【09 他の組の二回戦(3)】
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・【09 他の組の二回戦(3)】
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「じゃあそろそろ僕はこの辺で準備があるから」
そう言ってクリップワニくんがこの部屋から出て行った。
確かにクリップワニくんは勿論、ねずくんもスタブリさんも出番がまだなんだよな、と思った。
僕だったら普通に緊張して観るどころじゃなかったかもしれない。
さすがベテラン勢だなぁ、と思っていると、さっき終わったばかりのオヤヤッサンがなんとこっちの部屋へやって来た。
この人って他人のネタに興味ある感じじゃないから、ビックリしていると、オヤヤッサンが開口一番こう言った。
「またニコとスタブリがしっぽり行為を行なっちゃってるでぇい!」
指差して笑っているオヤヤッサンに僕は不快感がマックスになった。
何でこんなヤツが実力者な世界なんだ。
もっと謙虚に努力している人が上にいく世界であれよ。
枯チューはオヤヤッサンを指差しながら、こう言った。
「あっ、裏での態度最悪なヤツだ!」
するとオヤヤッサンは腰を激しく前後に振りながら、
「裏ではオフパコでぇい!」
と叫んだ。
ただただ最悪だった。
オヤヤッサンはそのままスタブリさんに近付いていったので、さすがに僕が壁になるように、スタブリさんの前に立つと、オヤヤッサンは僕の腰を掴んで、一発自分の股間を僕のお尻に当ててきて、
「オヤヤッサンはどっちでもイケるでぇい!」
すると枯チューが本気のトーンで、
「いやマジでやめろって」
と言ったんだけどもオヤヤッサンは構わず、
「次はスタブリを狙うでぇい!」
と言ったところでスタブリさんが、
「じゃあ私は次の準備があるので」
と言って逃げるように去ってしまった。
オヤヤッサンはまた前後に激しく腰を振りながら、でもゆっくり歩き(腰を振るほうを優先しているので)部屋を出て行った。
マジで露悪的過ぎる。
この世界は実力主義なので、あんなヤツでも生きていられてしまうのだ。
僕たちがテレビで見ているような日本の芸能界はこんな感じじゃなさそうだけども。
みんな裏で真面目に努力している雰囲気だが、こっちの世界はもう本当にダメ過ぎる。
あういう下ネタ野郎に甘いところがあって、苦手だ。こんなんで本当の笑顔になれるはずないだろ。
枯チューが深い溜息をついてから、
「まあオヤヤッサンってずっとあういう人だからなぁ」
「あういう人で済ませられるのも困るけどね」
と僕が矢継ぎ早に言うと、ねずくんが、
「悪気は無いんねずよ、あれが面白いと思っているだけねずから」
「じゃあ本当にたまたま今ウケてるだけの人ですね」
と僕が嫌味ったらしく言ってしまうと、
「それがこの世界に合ってるねずねぇ、僕たちがしっかり正統派のネタで勝たないといけないねずね」
とねずくんが笑顔でそう言った。
まさしく、と思って僕は強く頷いた。
そんな会話をしていると、次のグループが始まった。
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ピーマ「結構いい感じのネタできました!」
ナイト「最初にそういうこと言ってもいいのかな……」
【ピーマン騎士:ピーマナイト】
《ねずくんのように顔だけがピーマンの人間・ピーマと、中世の騎士のような恰好をし、仮面をしている・ナイトのコンビ。ピーマのほうはピーマンに優しい顔が張り付いているような感じだ》
ピーマ「ピーマンに何を詰めたい? やっぱりお肉?」
ナイト「クールに氷というのもアリなんじゃないかな」
《滑らかなスタート。このコンビは声を張ったりするタイプじゃないので、優しく始まる》
ピーマ「焼いたら溶けちゃうじゃん」
ナイト「焼くことはマストだったんだ」
ピーマ「もっと美味しいレシピを作って、集にしようよ」
ナイト「集にしたい計画があったんだ、じゃあそうだね、イカとかは?」
ピーマ「売ってないじゃん、一般的な場所には」
ナイト「そこそこあるほうだよ、イカは」
ピーマ「どこに売ってるか教えてよ」
ナイト「……」
ピーマ「どうしたの、黙って」
ナイト「背中で語っている」
ピーマ「いやイカの売り場って背中で語ることじゃないよ」
ナイト「まず肩甲骨をお肉売り場として」
ピーマ「地図みたいな話なら、紙とペンで言ったほうがいいよ」
ナイト「肩甲骨の右、そこがお魚売り場」
《このあたりでヒートアップしてきて、テンポも上がっていく》
ピーマ「いやお魚売り場の話はいいんだって!
イカの話をしているんでしょ!」
ナイト「いやイカってお魚売り場にあるから」
ピーマ「そうなのっ? 初耳だよ!」
ナイト「ピーマンとお肉にしか興味無さ過ぎるよ」
ピーマ「お菓子も見るよ、ハイチュウ大好き!」
ナイト「あっ、小学生みたい」
●●●
尻切れトンボというか中途半端な台詞でネタが終わって暗転。
その中途半端具合もウケている感じだ。
点数は悪くなさそうだけども、と思っていると、ねずくんが、
「ピーマとはホント親近感を抱くねず」
と言っていて、やっぱりそうなんだ、と納得してしまった。
点数は87点、まずまずだ。
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ソニュ「絶好調!」
とろん「ミートゥーだとろんー」
【同率日本一可愛い:ソニュトラ】
《紹介VTRが流れた。三頭身の妖精のような見た目をした・ソニュと、子供用のゴーカートくらいのサイズのとろんさんのコンビ。控えの時に見かけた時はだいぶ緊張しているような面持ちだったけども果たして》
とろん「僕たちはバディモノという意識を持ってもらいたいとろんー」
ソニュ「分かったよ、私と貴方はバディモノ、統一しましょう」
とろん「えっ、何をとろん?」
ソニュ「意識を統一しましょう」
とろん「じゃあ合ってるけども……」
ソニュ「というわけで私、事件探してきます」
とろん「いいよ、そういうの」
ソニュ「えっ、バディモノって解決では?」
とろん「そういう疲れることはしなくていいよ」
ソニュ「じゃあどういうバディモノを……意識、統一したい……めそめそ」
とろん「泣かないで! 泣いちゃったらとろんさんも泣いちゃうとろんー」
ソニュ「二人で泣くしかないようね……」
とろん「そんなぁ……うわぁ~ん」
ソニュ「めそめそ」
とろん「めそとろんー」
ソニュ「めそそぬー」
とろん「こんな悲しい回はこれで最後にしよう」
ソニュ「うん、そうね……」
とろん「終わり! というわけでバディするとろん!」
ソニュ「とろんさんのバディモノって何なの?」
とろん「まあ近所付き合いみたいなことだね、おやつのタッパ交換しよう」
ソニュ「それすごくいい! 私! すごい美味しいの持ってくるんだから!」
とろん「ソニュちゃんは何を持ってくるのかなぁ、とろんさんは桃にしよう」
ソニュ「はい! 肉じゃがの残り!」
とろん「ひゃー! とろんさんは肉なんて食べないよー! 明日は我が身!
バディ解消だ!」
ソニュ「そんな……めそそぬ……めそぬ……」
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この世界は確かにオヤヤッサンのような下ネタ野郎もウケる。
ただそれ以上にもしかしたらこういう可愛いコンビがウケるかもしれない。
可愛いキャラが可愛いボケをしている、それだけでみんなほっこり笑ってしまうのだ。
トップバッターがオヤヤッサンならまた別の空気になっていたかもしれないが、今回のトップバッターはピーマナイトだったので、なおさら優しい感じがウケる土壌ができていたと思う。
結果は95点、大爆発だ。
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ロペス「勝ちたいです」
ジェン「ハッキリ言うんだ」
【外国人によるコント:トザマ】
《僕たちの世界で言うところの欧州系の外国人二人組。僕たちの世界の公用語は日本語なので、日本人みたいな見た目の人が一番多い。何故だかは分からないけども。そもそも何で日本語なんだろうか。この世界のトップは日本人なのか? そもそも日本人がこの世界に移民としてやって来たのだろうか。何も分からない。この世界はそういう歴史を習わない。あんまり学校でも大した勉強はしないし、何故か日本がある、地球の歴史を習う。このあたりの疑問を誰かに話したこともない、と思っているとネタが始まった》
ロペス「シャンデリアを作りたいです」
《ロペスは独特の、ふわふわした声で喋る。言葉に空気がふんだんに含まれているような》
ジェン「専門的だね」
《対するジェンは高音のだみ声っぽい、ツッコミとしてとても通る声で喋る。声も特徴的なコンビだ》
ロペス「1から8まで」
ジェン「10まで自分で作りなよ」
ロペス「最後は職人に任せます」
ジェン「安心だけども」
ロペス「まずシャンデリアの図案を書きます」
ジェン「本格的だね」
ロペス「ここで7までいきました」
ジェン「そんなことないよ、それが1だよ」
ロペス「あとは職人用のおやつを買って終了です」
ジェン「7から8がそんなわけないでしょ」」
ロペス「シャンデリア作ったら、
シャンデリア掛ける場所でぶら下がりたい」
ジェン「それ要員だったら庭にうんてい作ったほうがいいよ」
ロペス「うんていはダメです。肩脱臼するからー」
ジェン「じゃあシャンデリアでもする」
ロペス「シャンデリアはお洒落パワーで大丈夫です」
ジェン「ロペスのやっている行動がお洒落じゃないからダメだよ」
ロペス「いや大丈夫です。シャンパン飲みながらするからー」
ジェン「シャンデリアっぽい周辺を浮かべてるだけ。脱臼には関係無い」
ロペス「シャンパンで酔ってシャンデリアで揺れて、もはや宇宙ー」
ジェン「そんなことで無重力気分を味わおうとしないでよ、もういいよ!」
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僕は結構好きだったが、会場はまずまず、と思ったところで枯チューが、
「ちょっと可愛いの空気になっていて、浮いちゃったな」
僕は同調するように、
「本当トップバッターの質によって左右されるからね、ネタバトルは」
ねずくんも後を追うように、
「そうねずねぇー、だから決してトップバッターが不利なわけではないんねずねぇ」
こうやってネタを鑑賞しながら観るってやっぱり楽しいな、と思った。
トザマの点数は89点。ピーマナイトを越えて暫定2位だ。
ソニュトラは進出決定。今回のネタでは噛んでいなかったし、どうやら慣れたらしいなぁ。
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クマ「まあ三太のせいだよね、負けたら。勝ったら僕のおかげ」
三太「とにかく勝てば負の感情抱かないようです」
【何が出るかな:ふくぶくろ】
《こちらはモジラとワン太型で、全身がクマのぬいぐるみのような感じで、かつ、お洒落な服を着ている・クマと、サンタクロースのぬいぐるみのような感じで、ふわふわ可愛い・三太のコンビ。三太は人型のぬいぐるみ型という珍しいタイプだ。何でも自由にいるこの世界の幅の広さは一体どこから来ているのか》
クマ「僕『原始人かよ!』ってツッコミたいから、そういうボケして」
三太「誘導するなんて難しいな、ちょっとした脳トレだよ」
クマ「原始人かよ!」
《矢継ぎ早にツッコんだクマに、三太が慌ててツッコむ》
三太「いやまだまだ! まだだし、違う! 原始人脳トレしない!」
クマ「するかもしれないじゃん、だから最速だと思った」
三太「違うよ、最速と言えば鳥を捕まえるために投げる石の速度でしょ」
クマ「あぁ、そう……なの?」
三太「ここで『原始人かよ!』だよ!」
《と、今までで一番張った声でツッコんだ三太。ここからどんどんツッコミの声が増していくだろうな》
クマ「分かりづらいよ、そういうのマジで止めて下さい」
三太「マジの忠告をされてしまった……ショックで竪穴住居の穴に隠れる」
クマ「竪穴住居は縄文時代だから、原始人ではないよ」
三太「マジのダメ出しもされてしまうとは、
こんな言われるなんて、マンモスに詰められてるくらいつらい」
クマ「そういう表現する人だったんだぁ」
三太「いや『原始人かよ!』でいいんだって! 本来しないよ!」
クマ「いや原始人につらいって感情無いでしょ、何も考えていないでしょ」
三太「そんな酷い言い方! 石の斧投げつけるぞ!」
クマ「そういう時、暴力で解決しようとするヤツ、マジお察し」
三太「マジお察しじゃなくて! 『原始人かよ!』なんだよ!」
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三太の張ったツッコミが入る度、会場は揺れるようにウケていた。
これはもう一ウケかなと思っていると、点数は95点でソニュトラと一緒。
というかこのグループ、レベルが高すぎる。
ここだったらアウトだった、そう思った。
結果はソニュトラとふくぶくろが勝利。
ふくぶくろはベテラン勢。今も実力が衰えていない。
対するソニュトラは異世界勢で、初めてネタを観ているコンビ。
ただ常連のウシモくんやドムリさんの知り合いらしいので、要注意かもしれない。