。状況確認中です。」
「異世界モード…?なんだよそれ…」
健は目を見開いて、さらに画面をタップする。
「転移先を確認しました。現在、未知のエリアに存在しています。安全確認を行い、目的地に向かってください。」
「転移先…?いやいや、待てよ。異世界って、本気で言ってんのか?」
混乱する健の頭に浮かぶのは、これが何かの冗談か、ウォッチの故障ではないかという疑念だった。しかし、見渡しても近代的な建物は見えず、すべてが自然そのものだ。
「……マジなのか、これ。」
健は深呼吸をして気を落ち着けると、画面に目を戻した。そこには見慣れない項目が並んでいた。
メインメニュー
1. 探索サポート
2. 戦闘サポート
3. 日常生活サポート
4. 魔法解析
5. データベース
6. ヘルスモニター
7. 回収モード
8. 設定
「まるで、ゲームみたいだな…」
健は思わずつぶやいた。画面の構成やアイコンは、まるでRPGのメニュー画面のように見える。
「とりあえず、"探索サポート"ってやつを試してみるか。」
健は画面をタップすると、目の前に小さな地図がホログラムのように浮かび上がった。現在地と目的地が矢印で示されている。
「おお、これなら道に迷わず進めそうだな…すげぇな、これ。」
健は地図を確認しながら、足を進め始めた。木々の間を抜け、少しずつ前に進む。だが、その胸には大きな不安が渦巻いていた。
「でも…これからどうするんだ。家に帰れるのか?それとも…」
自問自答しながら進む健。その時、地面が小さく揺れ、奇妙な音が耳に届いた。
「……なんだ、この音?」
後ろを振り返ると、遠くの茂みが揺れているのが見える。健の体は瞬時に緊張した。何かが近づいてくる――それが本能で分かった。
「やばい、何かいる…!」
次の瞬間、茂みから姿を現したのは、巨大なモンスター――バグベアだった。二足歩行で、鋭い爪と赤い目が健をじっと睨んでいる。
「な、なんだよあれ!?化け物か…!?」
バグベアは低い唸り声を上げながら、健に向かってゆっくりと歩み寄ってくる。その姿に、健は体がすくんでしまった。
「や、やばい…こんなの、どうすればいいんだ…!」
その時、ウォッチが冷静な音声を発した。
「戦闘サポートを起動します。モンスター:バグベアを確認しました。戦闘を開始しますか?」
「戦闘…?どうやって戦えって言うんだよ!俺、武器なんて持ってないぞ!」
「選択肢を提示します。"戦う" または "逃げる"」
「逃げる…?いや、こんなのから逃げ切れるわけないだろ!」
健は混乱しながらも、意を決して「戦う」を選択した。すると、ウォッチが次々と新たな指示を出し始めた。
「戦闘サポート:召喚機能を使用します。適切なペットを召喚し、戦闘を支援しますか?」
「召喚って…本当にそんなことができるのか…?」
健は疑いながらも「はい」を選ぶ。すると、眩しい光が目の前に現れ、その中から狼が現れた。
「な、なんだこれ…狼?これが召喚されたペットなのか…?」
狼は健の足元に寄り添うと、鋭い目でバグベアを睨み、低く唸った。
「マジかよ…でも、これで戦えるかも…!」
バグベアは唸り声を上げてこちらに向かってくる。健は震える手で地面に落ちている石を拾い上げ、狼に向かって声をかけた。
「頼むぞ!お前だけが頼りだ!」